あとがき

 このたびは、八万字超のぐだぐだにお付き合いくださいまして、ありがとうございました。まだ付き合っていない、という方は、悪いことは言わないから、順を追って本編を読み通すことを今一度お勧めします。この先にはネタバレも含みますんで、ここを先に読んでしまうと、ただでさえ面白みのない本編が、いよいよつまらないストーリーに……もとい、やはり読書の驚きは新鮮さがあってこそ、ですから、生きのいい形で読んでいただけるとありがたい……です。はい。


 さて、本作をお読みになって、コンクールをメインとした吹部が舞台、ユーフォニアム担当の女性主人公ときたところで、こう思われた方がいらっしゃったかも知れません。

 ――なんだ、「響け!ユーフォニアム」の焼き直しじゃん。

 うん、よかったらここの「まえがき」、今からでも読んでください。湾多がこれを書いたの、十七年前って書いてますよね? ね!?

 武田綾乃氏が宝島社から「響け!ユーフォニアム」の一冊目を出したのは2013年です。今から十年前ですね。


 こっちの方が先だぁ!


 あーすっきりした。実はこれがいちばん言いたかった 笑。

 と、あほな前振りを置いたところで、ここから少しまじめな昔話を。


 本作を書いた一昔前、何に困ったかといって、「どこのレーベルを意識した作品なのか」という問いに、うやむやな答え方しか出来なかったということ。

 当時私が通っていた小説講座では、そのあたりを具体的にした上で講評してもらうのが、一応のルールになってました。今現在なら、それほど悩むことはないのかも知れません。ですが、あの頃は違った。女性主人公で、特に乳とかブルマといった萌え要素がない作品は、消去法的に少女向けレーベル――つまりはコバルト文庫とかその類似路線――に出すしかないだろう、という感じでした。

 結果、私が選んだのはルルル文庫です。小学館がガガガと同時に立ち上げて、あちらがそれなりに存在感を保ち続けているのに対し、今現在はすでに消滅しているルルル文庫です。当時は立ち上げ直後で、一応新しい路線を受け入れやすい形になってるかも、という期待もあって、そこを念頭に講評してもらいたい、と要望を書き、そして――

 で、いっぺんにややこしいことが起きたわけです。

 私の原稿を読んだ講師の先生いわく(実はそれなりに有名なファンタジー方面の作家先生。女性)、「書き手のプロフィール一切見ないで読んだんだけど……なんかおかしい、どこか変だって気がして気がして……どこがどうってのは言えないんだけど、なんかこう、自分の知ってる少女小説の感覚となんか違うって思って……で、ふっと書いた生徒の名前見て、ああ、と」。

 つまりは、男の書き手ゆえに、女が求める感覚が分かっとらん、と言いたかった訳ですね。そりゃそうだろうな、と思いました。だから、居並ぶ女性受講生のみなさまから、そうそう、と側面攻撃を食らっても動じませんでした。まあ総評はそんなもんでしょう。で、具体的にどこをどう直せと? と、はっきり言葉にも出して、コメントをお待ち申し上げつかまつったのですが。

 出てこないんですよ、これが。「うーん、全部」と「んんん、主人公のキャラ? 行動? ストーリー? あ、全部か」、なんかそんなセリフしか言ってもらえなかったような。平素そんなええかげんなアドバイスをする先生じゃなかったんですが。

 さらに唖然としたのは、他の女性受講生も同じような反応だったこと。論客もおせっかい焼きもどっさりいらっしゃるそのクラスの中で、この時ばかりはみな歯切れ悪く「なんて言ったらいいのか……」と微妙な顔をするばかり。それでも最後の結論はほぼ全員一致で、「とにかくこれ、女の子向きじゃないから」。


 どないせえっちゅーねんっ。


 講師先生も、受講生の仲間のみなさんも、なんだか必死になってコメントしようとしてくださっていたことは確かです。その意味では、ありがたい反応でした。とはいえ、私のこの作品は、ダメ出しだけもらって、結果その先につながるヒントはほとんどもらえないままだったわけなんですよね……。

 まあ今から思えば――。

 私が本作を書いた時に漠然とお手本……というか、先行作品の一つとして意識したのは、中沢けいの「楽隊のうさぎ」でした。あの時代に存在した、非常にまれな吹奏楽小説の中の一冊で、でもエンタメ小説とは言いがたい本。今なら「エンタメ寄りの文芸小説」というくくりでいけるんだろうか。あえていえば、児童小説と文芸ラノベと青春小説の中間みたいな音楽小説――とでも言えばいいのか。

