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 そこはまたしても洞窟だった。先の見えない一寸先は闇と言う言葉がよく似合う入口の前に私達は立っていた。


「ここ?」

「中に入ったことないけど、ここなんだって」


 ただの洞窟と言われればそうかもしれないが、こんな状況だからか目の前にある暗闇の向こうには何かがあるような気がした。

 正直に言えば、さっきまでの勢いはいつの間にか身を顰め少しだけ――ビビってた。真っ暗でしかもあんなとんでもないような怪物を封印してた場所。そんな心霊スポットのような場所へ今から入ろうとしているのだから。


「よし! 行こうか」


 そんな気持ちを抑えつけるように声を出すと私はマギちゃんと共に洞窟へと足を踏み入れた。私の恐怖心がそうさせたのか、それともマギちゃん自身がそうだったのか気が付けば私達は手を取り合い出来る限り身を寄せ合ってまた一歩と先へ進む。

 そしてそれは最早振り返っても出入口の光すら見えない頃。私はそこでやっと気が付いた。


「真っ暗だ」


 私はふとそんなまるで息を吸えば呼吸が出来るという程、当たり前な事を呟いていた。最初から分かり切っていて、最初からそうだったはずなのにやっぱり恐怖心の所為だろうか――私は灯りの類を何も持たずに中へ来てしまった事を今になって気が付いたのだ。


「何かあるよ」


 今からでも戻って何か灯りを探そうか、そう思っているとマギちゃんが先を指差し(隣は慣れた事も相俟って辛うじて見えた)そう言った。

 私は指の先を見遣るがそこにあるのは暗闇のみ。


「何があるの?」

「分かんないけど、何か……」


 私は一度後ろを振り返り、戻るかどうかを考えていた。

 するとマギちゃんはすり抜けるように私の手を離れ、一人先へと歩き出してしまった。


「マギちゃん?」


 そんなマギちゃんの後を追い、私も暗闇へと更に足を進めていく。だが、進めど進めど私達を待っているのは暗闇のみ。

 一旦引き返そう、ここまで来たけどそう提案しようとしたその時だった。

 まず空気が変わったとでもいうのだろうか。肌を撫でる風が少しばかり変わった気がした。気の所為と言われてしまえば強くは言い返せないがそんな感覚を抱きながら私は更に足を進める。

 次に反射する足音がより遠くへ広がるようになり、そこでマギちゃんが立ち止まったのでそれに私も続いた。

 その時、私達を歓迎するかのように壁の松明へ突如として火が灯り、広々とした空間が姿を見せた。独りでに明りの灯る松明に一驚としながらも吸い寄せられるように私の視線は中央へ。

 そこにあったのは二つに割れた大きな岩とその背後に立つ首のない像。


「ここだ」


 静寂の中で滴る雫のようにマギちゃんはポツリ呟いた。私には分からない確信的な何かがあったのだろうか。

 するとマギちゃんはゆっくりと歩き始めたかと思うと少し中央へと近づき一瞬だけしゃがむと何かを手に私の方へ戻ってきた。既に何を持っているかは分かったが、差し出されて初めてそれが何なのかはハッキリとした。


「キルピテル様の像」


 彼が差し出したのは、キルピテル様の像の首だ。あの中央にある首の無い像のモノだろう。村の洞窟にあった像と顔は同じ。


「本当にあったんだ」


 疑ってた訳じゃないけど、この封印場所もそうだし魔物じゃないルーキュラという化物が実際に存在したんだと改めて思った私は首を手に辺りを見回した。

 中を見てみると、広さはあまりなく中央に置かれた割れた岩と像を置く為だけに作られたといった感じだ。本当に封印の場所として作られたんだろう。もしくは自然に出来たこの洞窟を利用したか。どの道、これぐらいの広さなら見て回るのもそれほど苦労しないだろう。二人なら猶更だ。


