第17話 日食

日食


「君は、僕と来るのかい?」

・・・・・・俺は首を縦に振った。

孤児院で名前も知らない小さな女の子が引きとられ、その流れと言わんばかりに俺はスーツの集団と大きなひげを生やしたおじさんに引き取られそうになっていた。

俺はそれを頑なに拒んだ。嫌だったのだ。


どうしても、あの人ともう一度会いたかったから。

俺をあの日、救ってくれたあの人に。

何故その人が俺のことを救ってくれたのかはわからない。何故その人に会いたかったのかもわからない。だけど、あの日見た涙にどこか、俺は魅かれてしまったのだ。

泣いている彼の深い悲しみの中に、表現しきれない何か温かい感情を感じたのだ。

だから、そう言われたときは嬉しさと安心で泣いた記憶がある。

家族を失い、名前を忘れ、何者でもなかった俺を受け入れてくれたのが、繋一さんだった。


「うーん、名前を憶えていないのか・・・・・・でもいろんな手続きには名前が必要だし僕がつけるか!」

繋一さんは何日も考えていた。

これじゃない、あれじゃない。と頭を抱えながら名前が書かれた半紙をポイポイと床に捨てていく。

俺はその半紙を丸くして遊んでいたら、手が汚れちゃってるからその手で目をこすっちゃいけないよとも言われた。

そして、引き取られて二週間ほど経ってようやく名前は二つまで絞られていた。


「ここまでは、絞れたんだけどな・・・・・・優しい人になってほしいから優人(ゆうと)か、それともずっと人間らしい幸せな日々を送ってほしいから在人(あると)か・・・・・・僕は此処まで絞ることができたけど、君はこの二つならどっちがいいかな?」


繋一さんは二つの名前が書かれた半紙を俺に見せてくる。

気合を入れていたのか墨汁があたりに散っていたり、何日も掃除もせずにずっと考えていたので、くしゃくしゃに丸まった半紙が無造作に床に転がっていた。


「わからない。けど、かんたんそうだからそっちがいい」

俺が指を指したのは『在人』の文字だった。書くのが簡単そうだったからそっちの名前にした記憶がある。


「そっか!そっちがいいか!よし、そうしよう!」

繋一さんは俺の頭を撫でて俺の名前を命名した。新たな名前を決めることは大人になった今では相当重要な事であると理解している。しかし、その当時の俺はそんな重要性など、微塵も気にしていなかった。

