第3話 棘
X集落は、鄙びた観光地を抜けた先の山中にあった。
運転する愛理ととりとめのない会話をしながら細い山道を道なりに進んでいくと、
ペンション風のカフェや田畑が現れては通り過ぎていく。
山道では小回りが利くものをと選んだコンパクトカーは、高速道路でも安定して
走行できるタイプの車種で、コンパクトカーにしてはゆったりめの車内は二人で
座っても快適で乗り心地も良かった。
「前回の反省を踏まえたんだ! 学習しているでしょう!」と愛理が得意げに言うのも納得だ。
快晴の青空の下、
X集落に行ったとしても、きっとこの長閑な風景の延長上で、怪奇現象も「山奥」「廃墟」「暗闇」といった不気味に思わせるスパイスが見せた幻影なのだろう。
今までに訪れた数々の心霊スポットも、大体そうだった。
『絶対に行っちゃダメ! 百歩譲って心霊スポットに行きたいのだとしても、他に
行きな』
心ではそう思いつつも、取れない棘のように唯香の警告が気になってしまうのも、また事実。
あの日から唯香は毎日欠かさず、X集落に行っていないか、その予定はないかと、しつこいくらいに愛理と私に確認してきたのだ。
だからこの日にX集落を探索することは、愛理と示し合わせて秘密裏に決行したものだった。
「唯香って、ここらへんの出身だっけ? あんなに反対するってことは、ここら辺に住んでいる地元の人なら、誰もが知っている有名心霊スポットなのかなって思ったんだけど」
唯香も私たちと同じ女子寮に住んでいるから、自宅組ではない。
寮では入寮初日に自己紹介をするのが慣例だから、その時に唯香も出身地について話していたはず。言われてみれば記憶がおぼろげにあるけれど、普段そこまで意識
していないから記憶が曖昧だ。
でもオカルトそのものを毛嫌いしているのに「X集落」の存在を知っているって
ことは、それくらいしか理由が思い当たらなかった。
「いや、確か違ったはず。海の傍に住んでいたって言っていたから、魚がたくさん
食べられていいなあって思ったもん。……それに仮に唯香が地元民だったとしても、X集落が心霊スポットだなんて知っているはずがないんだよね」
「どういうこと?」
思わせぶりな愛理の言葉に、私は思わず聞き返した。
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