第5話 門外不出
愛理によると、偶然X集落に迷い込んだ山中で迷ったライダーがSNSに投稿した
記事を偶々目にしたそうだ。
SNS内を「廃墟」とか「心霊現象」など、それっぽい言葉で検索していたところ、ヒットしたらしい。
その投稿主本人は特に心霊現象に遭遇した訳ではないが、よく見知っていたつもりの場所に、廃屋だらけの不気味な集落を発見したことでテンションが上がり投稿したとのこと。
バイクアカウントなので、当然中心となるのは愛車であり、不気味な集落はあくまで添え物。あくまで一時の間消費される話題の1つに過ぎない。事実バイク仲間からの反応も、それを裏付けるものだった。
だがその中に異彩を放つコメントが一つ。
『そこはX集落という呪われた場所。二度と足を踏み入れるな』
この短い警告に続いて、ご丁寧にもその
先ほどスラスラと愛理がX集落について説明できたのは、このコメントの
受け売りだという。
そしてこのコメントは他にもX集落の曰くについて、複数のコメントを残した。
曰く、肝心の怪奇現象は――お金に困った神域の管理者が門外不出のモノを外部に持ち出したことで、神の呪いを受けて橋のたもとで家族を道ずれに心中してしまってから起こるようになった。
その日以来集落でも、橋を中心に不気味な怪奇現象が頻発したため、数少ない集落の住民も他所へと引っ越さざるを得なかった。
その結果、X集落は、廃屋の集う呪われた地になってしまった――。
「何これ!気になる!」と興味をもった愛理が、オカルト系のSNSやコミュニティで「X集落」について探しても、このアカウント以外にX集落の情報はなく、「これはバズる!」と判断した――そう説明しながら、成功の予感に愛理はドヤ顔で笑みを見せる。
マニアにも知られていない呪われた場所――確かに私たちのようなオカルトサイトを運営している者からすれば、放ってはおけない「穴場」だ。
しかし――解せない。
「でも、たった一人のSNSアカウントに対する反応コメントが根拠って……SNSで
注目されたい人の嘘かもしれないよ?」
コメントに興味を持った人にフォローしてもらうのが目的で仕込んだ話と考える方が、自然だ。それに――。
「そのコメントした人って、たぶん元X集落の人なんでしょ? 今愛理が教えてくれた話って、土着信仰で門外不出にされている話のハズでしょ? それなのにSNSで全世界に向けて発信してるっていうのが、そもそもおかしくない?」
「DMで聞いたら、その人はもう呪われていて、どのみち助からないから、他の人にはそういう思いをして欲しくないんだって!」
そこで愛理は思い切って、なんとコメントをした人に直接連絡をとっていた。
しかしそれが本当なら悠長にSNSなんてやっている場合なのだろうか?
ますます疑念が湧いてしまう。
それが伝わったのか、愛理はむきになって反論してきた。
「少なくとも地図アプリでは、集落があるのは確認できたんだよ! だから何もないってことはないよ!今まで知られていない不気味な噂のある場所に行ったってだけでも話題性はあるんだし、オカルトサイトの運営者的には行く価値は絶対あるよ!」
最近になってライバルサイトの記事が何個もバズり、反対に私たちのサイトのPV数があからさまに落ちているのもあって、ここらで1つテコ入れが必要なのだ。
自然と愛理の声にも力が入る。
「まあ集落が存在するっていうなら、私はいいけれど」
行って何もないとか、立入禁止という撮れ高ゼロが一番困る。
だが何らかの集落が存在するというのなら、収穫はある。
信憑性への疑問は消えないものの、私は改めてX集落訪問に渋々ながら賛同した。
車内でそんな話をしている間にも、窓の外ではだんだんと民家がなくなっていき、ひたすら狭い山道が続いている。行き過ぎる車の数も、いつの間にか少なくなっていた。山際を橙の光が縁取り始めているのを見て、愛理も焦り始めた。
「ちょっと急がないとね。陽があるうちの集落の様子も写真で撮っておきたいから!」
昼間と夜でどう雰囲気が変わるのかを写真で提示し、何か怪しげなものでも映ればなお良し、出来ればそれを視聴者が発見してくれると一層盛り上がる――ここは運営者の腕の見せ所だ。
この時の私たちは、呪いに対する恐怖なんてほとんどなくて、撮れ高や閲覧数など、極めて俗世的なことしか頭になかった。
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