だけど、どうしてだろう。その名が書かれた半紙を見た繋一さんの目は、とても慈悲深くて今でも時々思い出すのだ。そのおかげか、俺はよく自分の名前のことを思い出す。


「じゃあ、君は今日からアルト!立花在人だ!」


俺はまたしても見覚えがめちゃくちゃある天井を見ていた。

救護室の天井である。

懐かしい夢を見た。俺が覚えている限り、一番昔の明確な記憶である。

もしかしたら、よく繋一さんがそのことを語っては懐かしそうに、そして面白がっていたので記憶に残りやすかったのだろうか。

15年前のことなので定かじゃないが、どこか安心する夢だった。

しかしな・・・・・・

体の力が出ない。というか、腹が減った。

とりあえず、俺は救護室のブザーのなるボタンを押すのだった。


10月20日

11時

どうやら5日間も眠っていたらしい。


「アルトさん・・・・・・」

チヨの顔も久々に見た気がする。


「帰ってくると信じていました」

そう言っているが、チヨの顔は疲労で疲れ切っているようだ。

かなり心配をかけたようだ。


「当たり前だろ、チヨ一人残してぽっくり逝っちまうなってこと、俺にはできないっての」


「何言ってるんですか!アルトさん!何回この五日間で心臓が止まってと思っているのですか!?」

チヨが我慢できないとばかりに泣き始めた。


「えっ!?俺実質何回も死んでたってこと!?」

チヨが首を縦に何回も振る。

すると、救護室の扉がゆっくりと開く。


「まあ、その話は後にしよう。まずは今の健康状態のチェック。そして、栄養補給だ」

そう言って救護室に入ってきたのは、旦那だった。


「アルト。申し訳ない。君にはまた危険な目に遭わせてしまった。そしてチヨ君、君からまた大切なものを奪いかねなかった。申し訳がない」

旦那・・・・・・

アンタはもういろいろと謝りすぎなんだよ。


「しゃあねえよ。これは俺が選んだ道だ。それに今、俺は生きていてちゃんと旦那やチヨと合って話ができてる。ならいいんだよ」

本当にその通りだ。

例え何回死にかけようとも、俺はしっかり戻ってきた。

ちゃんとチヨと会えている。

なら、いいんだ。


「確かに、アルトさんが自分から選んだ道です・・・・・・私はアルトさんを止めたくない」

力のない声だったが、きっとそれが本音なのだろう。

チヨは物事に関して、かなりはっきりという方だからな。


「君たちは聖人か何かなのか?だがそれでは・・・・・・」


「旦那、俺もう腹が減っちゃって。ご飯食べたい!食堂って空いてるか?」

また旦那が面倒なことを言い始めそうなので俺は旦那の言うことを遮った。


「あ、ああ。空いているが・・・・・・歩けるのか?」

俺はヒヨッと身軽にベットの上から起き上がりジャンプして床に足を着けた。

旦那とチヨが俺を見てとても驚いた表情を見せる。どうやら、起きてすぐにするような行動ではなさそうだ。だが、身体がやけに軽く感じる。


「大丈夫みたいだ。じゃあ健康診断の前にご飯食べてくるわ。チヨも来る?」


「・・・・・・食べませんけど、行きます」

声がどこかぎこちない。相当びっくりしているようだ。


「じゃあ旦那、また後で。ご飯食べたら連絡するから」


「あ、ああ。行ってらっしゃい」

俺は唖然とした旦那を救護室に残してさっさと食堂へ向かっていった。

もう腹が減って減って仕方がないのだ。


食堂は昼時前ということもあり、スタッフが続々と集まってきていた。

しかし、その目線は食堂のメニューに向くことはなかった。

俺のテーブルの周りには大量の食べ物が置かれ、空の皿が何枚も置かれていた。

周りから見ればアニメや漫画で見るような光景が広がっているのだろう。

俺は無我夢中で口に食べ物を入れた。

体が以上に欲しているのだ。


「あ、アルトさん?そろそろ辞めておかないと体調に響きませんか」


「大丈夫、大丈夫。チヨも食べるか?」


「いえ・・・・・・結構です・・・・・・」

チヨが軽く引いているようだ。

こんな光景見るのは初めてだろう。

何せ俺もこんなに喰っているのは初めてだからな。


「そうだな、とりあえずここに置いてあるもの食べ終わったらな」


「「まだ食うのかよ!!!」」

スタッフがいっせいに突っ込んできた。

そんなことはお構いなしに俺は黙々と食べ続けるのだった。

その後、本部の食堂の完売と書かれた看板が初めて使われたと知ったのは後のお話。


俺は食べ終わってから俺とチヨは旦那に連絡して健康診断のため救護室の裏にある診察室へ足を運んだ。


「アルト君、無事に起きたかい?」


「ええ。おかげさまで。五体満足です」

この人は救護室で医師をしている方だ。


「だけど、起きたばっかりの体にその食事量は多すぎるんじゃないか?」

先生は俺の腹を見つめて引いたような顔をする。


「すんません、あまりにも腹が減ったのでつい」


「まるでつまみ食いしたかのような言い方だけど、ついって量じゃないよね。というか胃袋どうなっているんだ?」

さあ、と俺は返して今まで俺が寝ている最中の体の様子と現在の様子を調べてもらった。

旦那も遅れて到着して、おれの腹を見て驚愕していた。


「な、なんだこれは!?」

先生が俺の体の内部を映した写真を見て仰天としていた。


「なんですか?俺の腹がそんなにすごかったんですか?」


「もうお腹のことはいいんです!それよりこれを皆さん見てください」

写真には俺の内臓器官や筋肉などが細かく映っていたが、どこも何か血管のようなものがうっすらと浮かび上がっている。

極めつけに心臓部の形がなんか変だ。


「これはどうなっいる藪(やぶ)よ」

旦那が先生に問いかける。

この人の名前、っていうのか。この名前で良いのか?医者の設定だろう?


