四話 霧斗は、ハリボテ一つで、全て解決だと、キメ顔で言ってみる。


 木と草と、地面しかない、森の中。


「じゃあ、見せるね」


 エリスが目を閉じ、地面に手を伸ばすと。


 ジリジリと、地面が盛り上がり。


 5メートルほどの、人の形をした土の塊が、立ち上がる。


「このゴーレムを、小さな子供でも作れるのが、エルフという種族よ。

 ハーフエルフでも、可能だわ」


 得意げに話す、霧須磨を無視し。


「やっとファンタジーの実感がわいてきた…」


 やっと感じられた異世界感に、霧斗は安心していた。 

 ソレも、変な話である。


 だが、この異世界に来て、スグに。


 エルフ族の保健体育を、聞かされれば、仕方ないのかもしれない。


「この世界は、化け物との戦いを、続けているの。

 だから、戦いに参加することが、義務なんだけど。

 私達は、死んじゃうと、減る一方だから…」


「相手なんて誰でも良いから、子供を作って、戦場へ送るしか。

 種族として、貢献しているように見せられない、か」


「平野の戦いで、ゴーレムは、戦略兵器になるの。

 魔力を使い果たして、その場で子供は、犠牲になっちゃうけど…。

 そんなこと、気にならないぐらい、このゴーレムは強い。

 エルフが、下に見られているだけで、済んでいるの」


 下に見られるだけ、で、済んでいる。


 つまり、もっと、想像できる最悪がある。


 それは、種族として見られず。

 エルフの自治権が、なくなるコトだろう。


 子供を犠牲に、支えているのだ。


 自治権がなくなれば、エルフ族は、種族ごと奴隷行き確定だ。


 比喩などではなく。

 本当に、エルフ牧場で飼育される存在になり果てる。


「子供の特攻隊。人間魚雷、爆弾、か。数が足りなくなるわけだ」


 ゴーレムは、土の山に戻り。


 エリスは、疲れた顔を帰す。


「そういうコトだね」


「なんで、そんなに疲れるのか、聞いてもイイか?」


「土を、このサイズで、人の形を保ったまま動かすの、すごく大変なの」


「なら、ゴーレムの形をしたモノを、動かすだけなら、どうだ?」


「それなら、かなり楽になるね。でも…」


「こんなに大きいモノを、運ぶ方が大変なんだな」


「ドコでも、いつでも作って、戦わせることがデキるのが、ゴーレムの強みだからね」


「関節とか、アレ、どうやって動いてたんだ?」


「よく気づいたねぇ。全部、変形させているんだよ」


「動き方が激しくても、手足が飛んでいかないのは、同じく押さえ込んだのか?」


 驚いたエリスの顔が、ソウだと言っていた。


「動かすだけになったら、ドレだけラクに、なるんだ?」 


「ハーフエルフの子供でも、戦って、帰ってこれると思うよ」


 エリスは、ただの土を、地面からすくい上げ。

 手足のある人型に、形を固定し続け。


 動かすために、関節を変形させ。

 反動・重さで、手足が飛んでいかないように、制御している。


 これが、ゴーレムと、言われるモノだ。

 これだけのコトを、一つの力だけで、可能としている。


「魔法、万能すぎだな。

 なぁ、霧須磨?

 この世界は、戦争経済で、廻っているってコトで良いか?」


「アナタが想像しているより、根深く、色濃く、ソウでしょうね。

 私も、実際に見ていないから、分からないけど」


 霧斗は、霧須磨の青バックを指さし。


「なぁ、その人形を、エリスに貸してやってくれ」


「武器にする気?」


 全力で、青バックを抱える、霧須磨の姿に。


 二頭身・二足歩行の黒猫に。

 白いツバサと、サンタ帽を貼り付けたような、キャラクターの溺愛ぶりを、垣間見た。


「どうやって、そんなもん、戦いで役立てるんだ?

 エリスに、その人形を動かしてもらいたいんだ。デキるか?」


「やったことないけど、デキると思うよ」


「ば、爆発とかしちゃうかもしれないじゃない」


 溺愛ではなく、猫さんを愛しているようだった。 



 まさか、借りるだけで、ココまで抵抗されるとは、思わず。

 霧斗は、無駄に頭をひねる。


「カワイク動く、猫ちゃん劇場、見たくないか? 霧須磨?」


 目に見えて、迷っている。


 葛藤すら、丸見えだ。


 チラチラと、握りこぶしサイズの人形を見ては。


 表情が、コロコロと変わっている。


(今、コイツは、どんな感情なんだろう)


 最後には、震えながら、青バックから人形を外し。

 エリスに直接、受け渡していた。


 渡されたエリスの顔が、霧斗に助けを求めている。


(残念、オレは部外者なんだ。よろしくやってくれ)


