第22話

「だが、警戒はさせてもらう。我が1日中、目を離さないようにしよう」


 まあ、当然だ。

 疑いの強い人間を縛るのは、簡単な治安維持法だ。

 冤罪でやられて側はたまったもんじゃないけど。


 というか、先生の一人称”我”だったんだ……。


「テレパシーの件はどうなります?」

「……それは行う。だがテレパシーを使う場合は必ず黒貌を通せ。もし破ったら、即刻頭を潰す」

「じゃあ搾り取るだけ搾り取ってあとはポイ、ですか。ヤな感じですねー」

「もし疑いが晴れたなら、腹を切って詫びると誓おう」

「なんで死ぬんです? デメリットを提供し続けてるんだから、メリットで返してください」

「……何が欲しい」

「一生私の奴隷」

「いいだろう。未来ある若人の人生を奪う事になる。それぐらい受け入れる」


 さて。

 強力な奴隷を予約購入したわけだが。

 イライラに任せて勢いで言ってしまった。

 疑われている中、こんな行動をしてしまったらさらに疑いが濃くなるだろう。


「ま、まぁまぁ。どちらにせよ、今は協力関係です! 私を通す以上、裏切りは出来ませんし」

「そう、だな。未来の事を考えるべきだ」


 未来なんてほぼ無いが。


「本格的なお仕事は明日からにしてます。なので、今日はもう休んでいいですよ!」

「じゃあ私は休ませてもらいます……色々あって疲れました」


 最初の脱落者はナギサだった。

 彼女は足を擦ってカーテンの中に入った。

 

 なんとなく根競べな気がする。


「……」

「……」


 気まずい。



 結局朝まで、誰も一睡もしなかった。


「あー、えー……っと。イサササマの主変警備と、雑用系の管理が仕事です、ウロサマ」

「おっけ」

「……」


 恐応先生、マジで私から目を離さない。

 瞬きをしているかどうかさえ定かではない。

 普通に怖い。


(イササ先輩。私が周りを確認しているので、安心して戦ってください)

(おっウロ。おっけー、細かい所任せられるんだな)

(そういう認識で大丈夫です)


 なんだか全てにイライラしてくる。

 いや、こいつには元々鬱憤が溜まっていたっけ?

 あーだめだ。休んでいないせいか、色々あったせいか、なんかおかしいぞ。


 暫く歩いて、イササの目に現れたのはキングコブラ。

 ただ、腹の広がっている部分から6本の腕が生えている。

 どれも爪が鋭利に尖っていて、一発でも当たれば体に穴が開いてしまうだろう。


 イササが周りを確認すると、4人の頭が映った。

 戦闘班メンバーだ。


 さっきイササにも伝えた話を彼らにもしておいた。

 

 やがて、戦闘が始まる。


 距離は2,30m。イササは突進して――コブラはジャンプした。

 尾をバネのようにした跳躍。およそ人間の敵う速度ではない。

 しかし、テレパシーがあれば問題なかった。


 横に移動させておいた1人が、その動きを見ていたのだ。

 バネのように、沈んだ瞬間。その映像をイササに届けた。

 

 それだけ情報があれば、読みは簡単だ。

 イササは体を反らすことで回避した。

 

 そしてそのまま、太陽光を収束させた大剣で一刀両断。


「よし、余裕だったなッ! ありがとウ――」


 さっさとテレパシーを切り上げてしまう。

 

 報酬は少ないくせに、私の仕事は多いんだ。

 あんな奴に咲いている時間はない。


(カイ、調子はどう?)

(! ウロ。順調……!)


 次に移った映像は、5人の黒く小さい人型が木材を運ぶ姿。

 よく見ればぬめっていて、顔が魚に近い。

 

 彼女は眷属を扱い、この拠点生活の補佐をしてくれている。

 木材を運んだり、布を編んだり、配膳をしたり。

 彼女の仕事もまた多い。

 

(順調か、いいね。困ってる事とかない?)

(退屈)

(難しい事言うな…)


 私も退屈ではある。モニター越しに見るのではなく、この身で実体験するのがやはり一番いい。

 さっきのコブラだって私も戦ってみたい。

 テレパシーだから何もできないけど。


(そうだ。私と一緒に、他の仕事でも見ようか)

(見たい)

(よし、任せて)


 次に映ったのはチモ先輩だ。

 彼女は後ろを向いて食べ物を生成している。

 今出しているのは……魚だ。

 地面に生成されてしまった魚がびちびちと跳ねている。

 水の中にだしてやればいいのに……


「ふぅ。これで3日分かな」

「すごいっす先輩! こんな旨そうなご飯が食べ放題なんて!」

「アッハ、それほどでもない!」


 視線が映った先には、山積みになった米俵と、干されている獣肉などがあった。


(米俵作ったの、私……)

(へぇあの数! すごいなやっぱり。わたしも派手な能力使いたいなぁ)

(……どんなのがいいの?)

(えーやっぱり……どんなのだろう。イメージしたことなかったな)

(私が見た能力で一番凄いのは……チヒロだ……)

(チヒロの! すごいよねぇ。あんまり見かけないってのも高ポイント!)

(なんて名前なんだろう)

(FOR! とか叫んで使ってるイメージ)

(じゃあそれが名前?)

(になるのかな。何かの略だよね)

(F……ふぉとん?)

(ふぉとん、おあ、らいと)

(なるほど!)

(答え合わせしようか)

(おっけ)


 思念を探して覗き見る。

 さて、映ったのは――チヒロの顔だった。


「うーん、やっぱボクが一番可愛いな」

(何してんだお前)

「わぁっビックリした! どうしたの急に?」

(テレパシーで、ちゃんと働いているか監視している)

(監視社会)

「カイも居たんだ。ボク夜番だからさ、今は休憩中なの」

(なら聞きたい事があったんだ。FORって何?ふぉとん、おあ、らいと?)

「フォトンはPだし、ライトはLだよ! なんもあってないじゃんか!」

(やばい、学歴がばれる)

「FORはFake Over Realityの略! 現超える夢!」

(そうなんだ)

「もっと反応してよ!」

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