6.無限の罠
家々の外壁に"糸"を飛ばし急速に収縮、これを素早く繰り返し、炎を噴射して飛ぶヴルカさんの後について行く。
「今回起きたのは魔女による強盗事件、金品を奪った魔女は逃走、近隣の森で潜伏しているとの情報が入った。今はそこに向かってる」
「潜伏?なんで魔女は逃げないんですか?現場近くで隠れるくらいなら、より遠くへ逃げて追えないようにしたくなるものじゃないんですか?」
「ウェルタでの件もそうだが、捧げ物っつったか?最近は強い魔法使いを狙う魔女が多い。わざわざ騒ぎを起こして潜伏すんのはアタシらみたいのを待ち伏せする腹積もりかもしれねぇ」
たしか最初学院で襲われたときに魔女は魔力量を見ていた。となればその捧げ物とやらには魔力の多い強力な魔法使いが該当するのだろう。ならば士官が戦いに出てくるよう仕向けるのは納得だ。
そうして話しながら飛んでいると森が見えてきた。ここに魔女が潜んでいる……。そう思うとわずかに緊張を覚えた。
「ここからは徒歩だ。盛大に飛び回ってる奴がいたら気付いてくれっていうようなもんだからな。それと、敵はどこから襲ってくるともわからねえ。気ぃ張れよ」
「はい!」
緊張を絶やさないまま森に足を踏み入れる。森の中はわずかに木漏れ日が差すくらいで薄暗かった。草木が生い茂るこの中で潜伏されれば、たしかにどこから襲われるかわかったものじゃない。一度そう考えだしたら風が枝葉を揺らすざわめきでさえ気になってくる……。そんな風に思いながらも慎重に歩を進めていくと、前を歩くヴルカさんが私を手で制止した。
「どうかしたんですか?」
声を潜めて話しかける。
「見ろ……小屋だ」
前方を見やればたしかに小屋があった。しかし、こんな森の中に小屋……?近隣住民が建てたものだろうか。
「なんでこんなところに……」
「わからない。魔女が隠れ潜んでいる可能性もある、気をつけろ。だが住民がいないとも限らない。その場合避難誘導をしないとな」
こんな森奥に人なんて、と思ったけどたしかに万が一ということもある。ヴルカさんの言う通りだ。
「鍵は無いみたいだな……お前はアタシの後ろにいろ。いいか、開けたら一気に踏み入る。安全を確認できるまで気を抜くなよ」
「はい」
声を潜めながら連携を確認する。罠があるかもと思うと心臓がドクドク聞こえてくる。
「開けるぞ」
ヴルカさんはギ……とわずかにドアを開けて隙間から確認すると、バン!と一気に開け放ち、戦う構えをとりながら中へと踏み入った。
わたしもヴルカさんに続いて恐る恐る中へと入る。幸い小屋の中には誰も居らず、罠らしい雰囲気も感じられなかった。
「何もないみてえだな」
「そうですね……」
とりあえずは良かったと、何事もなかったことに安堵した。
「魔女がここにいたような痕跡も見当たらない、探索に戻ろう」
「はい」
小屋の外に出て再び森の中を………とそこまで考えて疑問が浮かんだ。
外に出る?どうやって?
「………………え?」
こんな疑問が浮かんだことに疑問を浮かべた。なんでわたしは外に出る方法がわからないんだろう?さっきドアを…………ドアを?どうやって?
外に出るなんて簡単なことのはずなのに、その簡単な答えに思考がいつまでもたどり着けない。
「オイどうしたアズリア。早く外に出よう」
「それが……どうやって外に出ればいいんでしょう」
「そりゃお前……………えっ、と」
どうやらヴルカさんも同様の状態に陥っているらしく、無限の思考に2人で困惑してしまった。
「どうやらアタシたちは……もう既に罠の中らしい」
こうしてわたしたちは鍵の無い小屋に閉じ込められてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます