第27話 メッセージ


 翌朝、1限目の授業に出席するために準備していると、スマホのSNS

アプリに「メッセージ受信」の通知が来ていた。


 愛理からだ。


どうやら私が眠っている間に、愛理が私にメッセージを送ってくれて

いたらしい。


 気づかなくて悪かったなと反省しながら、私はメッセージを開いた。 


『佳奈美、ごめんね。私が絶対になんとかするから』

 

 ……どういう意味だろう?


 戸惑いつつも、昨夜の愛理の涙を思い出して、私は居ても立っても

いられない気持ちになった。


 唯香と話し合いをしてから様子がおかしかったから、昨晩の話し合い

が関係あるのは間違いないだろう。

 でも仮に私と同じことを唯香から伝えられたのなら、このメッセージ

が何を訴えたいのかさっぱり分からない。


 本人に尋ねるため、私は早速愛理の部屋に向かうことにした。

 直接部屋に出向く前に、メッセージの返信をする。


 その時の私は「愛理を起こすついでに聞いてみるか」くらいの軽い

気持ちだった。

 どのみち1限に授業があるときには、私が愛理を起こして一緒に大学

へ向かうのが半ば決まり事のようになっていたからだ。


「おはよう、愛理。今日は1限だから迎えに行くよ。7時30分でいい? 

あと昨日のメッセージ何? 意味が分かんないから、後から教えて」


 いつもより少し長くなってしまったメッセージ本文の文末には、

ニコニコした表情の顔文字を入れて送る。


 これもいつもの習慣だ。


 こんな風に私がSNSでメッセージを送ると、愛理から「この時間に

部屋に来てほしい」という返信があり、それに合わせて私が愛理の

部屋に向かう――という方法をとっている。


愛理の寝起きが悪いことから、なんとなく始めたこの決まり事だが、

意外と効率的に機能している。


 そして今朝もそのようになるはずだった。

 


 それなのに――どれだけ待っても愛理から返信が来ることはなかった。


 このままでは遅刻してしまうと愛理の部屋に行ってノックをして声を

かけてみても、部屋の中からは応答がない。


 昨夜の話し合いの動揺がまだ続いているのかなと思った私は、「先に

行っているよ!」と声かけをして、念のためにSNSでメッセージも送る。

 そして今度は食堂で待つことにしたが、食堂ホールにも愛理が現れること

はなかった。


 この時点で私も「少し様子がおかしいな」とは思った。

 

 しかしそれでも「先に起きた愛理が図書館でスマホの電源をオフにして

自習をしていた」とか「所属しているサークルの用事でスマホに出られない

状態である」とか、もっともらしい理由は幾らでも想像できるので、私は

それほど気にしないまま他の友人と大学へ向かった。


 

 だが結局、愛理は1限目の必修の授業にも姿を現すことはなかった。

 

 それだけではない。

 その日に愛理と一緒に取っていた授業はすべて欠席。

 休憩時間の校舎でも、寮の中でも、その日は愛理の姿を見ることはなかった。


 事ここに至って、私は遅まきながら事態の重さに気づいたのだった。

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