7.鎖と意図、膨張する。

「ヒヒッ……」

膨張する銀河ヴァスティーゴ・ギャラクシャ』、ワタシの魔法は"引き延ばす"こと。奴らの思考を引き延ばしてやった。これで奴らは無限の中に囚われた。やがて思考しすぎた頭はオーバーヒートする。

「無限に膨張する宇宙の中でゆっくりとした死を味わうがいいさ……フフヒッ」







 わたし達は閉じ込められた……鍵もかからない小屋の中で。

 外へ出る、なんて簡単なことがいつまでもわからない。思考が正解の周りをぐるぐる回って一向にたどり着けないもどかしさを感じる。

「そうだ、ヴルカさん!あの、アレで……そう魔法で!小屋を、その………アレ、破壊すれば!」

 言葉がうまく出てこない。意思の疎通さえ困難になることに焦りを感じる。

「アタシの魔法は"炎"だ!外への出方がわかんねぇ状態で、木の小屋なんかに魔法を放ったら……その、何か………ええい、煩わしい!あれだ、まずいだろ!」

 わたしもヴルカさんも状態は同じなようで、すぐには脱出できそうもない。

(どうしようどうしよう───)

 終わらない思考に焦りと困惑が渦巻く中、さらにまずいことが起きた。

 ヴルカさんが膝をついた。

「ヴルカさん!大丈夫ですか!」

「クソっ……頭がくらくらする……っ!」

 そういう間にもわたしもどんどん頭が朦朧としてきて、まとも立っていられず座り込んでしまった。

「アズリアっ……大丈夫か……!」

「一体どう、すれば……」

「すまねぇ、アタシがついていながら……」

「ヴルカさんが謝ることなんて………」

 そんなやり取りをする間にも、結論も出ないのに考えを巡り続けるこの状況に2人とも限界が近づいてきている。

 このままじゃ何もできないまま共倒れになってしまう。

(くそっ、わたしは無力だ……!)

 魔法さえあればこの状況を打破できたかもしれないのに。

 自分の無力さを感じるあまり、未知の自分の魔法に頼りたくなってしまう。

 魔法さえあれば、魔法もないくせに、家族を殺しておいて、何もできないで、ぐるぐる、ぐるぐる、思考が回る。

 何も……!何も何も何も───!



 わたしなんて───しまえばいいのに。



 その瞬間、パキィン!と音がした───気がした。

「!?」

 気付けば腕に魔力で形成された"鎖"が巻き付いていた。

「何これ……」

 わたしは魔力形成を行ったつもりはない。無意識に───?でもなんのために……。答えは出ない。しかし、変化は起こっていた。

「頭が……」

 依然としてドアの開け方はわからないけど、先ほどまで頭を支配していた朦朧感は消えていた。それに加えてループするような思考も無くなっていた。

(この"鎖"のおかげ……?いや、それよりまずは脱出しないと)

 ヴルカさんの状態は依然芳しくない。一刻も早く脱出する必要がある。

(とりあえず小屋を破壊してみよう)

 ドアから出る方法はまだわからないけど先ほど思いついた小屋を破壊する案を試してみよう。

 最大硬度に形成した鎖を巻き付けた体で何度も体当たりを繰り返す。小屋自体には魔法の力や何かはかかっていないようで、少しずつ壁は壊れて隙間から差し込む光が増えていった。何十回と体当たりを繰り返し、ついにはバコォッと音を立てて壁は壊れた。

(やった……!)

 喜ぶのもつかの間、まだ安心してはいけないと緊張を体に取り戻す。

「ヴルカさん!しっかりしてください!」

 声をかけながら少しずつ小屋の外へとヴルカさんの体を引きずり出す。ヴルカさんの筋肉質な体は重く、わたしの力ではなかなかに苦労したが、なんとか外へと引きずり出せた。

「ヴルカさん!大丈夫ですか!」

「外………か?魔女を………えっと、どうすれば…………?」

 ヴルカさんはまだ思考が定まっていないようで、体も満足に動かせないみたいだった。

 どうすればヴルカさんを治せる!?助けを呼ぶ!?いやヴルカさんを連れて行くことも置いていくこともできない!魔女を見つけて倒しに行く?私一人で行くなら同様にヴルカさんを置いてけない!

 先程までとはいかないが正しい決断を下せない。ベストはヴルカさんの状態が治り、2人で魔女討伐に向かうことだ。けれど治すにしたってどうすれば……。そもそも私はどうやって回復した?

 そこで腕に巻き付いたままの"鎖"が目についた。そういえばわたしに変化が起きたのはこの鎖が腕に巻き付いてからだ。

「いちかばちか……!」

 ヴルカさんに鎖を巻き付けた。できる限りの祈りと魔力を込めて。







「ヒッ……!」

 まずいまずいまずい……!奴らが小屋から這い出てきた………!どうやって!?いやそれよりも逃げないと!

 ワタシは戦闘には向いてない。あの小屋を出られたが最後ワタシに戦う術はない。

 草木をかきわけ必死に駆け出す。逃げろ逃げろ逃げろ………!

「っ!」

 一瞬。何かがぞわっとして後ろを振り向いた。視界の先には閃光。急速に飛来する人型の物体。

「『炎穿拳フラマ・パンク』!」

「がはっ」

 叩きつけられるは灼熱の拳。

「そんだけガサガサ音ぉ立てて走ってりゃよぉ……病み上がりの頭でも見つかんぜ……!」

 ワタシの意識はそこで途切れた。







 回復したヴルカさんによる素早い一撃で魔女は無事に倒され、捕らえられた。

「ありがとな、アズリア。助かったぜ。盛大に感謝だ」

「い、いえ……わたしも無我夢中だったので……。それに、なんであの状態から回復できたのかもよくわからないですし」

 ヴルカさんに鎖を巻き付けたことで結果的には回復した。しかし、なぜそうなったのかは全くもってわからない。

「よくわかんねぇけどよ……もしかしたら魔法が発現したんじゃねぇの?」

「えっ?」

 わたしに固有魔法が……?

 本当なら喜ばしいことなんだろうけど、窮地の中、成り行きで発現した上にその効果もよくわからないとなると釈然としない。わかっているのは鎖を巻き付けると何かが起きるということ。

「まぁ発現したては扱い方がわかんねぇってのはよくあることだ。とにかく、発現してよかったな!」

「はい……ありがとうございます」

「よし!帰ったらお祝いだ!アタシが奢ってやる」

「えっ、魔女の連行と報告は?」

「終わってからに決まってんだろ。ちゃっちゃと済ませて飯屋に行くぞ!」

「はい!」

 魔法に関してはなんだかもやもやするけれど、素直に良かったと思えることもある。

 今回は確実に、わたしがいなければ魔女討伐を成し得なかったということだ。わたしが何かを成し遂げる力があるとわかったことは、少し嬉しかった。だって、これからも戦っていけるかもしれないことの証明なのだから。それは、わたしが何よりも欲しかったものだ。

 魔法と、成果と、2つの収穫を得てわたしの初任務は終了した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る