第30話 手がかり


 最初に手を付けたのは、愛理と二人で運営していたオカルトサイト。


 本来は運営者の一人として毎日でもサイトの管理をしなければなら

ないし、愛理が姿を消した以上、それは確実に私の義務だと分かって

いたのだが、あえて避けていた。


 サイトのネタ探しが、一連の不吉な出来事のきっかけであるという

事実がどうしても頭から離れず、義務を果たすことよりも敬遠したい

気持ちの方が勝っていたのだ。


 X集落に関する記事というのも、もうサイトからは削除されている

ことを確認したのだから、仮にX集落の記事を掲載したことが愛理の

失踪と関係があるとしても、サイトにはもうヒントに繋がる情報など

ないとも思っていた。


 でも改めて考えてみると、私が唯香と確認したのは、あくまでネット

上での話だ。

 

 管理者の一人である私なら、サイトの管理画面を見ることが出来る。


 だから愛理が完全に記事を抹消していなければ、サイトの管理画面上

の「ゴミ箱」などに記事内容が残っていた場合、内容を確認すること

だって出来るのだ。


 ここに思い至った私は、早速自室に戻りノートパソコンを立ち上げた。

 すぐにサイトのアクセスし、アカウントとパスワードを入れて、

管理画面にログインする。

 

 すると――。

 

「あった!」

 

 やはり愛理は「X集落についての記事」を抹消してはおらず、ゴミ箱に

記事は残っていた。


 記事の内容を確認してみると、民家での怪異現象や狐面の男のことなど、

X集落で起こった怪異の詳細を文章で丁寧に伝えている。

 高価な機材を失い、写真や画像を貼ることが出来ない代わりなのか、

記事ではいつも以上に丁寧に状況を説明していた。


 公開日時をチェックすると、私たちがX集落から帰ってきた夜に愛理は

記事を投稿し、唯香と話し合いをした直後に消したことが分かった。


 およそ1日の間、ネットで誰でもこの記事を閲覧できる状態になって

いたわけだ。


「そうだ! コメント欄は?」

  

 もしかしたら記事をネット上から消す前に、X集落にまつわる

呪いや、言い伝えを聞いたことがある訪問者がいたかもしれない。


 確かにX集落は一般には知られていない心霊スポットであり、集落の人

たちも内々のことを漏らすのは土着信仰の禁忌だと愛理は言っていた。


 だが愛理にそれを教えてくれたのは、他ならぬ元集落の住人なのだ。

 別のX集落にゆかりのある人だって、愛理の記事を偶然目にして、

何か書き込みをしてくれている可能性もゼロではない。

 

 自分に都合の良すぎる期待を込めて、私はコメント欄をチェックする。  


しかしこの記事に対する数少ないコメントは、「こんな場所があったん

ですね!」など当たり障りのないものばかりで、X集落に関する情報を

提供してくれているユーザーはいなかった。


 そもそも閲覧数が30PVも達していない。


 閲覧数の少なさが掲載期間が1日だったせいなのか、訪問者の興味が

目新しさよりも知名度に重きを置いているせいなのかは分からない。

 だが記事を目にした人が少なかったことは、有益なコメントが見当た

らなかった一因ではあるのだろう。


 いずれにせよ、分かったことは、X集落に関する記事の公開期間と

訪問者が少なかったこと、数少ないコメントは当たり障りのないもの

しかなかったことくらい。


 とても愛理の行方を知る手がかりにはなりそうもない。


 少し落胆しながらも、せっかくサイトの管理画面を開いたのだからと、

コメントへの返信をするついでに、サイトの問い合わせフォームに来た

メッセージを確認する。すると――。

 

「……あれ?」

 

 愛理がX集落の記事をネットにアップロードして1時間も経過しないうちに、

問い合わせメールが一通来ていた。 

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