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「では最後にこちらへ」


 そう言って再びマイラさんの家へ戻って来ると彼女に連れられ私達は村中央にある池のような水の溜まりへと案内された。その水はとても綺麗な水色、まるで宝石でも溶かしたよう。でも魚などの生物はおろか藻などもない。本当に水のみだ。


「ここは私達にとってとても重要な場所です。なので村の中央にあります」

「確かにとっても綺麗ですもんね」

「あっ、もしかして夏はここで水浴びとかするとか?」


 分かったと言うようなレナさんだったが、マイラさんの優しく笑うとこを見ると違うらしい。


「正確に言うと、重要なのはここではなく水の流れてきている上の方なんです」


 そう言ってマイラさんが手で指したのは丁度、私達がこの村に入って来た場所とは反対側にある階段。見上げる程に長く、山の方へ真っすぐ伸びている。


「そこには洞窟があって奥に進むと泉があり、そこの水がここへ流れてはこうして溜まっているんです」

「という事は飲み水ってことですか?」

「えぇ。私達の生活を支える水という意味でもここは最も重要な場所ですが、それ以上に重要な場所なんです。その泉は――」


 理由を話してくれる。そんな雰囲気が漂う暫しの間の中、マイラさんはマギちゃんへ顔を落としては手を伸ばし頭を撫でた。

 そして再度、私達へ視線が戻ると続きの理由を話してくれた。


「あそこには私達の神様がいらっしゃるんです」

「神様?」

「キルピテル様。私達に魔力という力を分け与えてくれた存在であり、私達を見守り導いてくれる存在です」


 胸に手をやりそう語るマイラさんの表情を見ればそれ以上、何かを訊く必要は無かった。そこにあるのはただ純粋な信仰心。神様を信じていない訳じゃないけど、信仰する程に信じてる訳でも無い私には否定も肯定も出来ない。ただ受け入れるしかない。


「生まれて来る子を祝福し、その子が同じ女の子ならば力を授けて下さる。それは一族を守る力であり、キルピテル様に仕える者の証」


 すると聞き覚えるのある声が補足するように言葉を続けた。私とレナさんはほぼ同時にその声の方を見遣る。

 そこに居たのはイベルさんだった。


「この村はどうでしたかな?」

「静かで、一体感があって……心地好い場所ですね」

「何だか忙しない世界から切り離されたみたいで、アタシも好きですね」

「それは良かった」


 彼女もまたこの村が好きなんだろう、浮かべた笑みだけでそれは十分伝わった。


「――そうだ。もし時間があるのなら、明日の儀式を是非とも見ていって下さい」

「儀式……ですか?」


 突然の事に私は思わず首を傾げた。


「はい。丁度、貴方方が救って下さったこの子が、キルピテル様より力を授かるのです」


 そう言ってイベルさんが指したのはマギちゃん。


「その為の儀式。この子の晴れ舞台とでもいいましょうか」


 そんな儀式に部外者の私達が参加していいのだろうか? 私は真っ先にそんな疑問が脳裏を過っていた。


「でもアタシ達よそ者ですよ?」


 まるで私の思考を読んだように、レナさんはイベルさんに尋ねる。


「本来ならばそうですが、貴方方はこの子の命をお救いになられました。この子がこうして儀式を受けられるのもそのお陰。特別ですが、是非その瞬間に立ち会って下さい」


 私とレナさんは何も言わずとも目を合わせていた。どうする? 互いにそう訊き合うような視線が交差しながらも、答えは決まっている様子。私はレナさんが笑みと共に頷くとイベルさんへ顔を戻す。


「じゃあ是非。ありがとうございます」


 言葉の後、深く頭を下げた。


「ではこの村には宿は無いので、今夜は家にお泊り下さい」


 そう言ってくれたのはマイラさん。傍にいるマギちゃんも別に嫌がっている様子はない。むしろ頷いていた。


「じゃあお言葉に甘えて」


 このまま先を急いでも今日中に他の町や国に辿り着くことは不可能。それを知っていた私は心のどこかで少しだけ野宿しなくても済むとホッとしていた。でも同時に今日はもう先には進めないと思うと複雑な気持ちだ。

 だけど、この日はマイラさんの家で素朴だけど美味しい夕食を頂いてベッドとはいかなくとも安心で寝心地の良い室内で眠ることが出来た。

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