328執行会ー打ち合わせ肆

「人権ジャラマー……?」

「そもそもジャラマーってなんだ?」

「静まれ静まれ。孔雀の、続きを頼む」


 聞いたことのないゲームに会議室に集まった一同は頭の上に疑問符を浮かべる。その様を見た白鯨の爺さんが静まるように言って俺に話の続きを促した。


「ジャラマー、これは私の造語です。ドンジ●ラ、ジ●ラポン、それらとほぼ同じだと思っていただいてございません。

 このゲームはテーブルで行うゲームで、いわゆる麻雀の亜種ですね。ルールを簡略化してとっつき易くしたものがジャラマーです。

 使用する物はジャラ牌、ワンセットで九種九牌に白紙牌一つを加えた計八十二牌になります。それをテーブルを囲んで四人打ち、つまり四名で順番に積んだ牌の山から一つ一つ手元にある牌を掴んでいき、特定の条件を満たせば上がり、その役に準じた点数を貰える。というのを規定の回数行うのがジャラマーです」


「つまり、運と思考のゲーム……」


 茶髪で高身長な女性がポツリと呟く。


「その通りです、もっとも我々が主催する以上はそれだけでは企画を通す訳には行きません。

 故に、参加者たちには人権を賭けていただきます」


 俺の苛烈な言葉に場が騒めく、白鯨の爺さんが両手を緩やかに上下させて場は沈静化した。


「まず、最初の持ち点の配分を不公平にします」


「それは何故です?」


「競争心を煽るため、だろうな。そもそも全員が金銭・恥辱・逃避に妄執的な反応を示して人を殺した奴らだ、明確な格付けをすれば敵意を持って談合など最初から行わないだろう」


 茶髪の女性の再びの呟きに爺さんが答える。歴戦の執行人だけあって理由を的確に見抜くのはお手の物のようだ。

 そして、完全に的中しているのだから、困ったものだ。俺の仕事を取らないでほしい。非難めいた視線を爺さんに向けると、左手を後にやって頭を掻きながらスマンスマンと謝罪してきたので良しとするか。


「続けます。基本的な持ち点を四十万、そこから殺害人数とその他の犯罪行為の合算で減点していきます。

 具体的にあげますと、パチンコ店強盗致傷ならびに危険運転致死傷の佐藤は三人殺害で合計マイナス三万点、パチンコ店店員と軽自動車運転手への傷害で合計マイナス一万点。トータルで三十六万点になります。

 次に、鳥取県警放火の三島。放火でマイナス十万点、殺害人数でマイナス七万点、傷害でマイナス十八万点。合計三十五万点マイナスの五万点スタート。

 最後に二十二人殺しの大野。単純に殺害人数に一万掛けで二十二万点マイナスの十八万。

 どうです? ただでさえ頭に血が上りやすいタイプの三島なんて大暴れすると思いません?」


 恥をかかされたと逆恨みして放火するような奴だからな、効果は覿面と見た。

 俺がそこまで話すと白鯨の爺さんが手を挙げた。


「ちょっといいか。俺は麻雀をやらないから詳しくは知らないが、出てくる点数があまりに大きくないか?」


「そうですね。通常、麻雀における東風戦での持ち点は二万から二万五千点です。それに比べるとあまりに膨大な点数になっています」


「だよな。それじゃあまだ何か追加ルールがあるってことか……」


 お役目放棄で真剣に悩みだす爺さん。いつものことなのか、周りのメンバーはクスクスと嫌味のない笑いを浮かべる。爺さんは周りから愛されてるようだな。


「白鯨さんのお察しの通りです。このゲームには追加ルールが存在します」


 ホワイトボードにペンを滑らせ、細かく文字と数字を書き込んでいく。

 釈放権、四十万点。パスポート、十万点。現金十万円、十万点。偽造身分証、二十万点。エトセトラ、エトセトラ。合計十七種類の項目を書き終え、聴衆のほうへ向き直る。


「それは……?」


 いまいち印象に残らない黒髪の女性が俺に尋ねる。俺はにこやかに、ハッキリと答えた。


「彼らには、ただいまホワイトボードに書き記した報酬をゲーム終了後に購入する権利を与えます。私は釈放権なんて項目に入れたくないのですが、規則の関係上必ず手に入る設計にしないと倫理監査の人に怒られるので差し込んでます」


 ウンウンと茶髪の女性が腕を組んで頷く。そうですか、アナタが監査の人ですか。いつもお疲れ様です。企画室は過激な奴が多いから抑えつけるの大変だろうなぁ。

 補足として、実は執行会は意外と細かいルールで縛られている。参加者が絶対に死亡するゲームは倫理委員会の監査が通らないし、施設使用許可も二十枚を超える許可申請をしないといけない。人を殺すのって手間がかかるのだ。


「なるほど。持ち点がゼロになった奴はもちろん?」

「ええ、毒注入型制御輪での処理をします」


 制御輪とは参加者の首、もしくは手首に装着する輪っか型の小型装置で、遠隔操作で毒を注入や小規模な爆破を行うことができる執行会には付き物な備品だ。

 今回はその制御輪を首に装着させて、有事の際や敗北確定時に参加者へ毒注入する手筈になる。


「これで概要はお伝えしましたので、プリプレイの時に詳しく説明しますね」


 さて、ここまでは前座。いよいよ本題に入る。


「それでは皆さん、二十分の休憩としましょう。その後は――――」


 予算割り振りの時間だオラァ!


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デスゲもの(仮) れれれの @rerereno0706

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