「じゃ、じゃあ動かすよ?」


「手のひら上じゃなくて。

 ゴーレムで、やってた、動きが見たいから、地面で動かしてくれ」


「あ、あなた!」


「猫ちゃん劇場、みたいだろ?」


「……」

 見たいようだった。


 そして、汚れるよりも、見たい気持ちが勝ったようだった。



 地面に転がった人形に、エリスが手のひらを向け、目を閉じる。



 力を入れるように、目を開けると。


 猫の人形は、直立して、立ち上がる。


 ピコピコと、左右に歩き。

 短い手を振り回す姿は、異様に見えたが。


「にゃあ、にゃあ」


 しゃがみ込んで、自分の世界に入り込んだ霧須磨は、満足そうだった。


 霧須磨の様子が、微笑ましいのか。

 エリスは、霧須磨の声に反応するように、猫さん人形を動かすと。


 とろけそうな、顔を見せるから、何も言えなくなる。


「どうだ?」


「かわいいわ。とても、そう。とても、良いわ」


「霧須磨、オマエじゃない」


 霧斗の声に、我に返ったのか。


 霧須磨は、笑顔で、それ以上何か言ったら殺すと、言っていた。


「エリス、どんな感じだ?」


「いくらでも、イケそうだよ。サイズも小さしね」


「ゴーレムで、やってたのって。

 手を振り回して歩くヤツで、あとは、サービスだよな?」


 はねたり飛んだり、ダンスをしたり。

 サービス精神旺盛だった。


「そうだよ、きり…。なんでもない」


「ゴーレムだと、あんな、単純な動きが限界なのか?」


「頑張ればパンチとか、キックとかデキるけど。

 疲労感に見合わないよ、戦いだと」


「単純に鈍器を振り回した方が、合理的か。

 なるほど、ゴーレムが、戦略兵器なのが、分かってきた」


 集団の、ド真ん中に、ゴーレムを作って、暴れさせれば、血の海を作れる。


 広いフィールドの平野戦なら。


 集団に向かって、手足という鈍器を振り回し。


 命を、いとわず突進する、圧倒的な、質量の化け物。


 剣や槍ではなく。


 投石機や、バリスタなどの、攻城兵器ではなく。


 大きな戦局に影響を与える、言葉通りの戦略兵器だろう。

 

「私達にデキるコトなんて、このゴーレムで、貢献することぐらいだよ」 


「ほかに、攻撃魔法とかないのか?」


「習得するのに、本当に長い時間が、かかるんだよ」


「なら、ゴーレムの魔法だけ仕込んで、送り出せ、か」


「橒戸君、分かった? ドウしようもないのよ。

 アナタが、ドウにかするしかないわ」


「あ~。オレが、何かするのは、良いけどさぁ?

 エリスと、子作りしなきゃイケないって、ワケじゃないぞ、コレ」


「どういうことかしら?」


「霧須磨も、頭が固いんだな。

 人形が動かせるなら、馬車を馬なしで、動かせるんだぞ。


 人の形を、してないとダメなら。

 ぬいぐるみを、岩や鉄で作れば良い。

 小さいと、使い物にならないなら、大きくすれば良い」


「作ってどうするの?」


「貸し出せば良いだろ? 有料で。

 壊してきたら、損害請求を、立てれば良い」


「使えるのは、エルフだけ。…待って、アナタ」


「牛が売られるどころか、重宝されるようになるな」


「…えっ。ちょっと待ちなさい。…えっ?」


「ハーフエルフの生還率が、爆上がりして。


 しかも、今より良い扱いはされるだろ、たぶん。


 エルフとしては、新たな産業がデキて潤うから。


 税金を払う余裕ができるな、たぶん」


「ロボットを、作るの? 技術的に不可能よ」


「横浜の実寸大ガンダムを、持ってくれば、良いだけだぞ?」


「あっ。…ああ」


「モーターも、エンジンも、エネルギーも必要ない。

 頑丈な人形が、あれば良いんだ。

 ハリボテ模型で、十分だ」


「三ヶ月よ?」


「三ヶ月も、あるだろ。

 趣味と実益が伴うのは、何回味わっても、良いもんだな」


「二人が、何言ってるか、分からないんだけど?」


「デカくて、頑丈なハリボテ模型作って。

 戦いの前線に貸し出して、儲けようって、話をしてるんだ」


「え? 妹の話はドコ行ったの?」


「ないもの作って、売るんだ。

 しかも、戦いに役立つ、エルフだけが、使える兵器だぞ。

 スゲェ儲かるぞ、たぶん。

 妹を売る必要ないぐらい、たぶん」


「私が、子供を産まなくても?」


「ハリボテ一つで、全て解決だな」


 エリスは、猫をかぶらない、自然体で、霧斗の手を握り。


「お願いします」

 深く、頭を下げた。

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