第20話

「統率班の頼れる参謀! 縁の下の力持ち! すなわち、黒貌こくぼうにゃるちゃんです! よろしくお願いしますね、人類サマ?」


 彼女は目だけを動かして、今、見られた。

 

 そう錯覚させる技術だ。

 自分が見られたと、自分は特別だと。そう思ってしまうような、そんな一瞬。


 ああ、そうか。確か言っていたな、SASに入学するって。

 それがまさか同じ校舎で、しかもあの惨劇を生き残っているとは。

 流石に予想できない。


「能力は”青写真”です! 材料さえあれば、一度見た物をコピーできますよ。なのでどんどん頼ってくださいね?」

「とても便利、だな。彼女のお陰で今がある、といっても過言ではない、な」


 悪く言えば依存している。

 しかし能力なんてあればあるほど使ってしまうだろう。仕方がない事だ。


「次、ウロ、だな」


 さっきのインパクトの後に自己紹介をしろと?

 全部黒貌に吸われてしまう気がする。

 ……

 よし、私の能力を生かそう。


(初めまして。九津呂木ウロと言います)


 全員にテレパシーを届ける。

 ああ、驚愕の声、畏敬の声、恐怖の声が聞こえる。

 正直気持ちがいい。


(灰色の髪で灰色の服を着ています。能力はこの通りテレパシー。以後お見知りおきを)


 と言って、心では黙る。

 黙るだけだ。反応を見たいのでテレパシーは継続する。


(やはり凄い能力だ)

(こんな感じなんですねぇ)

(オワタ)

(にゃる様……にゃる様)

(わぁ、凄いなぁ)


 若干一名、黒貌にすっかり心を奪われているようだが問題ない。

 成果は上々だろう。


 さて、問題はこの次の人間。

 著名人、テレパシスト……次はどう来るんだろう、という期待がのしかかる。


「俺……摩那十まなと。”流体化”できる」


 一言でいえば、黒。

 黒い髪、黒いマスク、黒いシャツ。体系はやせ型だ。

 流体化、と言って見せてくれたのは、彼の指が溶けていくところ。

 ピンクのスライムに変化して、他の物に吸着した。


「摩那十くんの流体化は、物の接着・敵に引っ付いて粘着とか色々できますね!」


 多分、黒貌の評価がすべてだ。

 班メンバーを考えたのも彼女だろうし、依存度が高いな。


「じゃあ、そこの君! 次の自己紹介お願いします!」

「はっはい! 拙者、流司りゅうじとっ申す! 能力はっ”奴隷”! 以上っですっ!」

「ありがとうございますぅ~。”奴隷”は命令されれば何でもできる、って能力なんで、統率班に置いた方が良いと判断しました!」


 奴隷か。何でもできるって、どこまでできるんだろう。

 正直に言えば、彼は何もできなさそう。

 ところが命令してみれば、料理だろうが戦闘だろうが易々こなしてしまう、って能力!

 

「では、最後おねがいしますね!」

「わかりました」


 気品のある動きで、丸眼鏡をかけた黒髪女子が前に出た。


「ナギサと申します。能力は”完全記憶”。以上です」

「ありがとうございました! 完全記憶、なんて言わずもがなの便利能力ですよね!」


 そういえば、私の自己紹介が終わってから黒貌が司会をしている。

 問題があるわけではないが、テレパシーも総評みたいなのが欲しい。


「さて、自己紹介も終わった事ですし! 次はどう能力を使うかですよね?」

「ああ。全員優秀な能力者、だ。上手く使えば地獄脱出など容易、だな」


 確かに優秀である。

 単体性能はともかく、部品としては最高の部類だ。


「さて、ウロサマには情報伝達役をしてほしいんです!」

「情報伝達役?」

「はい、そうです! それぞれの幹部にテレパシーをつなげる事で、全ての状況をリアルタイムで得る……これって最強ですよね?」

「つまり、インターネットになれと」

「その通り! 話が早くて助かります!」

「でもそんな重要パーツ、外に出せませんね?」

「……? そうですね。安全は守りますよ!」


 ふむ。不満である。

 テレパシーを持っているからか、私は天然のフィールドワーカー。

 人伝に知るより身を持って体験したい。

 つまりは冒険家タイプ。

 

 能力が能力なせいで、こういう役目を押し付けられることは想定していた。

 安全な場所に籠って、されどぐーぷに貢献する。

 普通の人間なら、喜んでこの職に就くだろう。


 普通の人間ならね!


 しかし、嫌ですとも言い難い。

 安全圏を提供してもらった恩は間違いなくある。


「くっ……わかり、ました……っ!」

「なんで苦肉の策みたいに言うんです!?」


 お前に分かってなる物か、この苦痛が。


「さて、ウロが決まった、な。なら次は貴様ら、だ」


 先生、いちいち言い方が怖いな。本当に味方か?


 そんな疑念を無視してロール決めは進んでいく。

 

 摩那十は基本接着で、戦闘時には追跡。

 流司はやってみないとわからない、と言う事で保留。

 ナギサは、私が得た情報を保持するデータバンクになるらしい。


「よろしくナギサさん。長い付き合いになりそうだ」

「宜しくお願いしますウロさん。私も、相性抜群な気がします」

「ああちなみに、統率班は全員一年生です。気楽に接しましょうねぇ~」

「へぇ、同学年なんだ。大人びてるなぁ」

「ふふ、ウロさんにも同じ感想を抱きましたよ」

「私もそう思う」

「自分で言っちゃうんです!?」


 この黒貌とか言う配信者、ツッコミもできる。

 てっきり上位者ムーブで売ってるだけだと勘違いしていた。


「黒貌。貴方の動画を一昨日見たよ。端的にまとめられていてわかりやすかった」

「ありがたいお言葉です! 人の奴隷たるもの、人の誉め言葉が一番の栄養源ですから!」

「やりがい搾取ってやつね」

「ち、違うわ!」

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