(2)女子会

 仕事が終わり、駅前のベンチで友達を待つ。


あと10分で約束の時間、

久々に会うということもあって、

楽しみで体がソワソワしている。




 今日の仕事、佐藤さとうちゃんに申し訳なかったな。


私が気を遣わせてしまうのは分かってる、

だからこそせめて「普通」に「気丈きじょう」に振る舞わないと…。


あまりの情けなさに段々とうつむく。




はるちゃん…?」




 不意に呼ばれ、即座そくざに顔を上げる。


目の前にはボーイッシュでオシャレなイケメン。




「わ、ミライ! 久しぶり!」



「久しぶり!

前より綺麗じゃん! やばぁ!」



「ミライも前よりカッコいいよ」




 彼女はミライ、高校の同級生で今日約束していた友達。


昔から男子制服を着ているイケ女だったが、

今はよりイケメンになってるし、何より綺麗。


普通に彼氏もいても女性なんだけどね。




 ベンチから立ち、

ミライと笑い合いながらゆっくりと歩く。


暗くなりゆく空の下、

私達は思い出話に花を咲かせた。





 しばらく歩くと見えてきた、小さなトラットリア。


ログハウスがモチーフでとても可愛い。


ここが目的地。


最近SNSで流れてきた店で、

美味しくてオシャレなパスタが人気らしい。




 扉を開くと小さなベルの音と共に、

スタイリッシュな男性店員さんの「いらっしゃいませ!」という一言で迎えられる。


ミライと顔を見合わせるが、

お互い表情にウキウキが抑えられていない。




「こちらの席へどうぞ!」



「ありがとうございます。はるちゃん奥いいよ」



「ありがとう」




 店員のお兄さんに案内され、

ミライに流されるがままソファー席に座る。


お兄さんもスタイリッシュだけど、

ミライもどこまでもスタイリッシュだなぁ。


イケメンだけど、目を伏せたときに気付く。


長いまつ毛は色を知る女性そのもので、

何とも羨ましい限りで。




 机に置かれたメニューは文字ばかりで写真などはなく、最近の店に少ない物珍しさを感じた。


それにメニューも…なんともまぁ可愛らしい…。




「″コウノトリの贈り物″にしようかなぁ」



「ミライはカルボナーラ…、卵と牛乳だからか」



「なるほど!?」




 を引き合わせるからコウノトリだなんて、店長のセンスに感心する。


一応可愛らしい名前にも意味は含ませてるらしい。




 私の憶測にミライは勝手に納得していた。


違ったらごめん。




はるちゃんやっぱ頭良いなぁ」



「理系だったし関係ないでしょ」



「それもそうか。はるちゃんはどうする?」




 2人して笑いながらもメニューに目をやり、

自分の注文を考える。


目に留まったのはゴボウとシメジのペペロンチーノ…″大地の祝福″。


せっかくだから珍しいものが良いよね。




「私は″大地の祝福″にしようかな」



「ゴボウ! 珍しいし美味しそうだね」



「ね!」




 店員のお兄さんを呼び、

注文をしてのんびりと過ごす。


絵などが飾られてオシャレな店内を写真に撮ったり。




 しばらくするとお兄さんがパスタを2皿持って私達の席に訪れた。


テーブルに置かれる前なのに美味しそうな香りが胃を刺激する。




「お待たせ致しました。

コウノトリの贈り物カルボナーラと、大地の祝福ペペロンチーノです。

こちらで宜しかったですか?」



「はい、ありがとうございます」



「やば! カルボナーラ美味しそう!」



「ごゆっくりどうぞ」




 注文者を間違えることなくパスタが置かれ、

接客業に身を置くする人間としてお兄さんを尊敬した。


目の前で彩られるパスタは正に「祝福」という言葉に相応ふさわしく、

見た目も完璧という他にない。


スマホを取り出し数枚写真を撮る。




「前そんな写真撮ってたっけ?」



「最近はインスタやってるから」



「インスタか…」




 撮った写真をストーリーに上げながら、

パスタをフォークに巻く。


ミライは考え込むようにその様子を眺めていた。




「そういうの興味なさそうなイメージだった」



「まぁ…女子力上がるかなって始めたしね」



「確かに」




 パスタを口に運ぶと、ゴボウとニンニクのこうばしい香りが鼻腔びくうを満たした。


その美味しさに唾液が出る。




 左手でいじるスマホの画面、

インスタではインフルエンサーがまたコスメを紹介していて、いいねと保存をタップする。


どうしよう、間に合わない。


今月は貯金を5万はしたいのに…。




はるちゃん」



「…あ、ごめん、どうしたの?」



「美味しいね、パスタ」



「うん、凄く美味しい」




 ミライと食事中なのに、

さすがにお行儀が悪かった。


スマホを閉じ、バッグにしまう。


反省しながらフォークにパスタを巻くが、

何となく味を感じにくい。





 …私、上手く笑えてる?

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