「端的に言いましょう。アルト君の体はただの人間の構造ではなくなってきています。別の一般の方の写真も上げます。こちらにはアルト君の写真に写っているような線のようなものがありません。心臓部に関しては人体の形跡が残されていない。アルト君?本当に大丈夫なのかい?」


とても当たり前のことを聞かれてしまった。

逆に不安になるような質問だ。

しかし、もう俺には俺を人間と証明してくれる人がいる。

だから、俺が人間でなくなることは絶対にありえないのである。


「俺は俺ですよ、先生。みんなの知っている立花在人です」

先生はホッとしたように肩を下ろす。しかし、顔は真剣さを保っている。


「前回、犬の化物との戦いで負傷した際は、このような事にはなっていませんでした。ですが、前回の時点で回復の速さは異常なものだった。

ですが、今回は5日間も眠り、心臓も合計8回止まりました。私は完全にお手上げ状態でした。龍治さんが何か力のようなものを注いでいましたがそれも果たして効果があったのか、私にも龍治さんにもわかりません。それでもあなたは生きて帰ってきた。よく戻ってきてくれました」

8回、8回か・・・・・・

結構死にかけたみたいだな。


「旦那、力みたいなものを注いでくれたって言ってるけどそれってなんだ?」


「体氣という以前俺が言っていた戦時中に使っていた武術の根幹の技術だ。まあ簡単に言えば、体内のエネルギーを意図的にコントロールして爆発的に増やしたり、相手に与えたりできる技術だ」


「そんなもんがあるのか、すげえな」

そんな漫画みたいな技があるのか。今度教わってみよう。


「俺は獣とアルトの戦いは見れていないが状況は飛月と五代から聞いている」


「あ、そうだ!飛月と五代!あいつらは!?それにやつは!?」

すっかり忘れていた。俺は負けたのだ。

だけど、どんな負け方をしたんだ?記憶が残っていない。


「二人なら無事だ。怪我も何一つしていない。紫陽花病にも侵されていない。獣に関してはアルトとの戦い以降出現を確認していない。二人を守ってくれてありがとう。聞いたぞアルト、二人を巻き込まないために遠くへ運んだって」


「いや、勢いありすぎたから怪我させてないか不安だったんだけどな」

二人は無事だったか。守れたのなら、それ以上のことはない。


「それで続きなんだが、俺は状況しか知らないからそのうえでの考察といこう。相手は大型の獣。恐らく俺が倒した個体よりも大きいだろう。火炎を吐き、強力な突進をする。

顔一つふっ飛ばしても何ともないタフさ。

そして何よりも、あの舌か。二人の話だと、アルトの胸の龍玉からエネルギーのようなものを吸い取っていたように見えたらしい。その後、アルトは倒れこんだと聞いた。一体あの時、何があった?」

俺は考える。頑張って思い出そうとする。


「ごめん、旦那。実はなんも思い出せないんだ。紫の蝿みたいなバケモンを倒して、ラッパの音聞いて、やばいと思って二人を遠くにやって、笛の音が聞こえてきて、虹色の光に包まれたところまでしか覚えてないんだ」


「なっ、それは本当か!?」


「でも、負けたっていうことは完全に認識してるんだよな。よくわかんないや」

俺は首をかしげる。不思議なもんだ。

俺の体で戦っているのに俺本人の意識がないなんて。

旦那が考え込む。


「まるで、アルトさんの代わりに誰かが戦っているみたい」


「確かに、俺の代わりに戦ってるみたいだ。でも、人の体でボコボコにされたくないな~」

俺とチヨが思ったことをそれぞれ話す。


「まさか!?」

考え込んでいた旦那が顔を上げて大声を出す。


「どうしたんだよ旦那?何か思いついたのか?」


「まさかだと思うが、コード:ファーストが代わりに!?」

なんだ、そのコード:ファーストって?


「龍治さん。あの、そのコード:ファーストというのは?」

チヨが俺の代わりに聞いてくれた。


「そうだな、このことはまだ説明していなかったな。コード:ファーストというのは君の前任者のことだ」


「それって、前に言い伝えの話でミー子さんが言っていた・・・・・・」


「ああ、その人物と同じだ。正体を隠したまま世界政府が作り上げた強化人間を相手に戦い抜き、世界政府の重要な施設や機関のほとんどを潰したとされている。そして15年前にこの星のどこかにあるとされる岩戸と呼ばれる場所にたどり着き、そこの隠された扉をこじ開け、そこに住んでいるとされた龍宮の乙姫の怒りを買ったとされている。

俺も龍神の遣いになりこの世界にたどり着いたときに脳内に流れた情報だったが、本人の名前や目的、どこにいるのかという情報は一切知ることができなかった。恐らく本人が意図的に流さなかったのだろう。理由はわからないがな・・・・・・」