「何かないか探してみよっか」


 特に意味は無いが私は像の頭を手に持ったまま早速、洞窟内の何かを探し始めた。反対側ではマギちゃんも何かを探している。

 ルーキュラを再度封印する何かかそのまま退治してしまう何か……。

 でもその何かが一体何なのか? 存在するのか? 私にも――マギちゃんにだって分からないだろう。だから私達は何を探しているか分からないけど、何かを探して洞窟内を隅々まで見ていった。と言っても広さはそこまでなく調べるのも壁か床か天井か、一番怪しい中央の岩と像ぐらい。


「そっちはどうだった?」


 返事の代わりにマギちゃんは首を左右に振って見せた。

 見落としがあると言われればそうかもしれない。だって何を探しているのか分かってないんだから。

 やっぱりレナさん達が頑張って倒すのを見守るしかないのかもしれない、そう思いながらもう一度だけ洞窟内を見回してみる。だがやはりさっき慎重に調べてもそれらしき何かは見つからなかったのに、こんな適当に見回して見つかるはずがない。私の目に映ったのは初めて見た時と何ら変わらない景色だった。


「やっぱり倒すしかないのかもね」


 そう若干の落胆が自然と現れた口調でそう言いながら、私は首を手に像へと近づいた。


「キルピテル様だから封印出来たって事なのかなぁ?」


 後ろから聞こえてきたマギちゃんの声も私同様に落胆としたものだった。


「だったらまたそのキルピテル様が現れて封印し直してくれたらいいのにね」


 そんな冗談交じりの事を言いながら私は頭を像の首に乗せようと手を伸ばす。もしかしたらいい感じにバランスが取れて戻してあげられるかも。それともまた落ちちゃうから止めた方がいいかな。

 なんて事を考えながら首を一度、戻そうとした私だったが。

 その時、それはドアノブに触れようとしたら不意打ちで遭う静電気のように――でもそれよりも強力な痛みが一瞬両手の指に走った。


「いつっ!」


 本当にキルピテル様には申し訳ないと思っているが、それは不可抗力というものだ。

 私はつい手を離してしまい、像の首は真逆様に落下。そのまま地面に落ち無残にも壊れてしまった。

 遅れて視線を下へやった私は、わざとじゃないとはいえ罪悪感と言うべきか畏怖と言うべきか、とにかくやってしまったと焦りを感じていた。無駄だと分かっていても破片と破片をくっつけようと試みる。だが破片を手に取ってみると意外な事実に気が付いた。

 表面は岩のようだったものの中身は全く違い――蒼い石英で出来たそれは宝石のようで美しい。例えそれが破片と化した状態だっとしても。

 そして一応、最初の目的通り二つの破片を合わせてみるが当然ながら手を離せば二つは別れてしまいただの破片へと戻ってしまった。でももし仮にくっつけられたとしても最早、これを元通りに戻すことは出来ないだろう。


「すみませんでした」


 仕方なく私は両手を合わせキルピテル様へ届いてるか分からないけど謝罪をした。

 するとそんな私に答えるかのようなタイミングで洞窟内に少し強めの風が流れ込む。でも洞窟内だから特殊な気流で何とかかんとか……何故か風は直ぐには収まらずまるで私の周りを回っているようだった。

 もしかすると専門家の人なら説明出来るかもしれないが、私からすれば奇妙な出来事が起きたって感じだ。それはもう場合によれば神の類である神秘的な存在を信じてしまいそうになるほど完璧なタイミングで。

 そして思わず立ち上がった私だったが、その瞬間――立ち眩みが視界を揺れ動かした。世界は歪み自分自身が立っているのかはたまた座っているのか分からない。

 気が付けば私はバラスを崩し倒れていた。その最中、それだけを理解し後は何も分からない。なんて言えばいいのか、体は倒れていくけど意識はそれだけを理解してて――まるで世界と自分が少しの間だけ時間的に切り離されたようだった。

 でもそんな私を待つことなく体は地面へ倒れ、意識は遠のいていく。


「ルルさん?」


 心配そうに駆け寄るマギちゃんを最後に私は完全に意識を失った。

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