三話 霧須磨は、言いました。あの作文を、書くだけのことはある。


「お金も入るし、ね」


「一時金じゃないのか?」


「毎日、Hなこと、私と、し放題だよ?」


「お前らが、隔離される理由は、よくわかったから。

 もう、その話は、やめろ。

 俺は、十八禁の主人公じゃない。体が、もたねぇよ。

 エリスが言うように、回数勝負しても。

 妊娠率は、残念ながら、上がらないしな」


「意外ね、乗ると思っていたわ」


「三か月、性欲だけで、一人の女性を、抱けるハズがない」


「それでも、彼女たちにとっては、死活問題だわ。

 彼女の話に、乗ってもらったほうが、話は早いわよ」


「それだけ、必死だからってか?

 余計だろうが。どこかで、虚しさが勝つだろ、ソレ」



 霧須磨は、じっくりと霧斗を見て。


「会話ぐらいなら、許してあげる」


「霧須磨。なんで、女性が、男は性欲の権化だと、思えるほどの数。

 ネットに、動画があふれているか、考えたことあるか?」


「それは__」


「ないだろ? 一つの動画は、スグに、使えなくなるからだ。

 男の性欲は、それだけ刹那的なんだよ。

 そこまで、考えたことはあるか?」 


「……」


「男は単純だ、ちょっと、そぶりを見せられれば。

 スグに、その気になる。


 ソースは、俺だ。だけどな?


 一人の女性を、物理的な、コンテンツだと思えるのは、最初だけだ」


「それでも、私たちの常識で、守るべき義務なんだよ?」


(お~コワ。必要なことだから、やらされてる感が、抜けるとこうなるのか)


 猫も、何もかぶらない。

 エリスの真剣で、痛いほど鋭い、戦士の目が、霧斗を射貫く。


 言葉を否定するだけは、許さない。


 茶を濁すことさえ、許さないと。


 彼女の体、すべてから、霧斗は感じ取った。


 それでも、涼しい顔を、している霧須磨を見て。


 霧斗は、深いため息を吐き出した。


(最初から、決着が用意された、話し合いだった。

 俺がエリスの話に、乗っかることが、決まっていて。

 二人とも、疑っていなかった。

 それでも、安全策として。

 否定させないために、流れで押し切るための、この場か)


「さすが、あの、作文を書くだけのことは、ある。

 そう言うこと、かしら?」


「俺が、話に乗らない、としてだ」


 より一層、険しくなるエリスの目に、恐怖さえ感じる。


 この椅子を、霧斗が立てば。


 逃げる小鹿のように、狩られ。

 言葉通り、食べられてしまうのだろう。



 逆に言えば、立ち上がりさえしなければ、まだ、話し合う、余地はある。


「私、魅力ないのかな?」


 聞きたくない言葉が、エリスの口から吐き出された。



 安易に返事を返せば、霧斗の負けだ。


 情であれば、なんでも訴え。


 欲を、少しでも見せれば。

 すべて許して、コトを、成そうとするだろう。


 エリスの眼は、そういう目だった。


「そうは言ってないだろ? もっと、自分を大事にしたらどうだ?」


 愛理先生の受け売りである。


 エリスは、うつむいて見せるが、目は霧斗から外さない。


 霧須磨が、話に切り込んでこないのは、もう、部外者だからだ。



 霧斗が、自分自身の、日常を取り戻すため。


 交渉すべき相手は、最初からエリスだけ、だったのだ。


 この話し合いは、踊るだけの会議室を許さない。


 話の落としどころが、なければ。


 霧斗は、椅子から立ち上がれず。

 トイレにすら、行かせてもらえないだろう。



 我慢できず、行ったら最後まである。


 ああ、だから隙間なく。

 カップに、茶が注がれているのだと思えば。


 霧斗は、ドコまでも。


 彼女たち二人の掌の上で。

 まだ、必死にあがいているだけだ。


(なら、落としどころを、見つけないと、イケないわけだ)


「金がないから、妹を売らなきゃいけないのか?」


「いいえ、逆よ。妹を売らないなら、お金が必要なのよ」


「エルフ族の立場が弱いから。

 この世界には、そういう制度が、敷かれてるんだな?」


 霧須磨の驚いた顔を、これから霧斗は、あと何回、見るのだろう。


「あなた、Fのゴミじゃないの?」


「ホントに、もっと、言葉を選べよ、霧須磨」  


「なら、もっと上に扱ってあげるわ。

 このテーブル、どうするのかしら、橒戸君」


「ある一定期間、子供を生まないなら、税金を納めろって言う、認識で合ってるのか?」


「その通りよ」


「それでも、子供を産まないなら。

 奴隷商に売却して、強制的に、子供を産む状況を、作らなきゃいけないぐらい。

 エルフ族を取り囲む環境は、厳しいって、話で合ってるか?」


「ええ。概ね、その通りよ」


「なら、そうだな」

 霧斗は、目を閉じ。


 膀胱に、たまり始めた、熱を無視して、一つの結論に行きついた。


「なにか、思いついたのかしら?」


「牧場の牛が、屠殺場に送られないように、すれば良いんだ」


「橒戸君、言葉を選びなさい」


 笑みすら浮かべた霧須磨を見れば。

 発想そのものは、悪くないのだと、確信できる。


(この話は、経営的に、お金が足りない、牧場オーナーが。

 乳牛を、売り飛ばそうとしているのと、同じだ)


 今、牛乳がとれる乳牛よりも。

 牧場オーナーは。

 現在、妊娠しておらず、牛乳が出ない乳牛を、売ってしまおうと考える。


 牛乳を出す乳牛は。

 牛乳が出ない牛を、救いたいと考え。


 出ない牛が売られる前に、乳が出るようにしてしまえば。

 オーナーは、考えを改めると知っていた。


 大量の牛乳と、牛一頭が、かかっているのだから。



 だが、コレでは。


(売られない、それだけの話だ。何も解決していない)


 ドンなことをしても、売られる牛が、変わるだけだ。



 長い目で見れば、本当に意味がない。


 このルールの上で戦えば、負けるしかない。


 問題は、いつ負けるか、しかないのだから。


 何をしても、負けないように、延命しているだけだ。


 そもそも、勝ち目が、用意されていない。

 

 みんなでサイコロを振って、一が、出たら罰ゲーム。


 そういうルールだ。


 六がでれば、賞金が出るわけでも、ゲームを、降りられるワケでもない。



 誰もが、いつかは、一を引いて、罰ゲームである。



 罰ゲームが、命を取られる内容なら。


 プレイヤーが、ドンドン、いなくなるだけだ。


(現状維持しか、最善の方法として、用意されていないなら。

 そんな、ルールで戦うこと自体、間違っている)


 だが、霧斗は。


(あまりにも、知らなすぎる。何を、どうして良いのかすら、分からない)


 気づけば、霧斗の口は、素直になっていた。


「そもそも、なんで、こんなコトになっているんだ?」

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