15年前というと・・・・・・

あの災害の時、そして繋一さんに助けてもらった時と一緒の時期だ。

もしかしたら、コード:ファーストが起こした災害から繋一さんは俺のことを救ってくれたのかもしれない。


「だけど、そのコード:ファーストが俺の代わりに戦うという仮説において、何故俺の代わりに戦っているんだ?」


「さすがにそこまではわからない。若しくは、アルトと金の力の波長が合わないから代わりに戦うしかなかったのか」


「なんだ。その波長ってのは?」


「まあ適合、いや相性というべきかな。人間にはそれぞれに見合った『色』がある。しかし、金色は人間の色には本来は該当しない。

つまり、俺の知る限りだと前例がアルトと『黒色』を持つ飛月しか知らない。自分の色と合わない色を使用した人間がその力を使い果たしてしまったらどうなるか、俺はわからなかったのだ。

それもあって俺は焦った。それでできる限りと思い俺の氣を送っていたのだが、俺の力関係なしにアルトは帰ってきた。これに対する結論としては・・・・・・


1に恐らく何者かがアルトの代わり戦った。この場合は正体不明のコード:ファーストだが、動機は不明のままだ。


2に何者かによる意図的な適合率の低下、もしくはアルトと金の力の適合率が低すぎた影響で最悪の事態を回避した。


3にアルトが特殊な状態にある。例えば今のような身体がだんだん人で無くなる代わりに最悪な状態を回避している。まあこんなところだろうか。どれかが当たっているかもしれないし、全て外れているかもしれない」

旦那が一通りまとめてくれた。


「でも、人間態の時は戦っている記憶はあるんだ。なんでだと思う、旦那?」

そうだな、とまた旦那が深く考え込む。


「すまない、そこまでは俺にもまだわからない。コード:ファーストが情報を俺に一切流さないのだ。岩戸を開いた罰で何かを下されたのかもしれない」

そのコード:ファーストって人はわからないけど、結構悪い事してしまったのだろうか。

岩戸や龍宮の姫ってのはよくわからないけど、それは今度聞こう。


「あの、私、話についていけなくて・・・・・・でも、私たちがUFOに襲われたときに今までどこかに行っていたコード:ファーストという人がアルトさんの中に入ってそこから金色の力を得たんですよね。でも、今回龍治さんから聞いた話だと獣にその力をもってしても負けてしまった。何か打開できそうなことはあるんですか?」


「チヨ、聞いていたのか?今回のこと」


「当然ですよ!何回も死にかけて何が原因で起こったのかを聞かないほど私は冷静にはなれませんよ。それに空の闇は此処まで来ていたんですから」


「マジかよ。あの闇ここまで来ていたのか」

もしかして、獣がどっかわからな空間からこっちに来たらずっと続くんじゃないか?

世界が闇に包まれる。

まるで世紀末や神話の世界のようだ。


「打開策か・・・・・・もしかしたら、これが今の現状を打開できるか、もしくは何か知ることができるのかもしれないが・・・・・・」

そういって旦那が胸元から出したのは、一冊の本のようなものだった。

相当年季が入っているのか、表紙がボロボロになっている。


「それ本が?一体どんな本なんですか?」


「そうだな、本来極秘のものだがこの際どうでもいいか。これは『日食の神託』というものだ。これはかつてこちらの世界の第二次世界大戦中にある神社で神託が下され、その内容を収めた書物なのだが、何か記号のようなものに書き換えられていてな。俺が元居た世界でも似たような書物があり、それが原因で俺の故郷は壊された」


「え!?そんなに何か知られてはいけないことが書かれているのですか!?それに『俺の世界』って一体・・・・・・話のスケールが大きすぎます・・・・・・」

チヨがそのことを聞いて驚愕する。まあ驚くのも無理はないけど。


「まあその話はまた今度するとしよう。俺が元居た世界では神託の内容の大部分が解析されていて、それが政府や世界に不都合だったために消されたが。この世界にあるものは一切解読ができていない。それにこの世界でこの神託を下ろしたのは婆さんだ。何かあっても俺がカバーできる」

