第16話 目覚め


 ……なんだか身体がひんやりする。

 それに腕や足がところどころ痛む。


 この寝具はすこぶる粗悪な品質のようだ。

 横を向くと、カビでも生えているのか、青臭いにおいまでする。


 あれ? 私はどこにいたんだっけ?


 ……そうだ。

 確か、愛理と一緒にX集落を探索しに来たら、妙な人影のいる

民家に入ることになってしまって――。


 ここまで思い出すと、暗い家の中で見たモノが勝手に脳裏に浮かんで

きた。


 強い光に照らし出される押し入れ。身体中にお札を貼られた日本人形。

開かない扉。暗闇で倒れ込む愛理。


 一気にあの時の絶望感と、線香の匂いが蘇る。


 ――そうだ! 

 私、いや私たちは閉じ込められていたはず!


 記憶を失うまでの出来事が一気に繋がり、私は慌てて半身を起こす。

 そして初めて自分が今いる場所がわかった。



 私が寝かされていたのは、そよぐ木々に囲まれた地面で、隣では

いまだ意識を取り戻していない愛理が倒れている。

 

 そして目の前には、見覚えのある古い社が建っていた。

 

 前に来たときと違い、朝の白く澄んだ陽の光に照らされているからか、

一層荘厳な雰囲気をまとっているが、間違いない。


 

 ――ここは神域だった。


***


「……なんでここに?」


 私は思わず呟いた。


 あの民家から神域までは距離がある。

 それに人影のいたあの民家での絶体絶命の状況の中、何がどうなって

私が今ここにいることになったのか、全くもって分からない。


「ん? 何? ……どうしたの?」


 私が混乱のただ中にいると、場にそぐわない呑気な声で愛理が言った。


 誰に聞かせるつもりでもなく発した独り言だったが、それが愛理の意識を

取り戻すきっかけになったようだ。

 とはいえ欠伸あくびをしながら身を起こしているあたり、緊迫感はまるでない。


「あれ? あの鳥居って……まさか、ここって……」


 それでも周囲を見渡して、自分が今いる場所を把握すると、愛理の呑気な顔も

一気に引き締まる。どうやら愛理も私と全く同じ疑問をもったようだった。 

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