最終話 2人の気持ち

 桃はニヤニヤと笑みを浮かべた。


「へぇ……。姪っ子がいないとはどういうこったい?」


「うう」

(こ、このままではバレてしまうわ!)


「さては、甥っ子だな! この部屋に集められた熊ちゃんグッズは、全部甥っ子の物なんだろ! 男の子が熊ちゃんを集めているのが恥ずかしいから姪っ子と嘘をついたんだ!」


(ふぉおお! そう来たかーー!)

「そうよ。よく気がついたわね」


「フッ。やはりな。あたしの推理を舐めるんじゃねぇぜ」

(しかし、以前として、由利恵が熊ちゃんファンであるという疑念は捨てきれないんだぜ!)


「もう、夜が遅いわ。勝負はこれまでね」


「おいおい。勝手に終わらすんじゃねぇぜ! まだ、この熊ちゃんベッドで寝るというイベントが残ってんじゃねぇのかよ!」


「はぁ? このベッドは1つしかないのよ?」


「じゃ、じゃあ、一緒に寝るしかねぇじゃねぇか」


「な、なにぃいいいい!? 一緒に寝るだとぉおおおお!?」


「ククク。怖気付いたのか?」


 桃はおもむろにパジャマについているフードを被った。

 それは熊ちゃんの顔を模したフードで、丸い耳の付いた物だった。


「な、な、なんだそれはぁあああああああ!?」


「へへへ。どうだ? 熊ちゃんフードだぜ」


「ぐぬぬぬぅ」

(す、すさまじく可愛いわ。桃の小柄な感じと、熊ちゃんのフードが似合い過ぎているわ!)


 桃はピョンピョンと飛び跳ねた。


「きゅん!」

(ぐぉおお! 思わず、きゅんって言っちゃったわぁあ!!)


 由利恵は心臓の鼓動を鎮めながら、


「ちょ、ちょっと待ってなさい」


 別室に向かった。

 そして、しばらくすると、ジャージ姿で現れた。

 桃は驚愕する。


「ゲェエエエエ! そ、それはぁああ! 熊ちゃんジャージ大人用!!」


「フフフ。間違えてうっかり大人用を買ってしまったのよ。それを着ているというわけ」


「うう……」

(由利恵のスラっとした体型と、銀髪がジャージに映えるぜ。似合いすぎてて怖い……)


「じゃ、じゃあ……。い、一緒に寝ようかしら?」


「お、お、おう……」





 2人は熊ちゃんベッドに入った。

 1人用のベッドなのでなかなかに狭い。

 窓からは月明かり入って、部屋は神秘的な雰囲気があった。


「ねぇ。桃」


「な、な、なんだよ?」


「どうして、あたいのバイクを馬鹿にしたの?」


「……べ、別に本気じゃねぇよ」


「じゃあ嘘なの?」


「……ちょっと金がかかったカスタムしてやがるからよ。う、羨ましかっただけだぜ」


「なんで嘘なんかついたのよ?」


「あ、あたしん家は団地でよ。おまえん家みたいに豪邸じゃないんだ。バイクのカスタムだってカラーリングが精一杯だぜ」


「あ、あのバイク……。結構、可愛かったわよ」


「え?」

(ドキン……)


「き、聞こえなかったの?」


「あ、ああ……。もう一回言ってくれよ」


「あ、あのバイク可愛いって言ったのよ」


「うう……」


「なに、照れてんのよ」


「こ、この野郎……。あたしは照れてなんかねぇぜ」


「ふふふ。強がっちゃって。月明かりで顔が真っ赤なのがバレバレよ」


「るせぇ」


 桃は熊ちゃんフードで顔を隠した。

 そのままの状態で、


「由利恵のバイクもよぉ……。か、可愛かったぜ」


「うう」

(きゅん……)


「へ、へへへ……。あたしたち、仲直りしちまったな」


「そ、そういうことみたいね」


「このベッド、ふかふかだな。こんなベッドで寝れるなんて羨ましいぜ」


「じゃ、じゃあ……。また、泊まりにくればいいじゃない」


「いいのかよ?」


「そ、その代わり。あたいもあんたん家に泊めてよね」


「はぁ? あ、あたしん家は団地だぜ? めちゃくちゃ狭いんだぜ? それでもいいのかよ?」


「い、いいに決まってるでしょ! 一緒に寝れるんなら楽しいじゃない」


「まぁ、部屋が狭いから必然的に一緒に寝ることになるけどよ」


「じゃあ、約束よ」


 と、由利恵はニコリと笑う。

 月明かりに照れされて、さながら女神のよう。


「うっ!」

(この野郎! 笑顔がめちゃくちゃ綺麗じゃねぇか!!)


