第53話 封筒の中身

 部屋に戻ると、届けられた郵便物の中に茶色い無地の封筒が入っていた。

 

 何か公的な手続きのお知らせだろうかと表と裏を確認するが、差出人の

ヒントとなるような文字もロゴもない。

 

 少し緊張しながら開ける。

 封筒のフタには糊などで封はしておらず、そのまま開くことが出来た。


(……?)


 この時点で私は違和感を覚え、一瞬中身を確認するのを躊躇する。

 これはもはや本能的な反応だった。


 すぐに中身を確認する勇気は持てず、時間稼ぎのつもりで、その他の

郵便物を確認する。

 しかし他の郵便物はどれもダイレクトメールばかりで、この作業には5分

もかからず済んでしまった。


 仕方ない。

 いつまでも確認しない訳にはいかない。

 私は意を決して、無地の封筒の中身を確認することにした。 

 

 ――すると中には、唯香と愛理が一緒に収まっている写真が一枚入って

いた。


***


 写真の中の愛理は失踪時よりも少し髪が伸びており、着ている服も見た

ことがないものだった。

 動きやすさ重視だった愛理が、この写真の中ではフェミニンなテイスト

を取り入れたトップスを身に着けている。

 

 それに対して一緒に写真に映っている唯香の服装は、お気に入りなのか、

ここ最近私もよく目にするベージュのブラウスとピンクのセンタープレス

パンツの組み合わせだ。

 

 そして写真が撮影された場所は洋風の一軒家の前で、二人はその家へと入って

いこうとしているところを撮影されている。

 二人の目線からして写真を撮られていることに気づいてなさそうなところに

違和感を覚えるが、それ以上に不気味なのは愛理の顔を囲うようにペンで丸が

描かれているところだ。 


(……これは一体?)


 私は封筒から取り出した写真を見るなり、身体が凍り付いた。

 とても現実感がまるでない。

 それでも窓の外から聞こえる蝉の声が、この非現実的なシチュエーションが

決して夢ではないと告げている。


 ――驚いている場合じゃない。これはチャンス。そう思わないと。

 

 深呼吸をして少し落ち着いてから、私は写真の裏を見た。


「ハシ ワタリシ モノ ニゲラレナイ 〇ガツ△ニチ」


 裏にはその一言だけが書かれていた。

 全部カタカナで特徴的な文章が「0」を髣髴ほうふつとさせる。


 それに「〇ガツ△ニチ」は今から2日前の日付になるから、送り主

からすると、この写真は2日前に撮影したことをアピールしたいの

だろう。


 もちろん手で書いた日付なので、当然いくらでも好きな日付にする

ことは出来るというのは分かっているのだが。

 

 これはどう解釈したら良いのだろうか……。


 「ハシ ワタリシ モノ ニゲラレナイ 〇ガツ△ニチ」で、愛理の

顔に丸が付いているということは、「ハシ ワタリシ モノ」の「ハシ」

というのは、やはりX集落の神域と集落を結び、怪奇現象が起こったあの

橋のことだろう。


 だったらこの「ハシ ワタリシ モノ」には、私も入るのではない

だろうか。


 ダイニングテーブルに座って腰を落ち着け、他に何か目に付くものは

ないかと、じっくり写真とその裏、そして封筒を念入りに見つめる。

 

 しかしどれだけ注意深く観察してみても、差出人の正体に繋がる手がかり

をはじめとして、他には特に目を引くものはなかった。

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