第11話 室内にて

「あ、愛理、見つけた! 不法侵入はまずいって! ほら、帰るよ!」 


 律儀にも「誰かいますか?」と玄関口から家の中に向かって呼びかけている

愛理に追いつき、私は説得を試みる。

 しかし「やっと心霊現象を体験できるチャンスが来た!」とウキウキしている

愛理が折れてくれるはずもなく……。

 むしろ私の方が、アクセス解析の数字を根拠に、逆に説得されてしまう始末。


 このX集落探索だって、バイトで稼がないと今回のロケすら敢行できない私たち

にとって、サイトの広告収益アップは悲願なのだ。これを出されてしまうと、

どうにも説得し辛くなってしまう。


 結局、私は愛理と一緒に「先ほど見た人影のいた二階まで」という約束で付き合う

ことになってしまった。

 

 とはいえ、もちろん私の心情的には中になんて入りたくないわけで、愛理の前に

ある玄関の引き戸が開かないことを内心祈っていた。


 心霊スポットを探索する動画では、壁や扉、窓がすっかり損壊していることが多いが、この屋敷は比較的外観を保っており、玄関扉など風雨にさらされ汚れてはいるものの、しっかりとした造りだったのだ。


 転居する際に家財道具をすべて搬出しているあたり、前の住人は常識的な人物の

ようだから、普通に施錠しているだろうと私は期待した。施錠までされていれば、

さすがの愛理も、鍵をどうこうしてまで中に入ろうとはしないだろう。


 愛理が何のためらいもなく、引き戸に手をかけたとき、私は渾身の力を込めて

祈った。



 ――だが私の期待もむなしく、愛理が両手に力を込めると、玄関の引き戸はスッと開いてしまった。


 さすがに電気は通っていないようで、室内は当然ながら真っ暗だ。

 もちろんこれは想定済みなので、ライトで背後から照らす。

 

 「お邪魔します!」


 意気揚々と先ほどの人影らしき人物に挨拶をした愛理は、自分もスマホのライトで前を照らす。そして後ろにいる私に向かって、まずは人影がいた2階へと続く階段を探すことにしようとささやいた。


 「お、お邪魔します……」


 いきなり期待が外れ、諦めの境地になった私は仕方なく覚悟を決め、ライトの角度を調整し足元に注意しながら愛理に続く。


 「…………!」


 家の中へ一歩足を踏み入れると、強い線香の匂いがした。


 「いいね、いいね。これは期待できそう!」


 普通ではない様子に早速臆する私とは対照的に、愛理は期待でますますテンションが上がってしまう。少しでも怖さを減らすため、私はライトの明るさを最大にした。

 そしてテンションが真反対のまま、おそるおそる順番に部屋を見ていく。 


 室内はこういった廃墟にしては珍しく、家財道具はあらかた運び出されているようで、ところどころ植物に侵食されたり、動物に荒らされたりしているものの、雑然とした雰囲気は全くない。こういった場ではお約束の落書きすら見当たらないのだから、このX集落は本当にレアな心霊スポットなのだろう。

 

 この間も線香の匂いは消えることはない。どの部屋に行っても線香の匂いが濃く漂っていた。


 とはいえ肝心の二階はからは怪しい物音などがすることもなく、匂い以外に異変を感じることはないまま、ようやく二階へ続く階段……があったらしき場所まで来た。


 「え、うそ……」


 頭上には二階の床が見えているというのに、本来そこと繋がっているはずの階段は、私たちの目の前の床に転がっていた。

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