第19話

 日が落ちるにつれ、拠点内の人間が増えて言った。

 どこからか持ってきた肉と米を食べ、テントに入って寝る。

 それが殆どだったが、真逆の行動をとる者も居た。

 テントから出て、卵と米を食べ、外に行く。総勢6人。

 恐らく、昼間にテントで寝ていた彼らだ。

 夜番の為に休んでいたらしい。


 その後は特筆すべきこともなく、夜を超えて朝になる。

 お腹のあたりに、もぞもぞ動く感覚があった。


「おはよう」

「……おは、よう」


 カイが起きたようだ。

 口をへちょっとさせて、しきりに目を擦っている。


 彼女を残して私は起き上がった。

 そしてカイを転がしてシーツを巻き込み、ミノムシの状態にする。


「よし」

「なにやってんの……」

「あ、クルア先輩。おはようございます」

「おはよう」


 しかし意外だ。

 クルア先輩がもう目を覚ましているとは。

 能力的に夜番の方が向いているのにどうしてだろう。


「さっき先生に起こされてね。全員に召集がかかってる見たい。だから起こしに来たんだけど……」

「犯行現場を目撃してしまった、と」

「そう。まだみんな集まってないけど早めに来てね。きっと驚く事があるから」

「驚く事……?」


 それだけ言って、本部に戻っていった。

 

 さて、じゃあミノムシカイをどうしようか。

 丁度良く温かかったのか、完全に眠っている。



 本部に着くと、既に大勢の人間が集まっていた。

 先生が前に立って、こちらを見た。

 

「……よく休めた、か?」

「はい、ありがとうございます。その分働きますよ」


 カイも多分そう言っている。


「それは、なんだ」


 その視線は私の右手にある。

 カイだ。起こすのも可哀そうなので、シーツを丸めて手提げバッグのようにして持ってきた。


「彼女も参加したいかなぁ、と」

「……そう、か」


 そう言って、先生は部屋内を見まわした。

 

「まぁよし。全員聞けっ!」

「はいっ!」


 私も思わず返事しそうになった。

 それぐらい気迫のある声。

 人を従わせる魔力が籠っている。


「今から班分リーダーを発表する! 呼ばれたものは前へ出ろ!」


 彼女は紙を取り出し、読み上げ始める。


「戦闘班、イササ!」


 前に出たのは、この場で1番目立つ者。

 浮かぶ黄女を連れた筋肉男だ。

 

「夜番戦闘班、クルア!」


 次はクルア先輩。

 見た目に特徴はないが、実力は折り紙付きだ。

 

「偵察班、燈篭とうろう!」


 この人は初見だ。

 白紙に黒メッシュが入っていて、猫目の女子。

 能力は白虎、とかだろうか。

 「補給班、チモ!」

 

 ――チモ? チモ先輩?

 私達の、もう一人の世話役の?


「アッハ! 久しぶりウロちゃん!」

「私語は慎め!」

「ご、ごめんなさい……」


「雑用班、レノ!」


 また見たことのない人。

 青髪マッシュで、それ以外に特筆すべきことがない。

 能力は……キノコ? わかんない。

 

「そして、統率班。恐応アキ、だ」


 先生、名前に”恐”が入っている。

 恐怖される為に生まれてきたような人だな……。


「班はそれぞれ5人部隊だ。各自、自分の班を確認するように。では解散!」

「よし! じゃあ俺の班を呼ぶぜ! 鋼獲楼こうとろう弦軸げんじく――」


 集会が終わるや否や、イササが班メンバー全員を呼び始めた。

 自然、それを待つ流れになる――かと思ったら、それを無視する人間がいる。


「ウロちゃん、カイちゃん~一昨日振りぃ。クルアから聞いたよ、大変だったんだね!」

「チモ先輩、お久しぶりです。生きていてよかったです」

「……ん……?」

「アッハ! ウロちゃん、まだカイちゃんの世話してたんだねぇ」


 すごくマイペースな人だ。

 一応、他の人間の耳を借りて、呼び声を聞いておく。

 

 しかし、不思議なこともある。


「図書館、大翼の悪魔に壊されてましたけど、大丈夫だったのですか」

「ああ、あれね。ローズさんが守ってくれたんだ」

「ローズさん……?」


 そういえば、先生はいるのに彼はいない。私が最後に見た時は一緒に行動していたはずだけど。


 チモ先輩は首を振った。

 ……ああ、そういう事か。


「ローズさんの能力は、”集中”。一定区間の物質を、一転に集めることが出来る。それで一時的なバリアを作って、人への被害を防いだんだ。けど横から来た別の悪魔に……」

「それは……」


 もしかしたら、あの時図書館に言っていれば――


「ううん、駄目だよ。その後被害をいっぱい出しながら、やっとここまで来たの。だからウロちゃん達が来ても……」

「……」

「それより、さ。君達はすごいよ! 誰も死ななかったんでしょ? 本当に、凄い」

「皆、生き残るのに必死だったもので」


「――天聴リミナ! これで偵察班は全員にゃー」

「あっ次私の番だ。ごめんウロちゃん、またね!」


 チモ先輩は燈篭さんと入れ替わり、班メンバーを呼び始める。


 というか燈篭さん、語尾にゃーなんだ……。


 

 呼び声は続く。

 まだ私を呼ぶ声はなかった。

 段々、もしかして聞き逃してしまったのでは? という疑念が強くなっていく。


「雑用班、レノだ! 呼ぶぜ、カイ!」


 カイはまだ起きない。

 

「……この子がカイです」

「ん? ええ、ああ? お、おっけ。わかった、ありがとな?」

「いえ」


 シーツを解いて置いてきた。

 彼女がああなってしまったのは私の責任。

 最後まで面倒を見たかったが、呼ばれてしまったら仕方がない。


 言い訳を考えている内に、雑用班は全員言い終わった。

 

 偵察班か統率班のどっちかだと思っていたけど、後者か。

 

 しかし、名前に具体性のない班である。

 補給班はご飯集めるんだなー、とかわかるけど、統率って何をするんだ?

 誰かをまとめるって事なら、先生と班長、両方役割が被る。


「……残った者が統率班、だな」

「はい、その通りです!」


 快活に答えたのは、昨日見た黒髪ツインテールだ。

 周りには、3人の人間がいる。


「統率班に入れられた者は、能力の汎用性が高い者、だな」

「1つの役割だと勿体ない人を選びました~」

「なるほど、な。ではそれぞれ自己紹介、だな」

「では私から!」


 そう言って、黒髪ツインテールが先生の前に立った。

 

 と、瞬間。空気が変わる。


「統率班の頼れる参謀! 縁の下の力持ち! すなわち、黒貌こくぼうにゃるちゃんです! よろしくお願いしますね、人類サマ?」

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