リトル・エクソシスト

 蜘蛛の悪魔は、それから私とオリヴィアに向けて白い糸を発射し続けた。


「「たっ、助けて〜ッ!!」」


 二人揃って、情けない悲鳴を上げながら、必死に交わし続ける。頭を下げたり、その場でジャンプしたり、思いっきり身体をくの字に曲げてみたり。

 はたから見たら、とんでもない光景だろう。


 あんなに賑わっていた街も、いつの間にか人がいなくなったいた。みんな逃げてしまったらしい。


「ええい、どうにかなれー!」


 手に持っていた蝶々のかんざしを私はぶん投げた。

 火事場の馬鹿力かは分からないけれど、かんざしは凄まじい勢いで蜘蛛の悪魔へ目掛けて行った。


 そして──蜘蛛の悪魔にある無数の目に突き刺さった。


 悲鳴のような甲高い声が街に響く。ポテッ、と蜘蛛の悪魔は地面に落ちた。ピクピクと脚は動いているが、どうやら渾身の一撃だったらしい。私はオリヴィアに向かって叫んだ。


「今だッ! ︎︎やれェ!」


「──はっ、はい!!」


 オリヴィアは手に持っている魔法の杖で、ガンガンと蜘蛛の悪魔を叩き始めた。

 私もチャンスは逃さないと言わんばかりに、蝶々のかんざしを引っこ抜いた後、蜘蛛の悪魔を蹴り始める。


 ……何十分経っただろうか。蜘蛛の悪魔は完全に動かなくなった。


「悪魔め、手間かけさせやがって……」


「あの、千鶴。ちょっと怖いです……」


 蜘蛛の悪魔は、黒い霧のようなものになり、やがて霧散した。なんとか、勝てたらしい。よかった……。


「千鶴、すごいですね。悪魔と戦ったことがあるのですか?」


 オリヴィアはキラキラした瞳でこちらを見ている。

 ないないッ! ︎︎と首を慌てて振った。今のはたまたま運がよかっただけだ。


「千鶴はもしかしたら、エクソシストの才能があるかもしれませんね! ︎︎このことを叔父に伝えてみましょう! ︎︎エクソシストはいつも人手が足りないので、困っているのです」


 オリヴィアはため息をついた。


「──っと、この話はさておき。途中で悪魔に遭遇してしまいましたが、目的地に向かいましょう!」


 私とオリヴィアはその場から歩き始める。しばらくすると、大きな三階建ての建物の前で、オリヴィアは足を止めた。古い建物だが歴史を感じさせられる。


「ここは?」


「元々は美術館だった建物なのですが、現在はエクソシストたちが集まる場所として使われています。私の叔父は、ここの一番偉い人なんですよ」


 すっかり夕日も落ちて、暗くなった街が次々とライトアップされていく。

 目の前の建物も、一気に明かりが灯った。綺麗な光景に千鶴は思わず感激してしまう。


「──ようこそ。悪魔祓いの専門機関『アストライア』へ! ︎︎貴方を歓迎します、千鶴!」


 そう言ってオリヴィアは、かわいい笑顔を浮かべたのだった。


 何が起きているのか、全くもって分からないが、とりあえず今は必死に生きてみよう。

 一樹君ともまた会えるような気がする。会えたら、山ほど聞きたいことがあるので、覚悟しておいてもらいたいものだ。


「歓迎されました! ︎︎よろしくね、オリヴィア!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ナイト×エクソシスト 藤春千咲 @fujiharu0604

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