第21話 連れ


 高速道路へと続く国道沿いにあるその道の駅は広い駐車スペースをもち、

乗用車やバスから観光客が次から次へと降りてくる賑やかな場所だった。

 横に長い三角屋根の建物には、レストランに土産物屋、飲食スペースなど

一通りの機能が揃っており、外側には駐車スペースの他にも、ドッグランや

小さな公園まで付属している。

 

 とにかく人の存在を感じたかった私たちは、活気ある道の駅で人混みに

紛れることで、ようやく人心地がついた。いつもならイライラしてしまう

トイレの順番待ちですら、少しも苦にならない。


 飲食スペースで流れるテレビの音を聞いたり、土産物屋に所狭しと並ぶ

名産品の数々などを見ていると、X集落の出来事はまるで旅先での夢物語

だったような気さえしてくる。


 愛理が「なんか眠くなってきたから、ガムでも買ってくるね。心霊とか

関係なく、事故ったら洒落にならないもの」と買い物をしている頃には、

段々と行きと同じ雰囲気になってきた。


 良かった。残りの帰路は穏やかな時間を過ごせそうだ。 

  

 私も少しずつ日常の感覚を取り戻しつつあり、愛理を待っている間、

土産物屋で名産品を物色しようと思えるくらいの余裕が出てきた。


 飲食スペースと隣接する土産物屋は、コンビニも兼ねているせいか広い

スペースが割り当てられており、陳列テーブルには所狭しと物珍しい名産品

が並べられている。


 寮の友人たちに何かお土産でも買っていこうかと、名産品を1つ1つゆっくりと

吟味する。


 すると――突然あの嫌な感覚に襲われた。

 

 誰かに見られている。


 神域で感じたのとよく似た強い視線。

 それが自分に向けられていると感じて、一気に全身が強張る。

 周囲の騒めきも、一瞬で遥か遠くのことのように感じた。


 勇気を出して、少しだけ後ろを振り向く。

 だが背後にも、ガラス窓の向こうの建物の外にも、それらしき人物を見つける

ことはできなかった。


 その事実に血の気が引いた私は、急いでレジでお金を払っている愛理の傍に行き、「また視線が……」と小声で訴える。

 ありがたいことに今度ばかりは愛理もすぐに私の異変を察して、「わかった。すぐに出よう」と小声で答えてくれた。


 すると愛理が買ったものを袋に入れていた店員の女性が言った。


 「お連れの方も、一緒に会計しますか?」


 「え? すみません。私は何も買わないので……」


  レジにいる愛理の横に来たから、店員さんに勘違いさせてしまったかなと反省

しながら言うと、年配の女性店員は大きな声で否定した。


 「お嬢さんじゃなくて、後ろの――」


  そして店員は大きく身を乗り出すと、私たちの後ろに向かって言いかけたが、

すぐに言い直した。


 「あらまあ、連れの方じゃなかったのね。こっちをじっと見ていたから、てっきり連れの方だと勘違いしちゃった。ごめんなさいね!」


 その言葉に私と愛理はギョッとして後ろを振り返った。


 しかし店内を見て回っている客の中に、それらしき人物は見当たらなかった。


 もちろんすぐにこちらを見ていたのはどんな人物だったのか店員に尋ねようと

したが、いつの間にか私たちの後ろに並んでいた客に「はい、次の方!」と呼び

掛けていたので、やむをえずレジ前から離れた。 


 混雑具合からして、しばらく列は途切れそうにない。

 やむをえず私たちは店員に直接尋ねるのは止めにして、店内を探すことにした。


 しばらく愛理と二人して「私たちを見ていた」という人物を探してみたが、

やっぱりそれらしき人を見つけることは出来なかった。

 運悪く大型観光バスから降りてきた観光客で店内がごった返し始めたことも

あり、仕方なく諦めるしかなかった。


 せめてもと私たちは少し遠回りしてレンタカーまで戻ると、今度はどこにも

寄らずに、まっすぐに帰路を急ぐことにした。

 

 まだ続いている――。

 

 帰りの車内は、再び沈黙に包まれた。

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