16.火の後始末
「アズリア今日はお前の初任務祝勝会兼魔法発現のお祝いなんだから遠慮すんなよ!ほらこれも食え!あ、すんませーんもう1杯追加で!」
「いえ……!わたしはもう十分なので……」
「なんだァ?アタシの奢りが受け入れられねえってか?」
「それは確実に飲み過ぎてる人のセリフですよ!」
「ハハッ!冗談だよ、飲む分量くらい弁えてるさ。初任務なのにアタシを助ける大活躍をしてくれたんだ。感謝の意も込めてかわいい後輩を労いたいんだよ」
「それは……本当に、ありがとうございます……」
「じゃ、これとこれとこれも追加な」
「いや食べるのはほんとにもう十分ですから!」
「冗談だ。あと酔ってる年長者はそういう反応喜ぶだけだぞ?」
アズリアの頭をわしわしと撫でてやる。
「そういやアズリア、発現した魔法のことなんだが……あのときどういう気持ちだったんだ?」
「気持ち……?」
「固有魔法ってのは個人の強い思惑にその効果が左右される。お前にどういう意図があったのかがわかれば扱い方もわかると思うんだが」
「よく……わかんないです」
「………」
(暗い火だな……)
「アズリア、アタシは火が固有魔法になっているからか人が纏ってる熱が火みたいになんとなく見えるんだ。……まぁ雰囲気とかからその人自身の人柄を察するようなもんだ」
「はぁ……」
「先に謝っておく、すまんが嫌なことを思い出させたいわけじゃない……たしかアズリアは簡易魔法の火で事故があったんだよな」
「………そうです」
「お前の纏ってるそれはあまり良い色をしてないんだ。きっとその過去の件があってのことだろう。でもアタシが思う火ってのは、こうやってうまい飯もつくれる、凍えた体を癒やしてくれる……そういうものなんだ。お前は魔法について後ろ暗いものがあるかもしれない。でも使い方次第でお前の魔法はいくらでも明るい事ができる。それを忘れないでくれ」
「わかり……ました」
「今回だってアタシを助けてくれたしな!あ、すんませんもう1杯ください!」
「ほんとに分量弁えてるんですよね?」
「大丈夫だって、アタシ強えから!」
頭を覆う何かが霧散した。
────なんだこれは。
焼けた町の残骸、全身に火傷を負った3人の仲間。
はっきりと覚えている。
全部、全部アタシがやった。
頭がぐるぐると渦巻く、どろどろと心臓が溶けていく。吐き気か、嫌悪か、混沌か、何か得体のしれないおぞましいものが体の中を這って充たす。
目眩と痛みで吹き飛びそうな意識を食いしばるように必死につなぎとめる。
(足元に鎖……?)
(ああ、そうか。アズリアが───)
何らかの効力が働いているはずだが体は動く。この意識の変化は、きっと精一杯の力でアタシを止めてくれたからだ。
アズリアはこちらを見たまま絶望で塗り固められたような表情をしている。
(おい……そんな顔すんなよ)
カラカラと剣が転がってきた。アズリアはその剣を握りしめ、力を振り絞るように立ち上がり、震える剣先をこちらへと向けた。
(頑張ったな……こんなことさせてごめんな………)
激情に任せてアズリアの元を離れてしまったことを後悔する。希死念慮を抱くアズリアに対して、もっとできることがあったんじゃないか?かけられる言葉があったんじゃないか?
それに、きっとアズリアは今自身がしようとしていることを後悔するだろう。
何かできること、アタシが今やれること……。
(せめて、これだけでも)
顔の筋肉になけなしの力で表情を作らせる。
ずっしりとした重みのある剣は、驚くほどあっさりと、柔らかな笑みを浮かべる魔女の体を突き刺した。
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