卒業式

「世の光たれ」


 高等部の卒業式は、講堂で厳かに締めくくられようとしていた。

 卒業生ひとりひとりに燭台が手渡され、

 代表者が受け取った灯が、生徒の手から手へと

 分け与えられ、

 照明の落とされた講堂に、ろうそくの灯だけが明かりとなって、

 揺れる。


「行きなさい」


 その言葉を合図に、

 卒業生が退場し始める。


 ピアノが分かれの曲を奏でる。


 ♪~また 会う 日まで

  また 逢う 日まで~♪


 歌は、繰り返される。

 卒業生の列の最後尾にいるひとりが、

 講堂を退場するその時まで。

 繰り返し。

 繰り返し。


 ♪~また 会う 日まで

  また 逢う 日まで~♪

 

 先輩の姿を見られるのも、今日が最後。


 小さなろうそくの灯。

 一つひとつは、小さな灯、

 それが、連なって、講堂に光の道を作る。

 風に揺れても消えない灯に、

 卒業生たちの未来への決意が表れる。


 先輩と過ごせたこの1年。

 わたしが、一方的に先輩の姿を追いかけ続けただけだけど。


 この学校に入学して、

 先輩に出会えて、

 良かった。


 先輩に出会えたことが、わたしの一番の誇り。


 1年間がんばったわたしへのご褒美は、

 先輩のために買った一輪の薔薇の花。

 薔薇の花を、先輩に贈ること。


 最初で最後の、

 先輩へのアプローチ。


 先輩は、受け取ってくださるだろうか。


 高等部3年生の先輩が、中学部1年生のわたしのことなんて、

 知っているはずもないのだから。

 ヘンに思われてしまうかもしれないけれど。


 先輩、

 わたしは、あなたに出会えたことが、嬉しかったの。


 どうか、この想い、先輩に届きますように。
















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清らかに青い春 結音(Yuine) @midsummer-violet

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