百合レディース〜あたいはあんたのことが大好きなんだよ!〜

神伊 咲児

第1話 それは運命のライバル


「何そのバイク、ダサ……」


 それは、彼女の言葉から始まった。


 ピンク色のツインテール。山口 桃は敵対する女暴走族、東京紅蓮我有流隊とうきょうぐれんがあるたいの総長だ。

 背は低いが胸だけはあたいより大きい。

 16歳の高校一年生。あたいのライバルである。


 生意気な奴。

 あたいのバイクをディスるなんて絶対に許せない。


 あたいは、桃に向かって平手打ちを放った。


パチーーーーン!


 ふふ。


「泣いて謝るなら許してやってもいいわよ?」


「やったなぁああ!」


 桃も平手を打ってきた。


 フッ。背丈はあたいの方が20センチ以上は高いんだ。

 あんたの攻撃なんか軽々と、


パチーーーーン!!


 なにぃいいい!?

 クリーンヒットだとぉ!?


「どうだ! 銀髪女!」


 な、中々に早いじゃない。


「ふざけんじゃないわよ。ピンク頭!」


「「 ぐぬぬぬぅ! 」」


 あたい関東爆走音奴組かんとうばくそうおとめぐみの新田 由利恵。

 17歳。総長をやらしてもらっている。


 こうなったら必殺技を使わなざるを得ない!


獅子牙砕平手ししがさいひらて!」


 あたいの平手打ちは獅子の顔を模した。


 ふっ!

 この技を喰らえばどんなレディースでも泣いて謝る殺人平手よ!


 しかし、桃の平手も普通ではなかった。


牙狼活殺邪連平手がろうかっさつじゃれんひらて!」


 なにぃいいいい!?

 平手の連打だとぉおお!?


「ぬぉおおお!! 獅子牙砕平手!」


「うぉおお!! 牙狼活殺邪連平手!」


 ペチペチペチペチペチッ!!


 2人の平手はそれぞれの頬に命中した。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


 喧嘩を終え、家路に着いた頃には頬が真っ赤に膨れ上がっていた。


「ちくしょう!! 桃め! 次に会ったら絶対に許さん!!」




 そうして日曜日。


 フフフ。

 今日はクマクマ熊ちゃんのイベントなのよ。

 百貨店で特別なグッズ販売があるんだ。

 絶対に行かなくていけないわ。


 クマクマ熊ちゃんとは小学生に大人気の女児向けキャラクターだ。

 可愛い熊を模したキャラクターなのである。


 あたいは愛車のバイクを走らせた。

 それはピンク色のアメリカンバイク。

 ハンドルは改造してカマキリのように長い。

 50CCのバイクなので小型で可愛い。

 鍵についたキーホルダーはクマクマ熊ちゃんなのだ。


 一応、あたいは暴走族の総長だからな。

 仲間たちにはこんな姿は見せられないぜ。

 こんな女児向けのイベントに行っているのがバレたらいい笑いものだろう。


 だから、メガネをしてハンチング帽子を深々と被る。

 所謂変装だな。


 そそくさとイベント会場に到着。


「ぐぬぅううう!」


 熊ちゃんグッズが勢揃い。


 ご当地しか買えない、全国熊ちゃん人形があるではないくぁあああ!!

 ぬほぉおお! 購入じゃあああ!!

 このコップ良い! タオルも可愛いし、このパーカーはオシャレだ。

 このTシャツは絶対に買いだろう。くふぅ! し、下着まであるのかぁ!

 熊ちゃんのキャラ絵がデカデカとバックプリントされたパンツは可愛すぎる。


「うう。買いだ」


 どうせ、誰かに見せるわけでなし。

 家で着る用に買えばいいのだ。


 気がつけば買い物籠には大量に熊ちゃんグッズが積まれていた。


「アハハ。ちょっと買いすぎちまったわ」


 悔やまれるのはパジャマだな。

 数量限定の特別品。品物置き場にはソウルドアウトの文字。

 ああ、買いそびれた。うう……。


ドン!


 うぉっと。

 

「きゃ!」


 しまった。うっかり女の人とぶつかっちまった。

 

 2つの帽子が床に落ちる。


 どうやら相手も帽子を被っていたようだ。

 まずは謝らねぇとな。


「す、すいません。うっかりしていました」


 そう言って、相手型の帽子を拾う。

 向こうもあたいの帽子を拾いながら申し訳なさそうに謝罪した。


「いえいえ。こちらこそすいません。前をしっかり見ていなかったんです」


 と、2人が帽子を渡そうとした時である。


「「 あっ!! 」」


 桃!!


「由利恵!!」


 なんでおまえがここに!?




────

全4話。

7千文字程度です。

よろしくおねがいします。

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