風紀検査 ①

 先輩が、一度だけ、おさげをしてこなかった日がある。

 わたしは、を目にすることはなかったのだけれど。


 きっかけは、バスの中で。

 中学部の上級生が耳にしたことを、わたしは人づてに聞いた。


「あの子、なんかムカつくんだけど」

「ホント、いつもすましちゃってさ」

「ちょっと勉強できるからって、何?!」

「推薦、けったんだって!」

「生意気ぃ~」


 それは、指定校推薦を辞退した先輩へのやっかみだった。

 悪意を投げつけた人達は、先生受けの良い先輩が目障りで、

 わざと、

 先輩にも聞こえる声で、続けたという。


「ってかさ、いつも三つ編みって、

 実はパーマしてるの隠してるとか?」


 校則が厳しいことでも有名なこの学校は、

 頭髪は、脱色も染色も禁止。

 長い髪は結ぶこと。

 使用してよいヘアゴムの色は、黒、紺、茶のみ。

 ヘアピン等は黒色のみ可。

 バレッタは、体育の時、危険だから外すこと。

 カチューシャやシュシュは、校内への持ち込みも禁止。

 前髪は、眉毛にかからないようにすること。

 勿論、パーマは禁止。

 と、細かく挙げるとキリがないくらいで。

 一言でいえば、

 華美な装飾は禁止、ということなのだけど。


「あれ? そういえば、風紀検査の時は、パーマをしていないことを確認するために編んでこないって、なってなかったけ?」


 風紀検査という名の身だしなみ検査は、

 高校組の生徒にとっては、厄介な日だったらしい。

 内部進学者にとっては、慣れた行事のひとつでしかないのだが。


「そういえば、あったよね!」

「やましいところがないなら、見せなくちゃだよね」

「今度も三つ編みしてきたら、それって……」

「まさか、生徒会長ともあろう人が、そんなわけないじゃん」

「「((笑))」」


 イヤミな笑い声が、バスの中に響いてたって。


 きっと、

 わたしがその場に居たら堪えられなかっただろうな。

 それを、

 先輩は、じっと、静かに、耐えて聞いていたんだ。

 何事もなかったかのように。








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