第4話 土着信仰


 今更ながら、この時点まで私はX集落について「レアな心霊スポット」という情報以外には何も知らされていないことに気がついた。


 ここのところ学校や寮では唯香の目を気にしていたから、愛理から聞き出す機会がなかったのだ。


「X集落で起きたことは元住人しか知らないし、土着信仰っていうの? なんか特別な掟みたいのがあって、その信仰とかそっち系のことを外部に漏らすことはタブーになっていたんだって」


 愛理によると、X集落はある土着信仰の神を奉る神域を守るために作られた場所であり、信仰に基づく禁忌がいくつもあったそうだ。 


 禁忌の一つが、土着信仰にまつわる話や見聞きしたことを外部に漏らしてはいけないというもの。だから、X集落以外の近隣住民はX集落の存在は知っていても、その信仰やその内容に関しては、まるで知らないはずなんだとか。


「怪奇現象が起こるようになったのは、その土着信仰と関係があるんだよね。だからその辺のことを知らない近隣の人は、X集落で怪奇現象が起きるとか、心霊スポットだなんて認識しているはずがないんだよ」


 だから唯香が仮にX集落近隣で生まれ育ったとしても、X集落は「とうとう消滅した限界集落」と認識することはあっても、「危険な心霊スポット」だとは思わない。


「行っても無意味だ」と警告することはあっても、あんな必死に引き留める理由はない――だんだん山道のカーブがキツくなってきたこともあり、愛理は真剣な表情でハンドルを握りながら、そう説明した。


 なるほど。

 その点に関しての疑問は解けた。


 だが私は胸の奥では、あらたな違和感がくすぶり始めていた。

 原稿を読むようにスラスラと説明する愛理に、私の違和感は膨らんでいく。


 真剣な表情の愛理が、角度によっては違う人に見える気さえする。

 頭で響く警告音を打ち消したい私は、空気を変えたくなくて口を開く。


「唯香がX集落の元住人の孫とか血縁者とか、実は元住人だったってことはない?」


「集落内の話は、たとえ血縁者にも他言無用って話だし、X集落で一番若い住人は

ここ20年近く、50代か60代だったって話だよ」


 愛理の説明が事実であれば納得のできるものだったが、それならなぜ唯香が強硬に反対したのか余計に分からなくなる。


 それに謎と言えば、もっと不可解なのは――。

 途中から感じていた違和感を思い切ってぶつけてみる。


「そっか。余計に唯香があんなに反対した理由が謎だよね。でも一番不思議なのは、元住人以外には他言無用のX集落の話を、どうして愛理が知っているのかってことなんだけど」


 ネットでは時折整合性のとれない作り話というのは散見するけれど……。

 窓の外はどんどん暗く寂しい道になっていくから、余計に少し不安になる。


 そういえば肝試しで心霊スポットを訪れた人が、突然別人のような言動をするようになったという怪談をネットで見かけたことがある。その話では、霊に憑りつかれてしまったというオチだったけれど……まさか……ね。


 なまじオカルトをかじっているだけに、不穏な連想が止まらない。


「あはは、確かに! そんな門外不出の内容をどうやって私が知ったんだって怪しく感じるよね? ははは、確かにそうだ! これがさあ、なんとSNSのオカルトと関係ない投稿がきっかけなんだよね!」


 私の不安に気づいた愛理は、自分への疑いを明るく笑い飛ばす。

 そしてドヤ顔でX集落の話に辿り着いた経緯を教えてくれた。


 愛理がX集落の存在を知ったきっかけは、意外なことに、普段は専らバイクの情報を発信しているSNSアカウントの投稿だったそうだ。

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