第58話 双晶の宝石「会いたい」 (番外)

会いたい!

私が名づけたあなた。番号で呼ばれていた、あなたに。

私とずっと生きていたいと言ってくれた。

私を救うと誓ってくれた。

幼い頃に絵本で見た口づけをまねて、私はあなたに触れた。

温かかったあなたの唇。

抱きしめてくれた細い腕は、硬くて安心できたの。

私は、あなたの額の呪いを抉り取り、代わりに別の呪いを埋め込んだ。

私の持つ宝石の片割れを。

そうしてあなたは旅立って行った。

私の命を長らえるために。悲憤の魔女を倒すために。

あれからもう、幾度季節が巡ったのかしら?

私はまだ生きている。

でも、少しずつ痣が広がっているの。

死ぬのはそんなに怖くはない。

でも、あなたに会えないまま死ぬのはとても怖い。

会いたい。

会いたいの。

背は高くなった?

男の子は大きくなると声が変わるというけれど、私は私よりも高いあなたの声しか知らない。

目の見えない私は、あなたの顔も知らない。

けれど、会えばすぐにわかるはず。

だって、あなたは私のナギだから。

私が名づけたのだから。

大好きなのだから。


──ナギ!


会いたい!

どうか、今すぐに私の手を取りに来て。

帰ってきたと言って。

私は今、震えているの。

どうか、どうか。

私の瞼から溢れる涙をその指で拭って、抱きしめて、そして──。

口づけを返してほしい。

手の中の小さな石に唇を寄せた。




レーゼ!

群がるギマどもを薙ぎ払いながら心の中で叫ぶ。

レーゼ、無事でいるか?

あれから何年経った?

いまだに俺は誓いを果たせないまま、戦いの最中にいる。

レーゼ。

目も見えず、声も出せず、魔女の呪いに蝕まれた体で笑っていた少女。

包帯で覆われた体、悪された顔、抱きしめたら俺そうな細い体。

なのに──。

君は誰よりも強く優しかった。

名もなき俺に名前をくれた。

俺の重ねた罪をその手で切り裂き、温かい思いを埋めてくれた。

あの時飲み込んだ君の血の味を、俺は忘れない。

柔らかな唇を、甘い唾液の味を、俺は忘れない。

何よりも、君の魂の形を俺は忘れない。

ああ、だから目の前の魔性を俺は狩る。

狩って、狩って、狩り尽くす。

そうして、君に呪いをかけた元凶に辿り着く。

もうすぐ!

きっともうすぐだ!

だから、待っていて。

命の炎を消さないで。


レーゼ。


その名を呟くたびに、俺の中に力が蘇る。

湧いて出る魔など、少しも恐ろしくはない。

恐ろしいのは君をなくすこと。


会いたい!


今すぐ君の元へ駆けつけ、か細い体を抱きしめたい!

もう大丈夫だと、薄色の瞳の前でそう告げたい。

会いたいんだ、レーゼ!

俺の中の唯一の希望、そしてもっと大切な一つの想い。

そっと額に触れる。そこに君の思いがある。

きっと帰る。君を救う。

誰にも邪魔はさせない。

だから名を呼ばせて。


レーゼ!

愛している!



青い石が密かに輝く。


   ***


改題記念の番外編、いかがでしたか?

離れていた頃の二人の想いを綴ってみました。

もしかしたらまた書くかもしれません。

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呪われ姫と名のない戦士は、互いを知らずに焦がれあう 〜愛とは知らずに愛していた、君・あなたを見つける物語〜 文野さと(街みさお) @satofumino

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