第47話 A氏の語り
荒唐無稽な話をざっくばらんに語っているA氏の様子も、かえって真実味を
増しているようにも感じる。
しかし後半になるにしたがって、話の非現実具合がヒートアップしていって
いることも事実。
執筆者たちはこの話をどう現実と結びつけ、解釈と裏付けをしていくのだろうか。
門外漢なりに、難しそうな作業だと思わざるを得ない。
実際パラパラとページを
記事以降のページには、郷土史家と「Y君」が協力して聞き取り調査を行うものの、難航している様子がドキュメンタリータッチで書かれていた。
それによると、まず最初に二人は地元の有力者たちに「橋姫の里」について聞き取り調査を行うのだが、彼らは「知らない」と答えるか、もしくは警戒心を
それではと一般の人に聞き取りをしてみても、一律に「知らない」と答える。
この際、里から町へ下りてくる人間がいるという昔話があることから、それも含めて聞き取りをしてみても、皆が「知らない」としか答えない。
こうなったら現地調査するしかないと、二人で添山に向かい、「橋姫の里」に向かうことにするが、それも難題が立ちふさがる。
そもそもA氏は地図もなく里から逃げて来たので、正確な場所は分からない。
もう山に分け入って、手あたり次第探そうと添山の所有権者を探し当てて尋ねて
みても、私有地につき立入禁止であると協力を拒否されてしまう。
結局、今回の調査で分かったことは、聞き取り調査の反応や所有権者の態度から「橋姫の里」が添山にあるとするのはタブーであると考えられている節があるという
ことくらいだった。
そこから執筆者たちは、同じく「それについて話すことがタブー」である隠れ里の
伝説と共通し、地域も同じことから、やはり「隠れ里」と「橋姫の里」は根は同じ
なのではないかと推測していた。
その他のA氏のにわかには信じられない証言の数々については、A氏の母親の遺書だけが根拠なので、現段階では証拠としては弱い。だからなんとかして補強証拠を手に入れたい――協力者のA氏に感謝しているからこそ、執筆者二人はそう考えていたたことが文章の端々から伝わってくる。
この分だと「あとがき」にさぞかし二人の無念の思いを記しているのだろうと
思っていたら、思いがけないことが書いてあった。
『A氏は親族の者たちによって、入院させられた。なんでももともと病気ゆえに服薬していた薬の副作用で近年は酷い妄想癖があったということ。ゆえに今まで私たちに話したことは、病人の妄言ということで削除して欲しいという要請があった。
だが私たちは、A氏と
A氏の詳細な「橋姫の里」の描写は、すべて妄想と主張する親族と、A氏の証言に信頼を置く執筆者――どちらを選ぶのかは読者次第。
執筆者二人が自分たちの判断で情報の取捨選択をしていないあたり、真実を追う者として公平な姿勢を貫いている。
本をパタンと閉じて目を瞑り、しばらく考える。
私は当然後者、つまり執筆者二人の意見を支持する。
愛理が語るX集落との符号は、改めて考えてもやはり偶然の一致とは思えない。
そうと決まったら、やることがある。
早速私は、パソコンを開いた。
気づけばカーテンの隙間から朝日が漏れ、早起きの小鳥たちが朝を告げる時間になっていた。
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