第2話 予感

 いつもとは違う真剣な気迫に、さすがの愛理も茶化すことはなく、

「な、なに……急に真剣になっちゃって……」と強がるに留め、言い返さない。

 

 唯香の言葉には得体のしれない重みがあり、愛理もそれを察知したのだろう。 

 短い言葉だったけれど、その時の私にも痛いほど伝わった。

 だからこそ、その重みの正体を知りたいと思った。


 内気なわりには、もともと好奇心旺盛なタイプなのだ。我ながら厄介な性格だと

思わざるを得ない。


 「唯香、X集落について何か知っているの?」


 私が思い切って尋ねてみると、唯香は一瞬、口を開いて何か言いかけた。


 だが、すぐにそれを引っ込めると、「別に……でも、絶対にだめ。どうしても行くって言うなら、私も連れて行って」と私の質問には答えず、代わりに意外な提案を付け加えてきた。


 「オカルト系を毛嫌いしている唯香が心霊スポット巡りに付いてくる」というまさかの展開に私は面食らったが、愛理は反対にすっかりいつもの調子を取り戻した。

 

 「な、なんだ、結局は唯香も行きたいってことじゃない!素直に言えば、連れて行ってやらないこともないけど? ね、佳奈美?」


  いきなり話を振られた私は「もちろん唯香が行きたいなら、一緒に行くのは大賛成だよ。3人の方が怖くないし」と無難な答えを返す。話題が本質から逸れたことで、張り詰めた空気が少しだけ解きほぐれた気持ちがして、私は少しホッとした。


 しかしそれも束の間、唯香はすぐさま鋭い言葉を放ち、一旦和んだ空気は再び引き締まる。

   

 「そんなんじゃない。私が一緒に行くっていうのは、本当にやむを得ない時の最後の手段的な話だから。X集落には行かないに越したことはない」


 真正面から愛理と私を見据えた唯香は、そう言い残すと、次の授業があるからと

その場を後にした。


 ただならぬ気迫の唯香に、愛理と私は呆気にとられて、無言のまま互いの顔を

見合わせる。もちろんその動作に意味などない。ただ唯香が残した非日常の予感を、愛理と共有したくて無意識にそうしていた。


 唯香の肩越しに見える窓の外では、相変わらず小雨が降っていた。



 ――それなのに。

 これが若気の至りというのだろうか。


 唯香の警告があった日から1週間後、私は愛理の運転するレンタカーの助手席に

乗り、X集落に向かっていた。


  唯香の警告を無視したことを、私たちはこの後ひどく後悔することになるの

だが、この時の私たちは予想だにしていなかった。

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