第21話

「統率班は基本的に、この本部テントで過ごしてもらう、な」


 カーテンを開けながら先生が言った。


「睡眠は各自、取りたいところで取る事、だな」


 女子テントに戻ってもいいし、此処で寝てもいいと言う事だろう。


「ウロサマ、ナギササマ! あと先生! ちょっといいですか?」


 黒貌に呼ばれる。


「別行動をとっていたウロサマの情報を共有したいです! 今お時間ありますか?」

「情報共有ならすぐ終わるよ。一分くらいかな」

「なんと! では少しだけお付き合いください!」

「わかった」

「承知しました」


 テレパシーを使えば、私の経験を伝える事など容易だ。

 全員に私の脳をつなげて、過去を振り返るだけでいい。


「!」

「お、おぉ……!」

「これが――!」


 皆思い思いに感動してくれて結構。

 私も気分がいい。


 しかし見せるところは選ばないと。

 あの夢の中を見せても仕方がないんだし。


「大翼の悪魔……学校と同固体、ですね」

「ああ……」

「やはり、そうでしたか」


「この姿は何ですか? テレパシーではないですよね!?」

「謎だ……」

「私にもわかんないだよね、これ……」


「やっぱりテレパシーって有用ですね……他にも応用できますかね?」

「確かにな……」

「……先生?」


 どう考えても様子がおかしいぞ。


 普通、人間の頭は別映像を同時に処理はしない。

 もし無理やりすると、脳に大変な負荷がかかり、オーバーヒートを起こしてしまう。

 結果として意識がもうろうとしたり、最悪そのまま死んでしまう。

 しかし、2つ程度なら慣れていなくても、普通の人間ならなんとか行ける物だ。


 つまり、この状況は先生の頭の出来を示していて……。


 名誉の為に、切るか。


「――はっ危ない。夢を見ていた」


 アウトである。


「で、でもピラミッドはやっぱり気になりますよね!」

「そうだよね、探索したいんだけどね」

「危険です。まず助かってからでいいかと」

「そうだよね……」

「先生は何か、ピラミッドについて聞かされてました?」

「ピラミッド……? いや、無い、な」

「……なるほど!」


 皆、聞かされていても覚えて無さそうと思っただろ。

 テレパシーを使わなくてもなんとなくわかるぞ。


「だが、大翼の悪魔についてならわかる。あれは兼ねてより目撃されていた」

「えっ!」

「なんなら、お前たちも見たかもしれない。割とよくいる物だ」

「それ、ピラミッド周辺でよく見かけた、とかありませんか?」

「どうだろうな……ピラミッドと学校の位置関係がわからないから、なんとも、な」

「あ、記憶を検索したら何件かヒットしましたよ」

「検索サイトみたいな感じなんです!?」

「シルエットは学校に着いてから一度目撃しています。確かに大翼の悪魔です」

「ば、場所は?」

「……これ、ウロさんのテレパシーで共有できませんか?」

「天才か?」


 すぐに先生を除いて共有する。


「お、おい。なぜ私にはくれないんだ」

「先生の為ですよ!」

「この映像だと……東側からこちらに向かっている?」

「ピラミッドで撃破した時に出現した大量の悪魔も、東側から出現してました」

「……東に何か、あるんですね」


 何かが、ある。

 ぱっと思いつくのは悪魔の巣だ。

 しかしそんな簡単な物でもなさそうだけど。


「というか、あいつ等群れるの?」

「種類による、としか言えない。だがウロの見た映像では混ざっていた気がするな」

「そう、ですね。大小混ざっています」

「……統率固体がいる?」


 ……だとしたら、とても困る。

 あいつらにはただでさえ敵わない。

 もっと強力な奴が出てきたとしたら、それはもう、終わりだ。


「いや……掌の悪魔は撃破後に食べられています」


 反論したのはナギサだ。


「もし上下関係があるなら確実に上の生物です。死んでいたというだけで、それが食べられていたのだから、もっと本能で動いているのかと」

「では、なぜ大翼の悪魔を倒した時は群れていた?」

「大翼を食べようとしたのでは? その膨大なエネルギーに惹かれた生物です。他の有象無象に手を出している暇はないでしょう」

「……なるほど」

「では、1度話をまとめてみましょう!」


 彼女のまとめには定評がある。私からだけど。


「1 何らかの要因で大顎の悪魔が学校襲撃。駆除に成功。しかしその後、大量の悪魔の襲撃」

「2 何らかの要因で掌の悪魔がウロサマ達を襲撃。駆除に成功。しかしその後、大量の悪魔の襲撃」

「3 何らかの要因で大翼の悪魔がピラミッド襲撃。駆除に成功。しかしその後、大量の悪魔の襲撃。」


 動画映えしない、もっと端的なまとめだ。

 しかしその分、わかりやすい。


「”何らかの要因”ね――」


 私は天を仰いだ。

 他は、私を見た。


「ウロサマ、あんまりいいたくないんですけどー……全部、ウロサマに行ってます、よね?」

「……そうだね」

「原因、わかります?」

「……心当たりはあるけどさ、わざとではないよ」

「……」

 

「幼少期に、悪魔と友達だった」

「!」

「でも本当にそれだけだ。目が覚めたらそいつは死んでたし。私だって意味が分からないんだ」

「死んでたって……」

「何故あの事件が起こったのかを調べたくてここに来たら、もっとヤバい事件に巻き込まれちゃった」

「……今は、信じよう」


 先生のは信じてくれるらしい。


「だが、警戒はさせてもらう。私が1日中、目を離さないようにしよう」

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