「じゃあ、はい」


 由利恵は小指を出した。


「な、なんだよ。それ?」


「指切りの約束じゃない」


「うう……」


「なに、真っ赤になってんのよ?」


「なってねぇ! つーーの!」


「はい。んじゃ指切りよ」


「お、おう」


 2人の小指が触れた瞬間。


「「 あ…… 」」


 思わず、声が出る。

 スベスベで柔らかい。

 そんな小指が、まるで蛇の求愛のように絡まった。


「「 ………… 」」


 そのなんとも言えない感触に2人はしばし見つめ合う。


「「 指切りげんまん、嘘ついたら針千本、飲ーーます 」」


 指を切るのが惜しまれるような、そんな空気が流れた。


「……ねぇ、桃」


「……な、なんだよ?」


「ほっぺた触ってもいい?」


「はぁ? な、なんだよそれ? 喧嘩の時はビンタしまくってたのによ」


「あの時はあの時よ」


「ったく。それを改まりやがってよ……」


「さ、触ってもいいの?」


「き、緊張するじゃねぇかよ……」


「さ、さ、触るわよ?」


「ど、どうにでもしてくれ。触りたいんならよ。か、勝手に触ればいいだろう!」


「じゃ、じゃあ……。さ、触るわよ?」


「お、おう……」


ドキドキ……。


 2人の鼓動が部屋に響く。

 由利恵の細くしなやかな手が、桃の頬をさすった。


「柔らかい……」


 桃は彼女の手を握った。


「由利恵の手……スベスベだな」


「桃のほっぺってぷにぷにしてて面白いわね」


「ったく。人をペットみたいに言いやがってよ」


「可愛い……」


「はっ??」


「…………」


「い、い、い、今なんて?」


「別に……」


「べ、別にじゃねぇっての」


「おやすみ」


「お、おい! 由利恵!」


「もう寝ましょうよ」


「うう……。このぉ……。人を揶揄いやがって」


「揶揄ってなんてないわよ」


「なにぃいい。じゃ、じゃあ、本心だっていうのかよぉ?」


あたいはいつも本気だよ」


「こ、この野郎……。そうやって澄ましてるのが気にくわねぇぜ」


「なによ。じゃあ、はっきり言って欲しいってこと?」


「ああ、女だったらハッキリしろっての」


「ふーーん。そう……。ハッキリ言って欲しいの」


「ああ。女らしくねぇっての」


 沈黙が流れる。

 

 由利恵は桃の目をしっかりと見つめた。





あたい。あんたのことが好きだ」





 一瞬。

 桃は時が止まったように固まった。


「な、な、な、な……」


「本心を言ったわよ。これで気が済んだかしら?」


「こ、こ、この野郎……」


「もうこれで満足でしょう。おやすみ」


「ま、待ちやがれ! このぉお」


「もう、なによ?」


「あ、あたしの気持ちは聞かねぇのかよ?」


「な、なによそれ?」


「ふん。怖いのかよ?」


「はぁ? な、なにが言いたいのよ?」


「自分の気持ちだけ言ってよ。あたしの気持ちを聞くのが怖いんだろ?」


ギク……。


「そ、そ、そんなんじゃないわよ」


「ふーーん。どうだかな?」


「だ、だったら聞こうじゃないのよ。あんたの気持ちをさ」


「おうよ……」


 由利恵はブルブルと震えた。

 そうは言ったものの、もしも、迷惑と言われたらどうしよう。

 そんな考えが頭の中をグルグルと巡ったからである。


 桃は小さな深呼吸を繰り返してから、





あたしは由利恵が大好きだ」




 

 由利恵は目を瞬いた。


「…………え?」


「ふん。聞こえなかったのかよ」


「あ、あの……」


「大好きって言ったんだぜ。どうだ? 参ったか?」


「な、な、な、なによそれぇええ!?」


「なにって本心を言ったんだろうがい! その綺麗な銀髪も、スベスベの肌も、強気な性格も、全部が大好きって言ってやったんだぜ!」


「あ、あ、あたいだってねぇ! あんたのことが、だ、だ……。大好きなんだから!!」


「なんだよ。今更」


「桃のピンクの髪とかね。ツインテールとか、プニプニのほっぺとか、強気だけど、本当は思いやりがあって優しいところとかね。ぜ、全部、大好きなんだからね!」


「ちょ、てめぇ! そういうの後出しジャンケンって言うんだぜ! 大好きって言ったのはあたしなんだからな!」


「狡いわよ! 好きって言わせた癖に!!」


「にゃにおーー!」


「「 ふん! 」」


 2人はそっぽを向いた。

 背をくっつけたまま、互いの温もりを感じる。


「じゃ、じゃあよ。……あたしたちは両想いってことじゃねぇかよ」


「そ、そ、そうなるわね……」


「ったくよ」


「なによ……」


「……手ぇ。繋いで寝るか」


「……うん」


 2人は手を繋いで寝るのだった。






 しばらくして、2つのチームが合併することになった。

 桃は高々と声を張り上げる。


「今日から、東京紅蓮我有流隊とうきょうぐれんがあるたい関東爆走音奴組かんとうばくそうおとめぐみは連合することになった。これからは関東爆走我有流隊かんとうばくそうがあるたいが爆誕した。てめぇら風を感じるぜ!」


 彼女たちは群れを成して爆走する。

 全員が原付のバイクである。


「てめぇら! 30キロオーバーは許さねぇからな!」


 もちろん、他の車の邪魔にならないように縦列走行である。法定速度の遵守は絶対だ。

 でも、広い道路の時だけは、桃と由利恵は仲良く並走するのだった。



おしまい。





──

初めての百合作品です。

どうだったでしょか?

感想、星の評価もらえたら嬉しいです。

読んでくれてありがとうございます。

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百合レディース〜あたいはあんたのことが大好きなんだよ!〜 神伊 咲児 @hukudahappy

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