第2話 熊ちゃんを溺愛する2人

「ちょ、え!? な、なんで桃がこんな所に来てんのよ!?」


「そ、それはこっちのセリフだぜ! 由利恵だってここにいる理由がわからねぇっての!」


「あ、あたいは……」

(えーーと、どうしよう。何か理由が必要よね。あ! そうだ!)


「め、姪っ子にね。買ってあげようと思ってね」


「ふ、ふーーん。そ、そうなんだ」


「桃はなんでここにいるのよ?」


「あ、あたしも姪っ子だな。め、姪っ子が好きなんだ。クマクマ熊ちゃん」


(白々しいな? 本当に姪っ子なのか?)


(や、やばいぜ。完全に疑ってやがる。あたしがクマクマ熊ちゃんの大ファンだってことがバレるのはまずい! ここは何か切り抜ける話題を見つけないと……。そうだ!)

「おや!? 女児用のパンツまで買っているのか?」


ギクッ!!


「え、ええ。まぁね。姪っ子が好きだからね」

(本当はあたい用なんだよぉお。絶対にバレちゃまずいわ)


「ふーーん。Lサイズってデカくないか?」

(この女……。まさか……)


「あは、あはははは! め、姪っ子は身長が150センチあるからね!」


「随分とデカい姪っ子だな」


「せ、成長期なのよ……」

(ヤバいわ。あたいが熊ちゃんファンだなんてバレたらいい笑い物よ。絶対に阻止しなくちゃ。えーーと、話題を変えてぇ……。あ!)


「それ! そのパジャマ!! 限定品のヤツじゃない!!」

あたいが変えなかったヤツ!)


「ハハハ。いいだろう。最後の一着だったんだぜ」


「ぐぬぬぬぅ」


「ハハハーー! これを買えただけでも今日は勝ち組かもな」


(ムキーー! 熊ちゃんグッズで勝ち誇られるとは思わなかったわ! ええい、あたいだって!)

「ジャーーン。これ、なーーんだ?」


「はっ!? そ、それは北海道限定のマリモ熊ちゃん!」


「買えたのかしら?」


「くぅう……。買えなかったぜぇ」


「ふふふ。これはすぐに売り切れだったものね」


「だったらこれはどうだぁ!! 限定熊ちゃんフォーク!」


「うっ! 可愛い! あ、あたいだって、限定熊ちゃんナプキンよ!」


「ぐふぅ! 可愛いぜ! だったらこれはどうだ! プレミアム熊ちゃんティッシュカバーだぜ!」


「なにぃい! じゃあ、こっちはプレミアム熊ちゃんゴミ箱よ!!」


「うぉおお!! だったらぁあ──」


あたいだってぇええ──」


 2人のやり取りは30分以上続いた。

 気がつけば両者共に肩で息をする。


「ゆ、由利恵。はぁ……はぁ……。おまえ本当に姪っ子のために買ってんだろうな?」


「あ、あんただって……。はぁ……はぁ……」


「「 ………… 」」


 しばらく睨み合う。

 口火を切ったのは桃だった。


「由利恵。おまえん家に泊まりに行くぜ」


「はぁあ? な、なんでそうなるのよ?」


「その感じじゃあ、貴重な熊ちゃんグッズをたくさん持ってそうじゃねぇか。その確認をしに行く必要がありそうだぜ」


「なんで、桃にコレクションを見せないといけないのよ」


「コレクションだと?」


「め、姪っ子のよ! あくまでも姪っ子の!!」


「フン! だったら、あたしも超貴重な熊ちゃんグッズを持って行ってやる。もちろん姪っ子のな!」


(ゴクリ……。超貴重な熊ちゃんグッズですってぇえ。み、見てみたいわ)


「けっ! 怖いのか? あたしに負けるのがよ?」


「ふふふ。熊ちゃんグッズであたいに勝とうだなんて、良い根性してるじゃない。いいわ。あたいの家に泊まりに来なさい! 超貴重な熊ちゃんグッズで度肝を抜かせてやるわ!」


「度肝を抜くのはどっちかな!? 勝つのはあたしだぜ!」


あたいだよ!!」


「「 ぐぬぬぬぅうう!! 」」


 こうして、桃は由利恵の家に泊まることになった。 

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