このわけのわからん文字をミー子さんが書き下ろしたのか。

てか、すげー量あるな。


「婆さん本人もこの文字は解読できないようだ。どうやら昔の時代の文字をさらにぼかしたようなものだという推測があるが・・・・・・」


「え?私読めますよ?何故だかはわかりませんけど・・・・・・」

チヨがキョトンとした顔で俺たちに向けてとんでもないことを口にした。


「はっ・・・・・・!?え!?チヨ君!?これが読めるというのかい?」


「はい。でも、何かの言葉のようで・・・・・・学校とかで学ぶ他の国の言葉でもなく、この国の言葉でもないですけど」


「えっと、チヨさん。龍治さんの言う通りもしかしたらその本の中にあの獣を倒すための情報があるかもしれない。読んでもらってもいいですか」


「わ、わかりました。じゃあまずはこの一番上に書いてあるものから・・・・・・チホ、ラサイニソヤフヘムビウロヨナリゼ、トミ、ナリヘリウド。ヤナミンゼリウド。

トミ、チホギホポヘイホミヘマザセハユナリド。ロヨナリポツイヤレエ。マソナリホ、ヨノトミタアユレンヤアヂドユホヤムウド」


・・・・・・チヨはわけのわからない言葉を言い始める。

俺には何を言っているのかはわからないが、どことなく龍之国の言葉に近いものを感じた。


「ん?どこかで聞いた記憶があるような、それに意味も分かる。

人、あまりにも勝手すぎる行いで、星、泣いているぞ。悲しんでいるぞ。星、人々を敵として定めたくないぞ。行いを振り返れ。さもないと、この世は楽園から地獄とかするぞ・・・・・・と言っているようだ」


「・・・・・・なんてリアクションすればいいのか全然わからないんだが」

チヨは謎めいた文字を読めるし、旦那はその言葉を訳せるし・・・・・・

旦那が頭を抱えて頑張って思い出そうとしている。


「そうだ!俺が聞いた龍宮の乙姫の声と一緒だ!まさか、古代文明の言葉だったのか!?」


「いや、まずはなんでチヨがこれを読めるのかじゃないか!?チヨ、大丈夫か!?俺が寝込んでる間になんか悪い物でも食べたんじゃないよな!?」


「しませんよそんなこと!いい加減その過保護やめてください!もう私も子どもじゃないんですから!ですけど・・・・・・私にもなんでこの文字?が読めたのかはわからないです」

びっくりである。理由こそ不明であるがチヨに隠された才能があったようだ。保護者としては新たな才能を開花させた嬉しさと何故そんなことがという心配が五分五分といったところだ。


「ですが、これを私が読めるということは・・・・・・」


「ああ!解読できるかもしれない!チヨ君がこの古代文字を言語化して、俺がこの国の言葉に解釈する!そうすればこの現状の打開策になりえるやもしれん!」


「じゃあ!アルトさんに協力できるんですね!よかった!」

チヨが嬉しそうな顔をする。

できれば巻き込みたくないけど、今の俺じゃ何も対応はできない。

ならば協力してもらうしかない。


「チヨ君、ありがとう!とても感謝している!だが、君はここの職員ではなく学生だ。それに受験勉強もあるだろうから、休憩時間の時でもいい。どうかこの本の読解の手伝いをしてはくれないか?」


「はい!もちろんです!」

チヨは心の奥底から嬉しそうな笑顔を浮かべる。

きっと9月5日の件から俺のことを心配してくれていたのだろう。

事情は聞かないと言ってはいたものの気にならない方が無理というもの。

それに俺が満身創痍で帰ってきたなんて聞いたら気が気じゃなかったはずだ。

頑張ろう。チヨをこれ以上巻き込みたくないし、獣が町に現れたら悲惨な事にもなりかねない。

俺は再三になるが、戦い抜こうと決意するのだった。


「しかし、この神託の内容・・・・・・あまりにも不穏すぎやしないか、旦那?」


「ああ、星が人類の敵になりかねないか。古代文明との王との契約上星自体が人類すべてを滅ぼすのは不可能だろう。しかし、数を減らすというのはできる」


「もしかしたら、それが以前ミー子さんの言っていた魂の洗濯ってやつなのかもしれないな」


「ああ。今後チヨ君と共に解読していき、逐一アルトに報告していくとしよう。だが、内容が内容だけに人が知るには早すぎるものがあるかもしれない。下手に知らせ過ぎて、バカげた推測が飛び交ったり、社会的な混乱は避けたい。それが俺の世界のような惨劇を再び生み出してしまうかもしれないからな。だから俺や長倉、それにアルト。3人の判断で後世に何かあるまで閲覧できないようにしておきたい。それでもいいか?」


「もちろんだ。神の力に頼り切ってちゃ人間の底力ってのがなくなっちゃうからな」

神託・・・・・・それは一体俺たちに何を教え、何をさせようとしているのだ?

それに、何故チヨはそれを読むことができたのだろうか・・・・・・

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