3

 その音に立ち上がった母親は玄関へ。ドアの開く音の後、何を言ってるのかは分からなかったが会話声が聞こえてきた。

 少しして戻って来た母親の後に続き私達の前に現れたのは一人の老婆。杖で体を支えいくつかの民族的な装飾を身に着けたその老婆は、見るからに何かありそうな雰囲気を醸し出していた。少なくともただ単にこの家の祖母と言う訳じゃなさそうだ。


「こちらは族長のイベル様です」


 そんな私の心内を読んだかのような紹介を受けた老婆は緩慢と頭を下げ一礼。私もそれに返す。


「話は聞きました。我らの子を助けて頂き族長として感謝申し上げます」


 そう言ってイベルさんはもう一度、丁寧に頭を下げた。


「こっちこそ魔女と出会えるだなんて貴重で光栄なことですよ」

「客人を迎えるには何もない村ですが、ごゆっくりして行って下さい」


 顔を上げると声のした方――コルさんへ視線を向けたイベルさんは終始、柔和な笑みを浮かべていた。


「もしよければ薬師の仕事を見学したいんですけど、いいですか?」


 するとコルさんは突然そんなお願いをし始めた。


「構いませんが、あれはあまり楽しいものではありませんよ?」

「実は僕も未熟ながら心得があるものですから。こんな絶好の機会を逃す訳には」

「ほぅ……。これは中々に」


 コルさんの言葉にイベルさんは、漏らす様な声と共に感心した表情を浮かべた。


「人を癒す特別な力をお持ちになられながら薬師としての心得もお持ちとは、外にもそのようなお方がおられるんですね」


 どこか嬉しそうに語るイベルさんだったが、私は一抹の違和感を感じた。最初はそれが何なのか分からなかったが、その正体には直ぐに気が付いた。


「あの。もしかして分かるんですか? コルさんがティラーだって」


 直接的にコルさんがティラーだとは言ってなかったが、癒す特別な力とはティオの事だろう。


「えぇ。ティラーからは言葉にするのは難しいですが、我らとは違ったモノを感じるのでね。我らの中にも素質を持った者が数名いますが、彼からは同じモノを感じます」


 私は思わず言葉にならない声を漏らしてはある種の感動を覚えていた。


「ではその者の所へご案内致しましょう」


 イベルさんの言葉に余ほど楽しみなのかこれまでで一番少し軽やかに立ち上がるコルさん。


「君たちは?」


 そう私達へ訊く顔は待ち切れないと一足先に微笑んでいる。


「私はいいですかねぇー」

「アタシも興味ないかなぁ」


 そんな彼を見上げながら私達は首を振った。


「では村を見て回ってはいかがですか? 何もないですが、自然は豊かですから。マイラに案内してもらうといいですよ」


 イベルさんがそう手で指したのは母親。そう言えば私達はまだ彼女の名前を聞いていなかった。


「えぇ。もちろんです。小さな村ですから手間もかからないですし」


 だから遠慮する必要は無い、そう言いたいのかもしれない。そう言われれば然程疲れていない私は頷く他ない。もちろん嫌々じゃないし折角の魔女族の村を見てみたい気持ちはあった。

 でもグペールと戦ったレナさんはどうだろう? もしかしたら疲れてて休みたいかもしれない。そう思い私は返事をする前にレナさんを見遣った。

 目が合うと疲れなど微塵も感じない微笑みを浮かべるレナさん。


「魔女族の村を見れる機会なんてそうそうある事じゃないし、アタシはお願いしようかな」

「私も折角ですし」

「では行きましょうか」


 代表したイベルさんがそう言うと私達は一緒に外へと出た。

 それからコルさんはイベルさんと――私とレナさんはマイラさんと少女と一緒に別方向へ歩き出す。


「そう言えば、私はルルって言います。自己紹介がまだったので」


 さっきイベルさんが口にしたことでマイラさんの名前を知った私は遅れながら自己紹介をした。と言っても名前を言っただけだけど。


「アタシはレナです」

「そう言えばそうでしたね。改めまして、私はマイラ・カーメンタです。こっちは――うちの子の」

「マギです」


 依然として恐々とした感じが残る少女改めマギちゃんは、私達にまだ慣れてはないようだ。


「すみません。少し人見知りなもので」

「いえ、気にしないで下さい」

「ではこちらへ」


 それから私達は簡単な説明と共に村を一周したのだが、本当に村自体は小さくあっという間に終わってしまった。周りを森に囲まれたこの村は自給自足で畑や家畜で食料は確保し、薬草なんかは森へ出て採取するらしい。基本的に建物は家のみで薬師やティラーなんかはその人の家にいくとか。当然と言うべきか通貨もなく村全体でひと家族みたいな村だった。

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