風紀検査 ②

 そして、

 くだんの風紀検査の日、

 先輩が唯一、三つ編みをしてこなかった日。


 いつもは二つ結びの先輩が、ポニーテールにしてきたから。

 周囲の人は、とても驚いたそうだ。


 三つ編みをしていないから、

 先輩だと、気付けなかった人もいるらしい。


 そんな貴重な先輩の姿を、

 たまたま、

 その日、体調不良で欠席していたわたしは、目にすることができなくて。


 先生達ですら、先輩のいつもと違う姿に困惑して。


 先輩が、

 一般受験をする一部の生徒達から、酷いことを言われている、

 という話を、

 先輩の同級生が告げ口したのかは定かではないが。


 頼りない感じの、先輩のクラスの担任も、

 この時ばかりは

「大丈夫? 何かあったの?」

 と、訊いてきたらしい。


 先輩は「何を今更……」と思っていただろう。


 通学のバスの中で、明らかに先輩に対する悪口を

 これみよがしに言っていたのは、

 何も、が始めてじゃなくて。

 わざと、先輩にも聞こえるように言われていたイヤミを

 先輩が気付いていないわけじゃなくて。

 でも、

 先輩は「きっと、みんな受験で心がすさんでいるのだ」って。

 黙って、ひとりで、耐えて。

 耐えて。


 ようやく担任が、

「イジメられていませんか?」って、気付いた時には。

「何の話でしょう?」と言わんばかりに、

 素知らぬ顔で。

 何事もないかのように、微笑んでいた先輩の

 本当の心の声は、

 きっと、

 誰も、知らない。




 件の風紀検査の次の日からは、

 先輩は、いつも通りのおさげ姿で。


 卒業式も、その姿で。





 先輩の姿は、凛々しかった。

 わたしの目には、憧れでしかなかった。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る