第8話 旅の途中、


 麗しき水の国。

 平原を駆け抜ける風は、暖かく馬のたてがみを撫でる。

 ああ、豊かなる恵みの国。

(作者不明)




 大陸を東西南北の四つに分けると、西側は大変豊かな地方で、かつての西の国は、水の国、緑の国などと呼ばれていた。

 地形は騎馬民族として発達した事からも分かる通り、緩やかな平野、平地だ。

 北の山々から、雪解け水が流れ、川となり、農耕にも適した豊かな土壌となった。

 また、穏やかな西風の吹く海は、漁業も豊かにした。

 とにかく、豊かさ、暮らしやすさと言う点で他国より勝っていた事は明白であった。

 しかしかつて西の国と呼ばれた大陸の豊かな西側は、騎士王の没後二百年余経った今、十八もの小国に分裂をしている。

 豊かさは隣の豊かさを奪う要因になるのか、このような状態になったのは他の三国に比べて最も早く、また最も細分化されており、争いも絶えない。


「まあ早い話、どの国が領土を広げるか、みたいな…小競り合いが絶えないんだよな」


 だから乱世なんだけどさ。

 南との国境を越えたあたりから、道の険しさもなくなった為か、アルスはやけに饒舌に話した。


「っても、西側諸国は豊かな土壌に変わりはないからな。人間は住みやすい。旅もしやすい」

「なるほど。だが、何故西だと?」

「それはコレのせい」


 アルスは昨晩の刺客から失敬した腕輪を懐から取り出し、指に引っ掛けてくるくると回した。


「これは西側十八国で、ある特定の人間に与えられる物なんだ」

「ある特定の?」

「そ。西側諸国にはある祭典が年に一度開かれるんだけど…」


 もちろんコロッセオの戦いの事だ。

 かいつまんでライリースに説明をする。ライリースは、簡単な説明で充分内容を理解したようだった。


「コロッセオに足を踏み入れるまでには、各地の予選を勝ち抜くか、各国の王宮、もしくは各神殿の推薦がなくてはならない。そのいずれかによって、コロッセオでの戦いの権利を得た者の証として、神殿の中央に位置する聖殿から贈られるのがこの腕輪」


 なんだけど…。


「その、年に一度の祭典はもうすぐだってのに、挑戦者があんたを追ってふらふらしてるってのは解せないよな」

「…つまり、過去の挑戦者?」

「いや、その年の年号が刻まれているからな…。これは今年のものだ」

「辞退したか…」

「…いずれにしろ、参加者の名簿を管理しているのは聖殿だ。そいつの名前と出身地くらいは分かるかもしれねえ」


 あんたを追ってるんだったら、あんたの出身地と近いかもしれないし、手がかり位にはなるかもしれない。


「…で、聖殿とやらはどこにあるんだ?近いのか?」

「ああ、近いぜ。かつての西の国の首都、イージョウにある。そうだな…日夜休まず歩いて三ヶ月ってトコ」

「…それは近い」

 にやっと笑ったアルスにライリースは半笑いで天を仰いだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る