 もちろん、「少女小説」とは全くノリの違う文章でしたしね。

 そういうイメージで書き始めた、でもラノベの影響も受けてる、まあ00年代っぽいと今なら言える音楽ミステリー小説(ただしホラー風味)。そんなもん、受け入れそうなレーベルなんてなかったんですよ、当時は。

 やむなく「コバルトっぽいところを一応目標に」ということにはしたんですが、そこからすでに間違ったチョイスなのは明らかでした。明らかでも、どうしようもなかったのでした。

 今の出版レーベルのあり方がいい、とは言いません。でも、「文芸っぽいラノベ」も、「吹奏楽ネタの、ベタな恋とか萌えとか抜きの青春小説」も、その後にたくさん出てきてますからね。ある意味、私のこれは時代を先取りした部分があったわけで――というより、私みたいなスタンスの作家さんがその後当たり前になって、今の流れを作ったというべきか――もし誰か、ありのままのこの小説にほれ込んでくれて、「これはこのままでいい」とか言ってくれてたら、今頃は……などと妄想しないでもありません。うん、ちょうど「響け!ユーフォニアム」が、そろそろ書かれる頃ではあったんだし。もっとも、ああいうタイプの熱血吹奏楽小説なんて、書けないんだけど、自分。


 話を元にもどすと、そういうわけで、湾多は未だに少女小説のキモの何たるかを会得するに至っておりません。多分この先も分からんままだと思います。ですから、本作の中で描かれた女子中学生たちの行動は、女性読者には著しく抵抗があるものだったするのかも、とは思いますが、それはもうそれということで 笑。今回の版は、はっきり「少女向けレーベルの作品ではありません」とお断りしておきますので。その上で、女性視点で違和感などございましたら、コメントくだされば幸いです。

 ちなみに、ルルル文庫への投稿ですが、講評をもらってしばらくしてから、半ばダメ元で送るだけ送りました。忘れかけた頃に、「受け付けました」という葉書が来ました。それで終わりです 大笑。確か募集原稿量の下限ぎりぎりだったのかな? まあ、二次審査以降に回して可能性を探るような作品ではない、と見なされたんでしょうね。でもあれから数年後に、吹奏楽小説のちょっとしたブームになったんですよね。もしあの時、「これはこのままでいいっ」と惚れこんでくれる編集者がいたなら、今頃は(以下略)。


 さて、恨みっぽい話はこれぐらいで、次は、本作のカクヨム内でのジャンル的な位置づけについて。

 本来ならホラーと書きたいんです。ホラー小説には、こういう話に割合ぴったりのサブジャンルがあります。そう、


 ジェントルゴースト


ですね。映画で言えば、「ゴースト/ニューヨークの幻」みたいな……あ、この例もちょっと古いか? まあそういうの。

 ですが、タグにジェントルゴーストって書いたら、完璧ネタばれなんで(それ以前に、ジェントルゴーストと言えるのか、という問題もありますが)、その単語は出せず、一方それを秘匿するとなると、ホラーと看板を掲げて説得力があるのか、と疑問がついて、ちょっと困りました。

 最終的に「現代ファンタジー」とし、でもファンタジー色は薄めです、と言い訳を添えて、アップした次第。最後まで読まれた方はどのように思われたでしょうか。ネタばれは避けた形で ^^、ご意見いただけると幸いです。

 ちなみにこの手の、「幽霊ですらなかった、どこにもいないはずのスピリチュアルっぽい何か」の元ネタは一応二つあって、一つは青池保子の「エロイカより愛をこめて」の一エピソード。「石像の話」と書けば、分かる人は分かるかと。後もう一つのネタ元は――実質こちらがメインなんですが――中島みゆきの短編小説です。書名とタイトルを挙げてしまうと、そちらのネタばれになるので控えますが、古いみゆきファンの方なら、「ああ、あれ」と思い当たるでしょうか。私自身、読んだ時に「そんなばかなっ」と結構衝撃を受けたので、いつかこういうオチで話を書きたいと思ってたんですけれど、例の小説講座での講評では、ここの部分の評価は低調でした。中編の長さだと、ここまで突き放したオチにしないで、それなりにうっすーい伏線が必要なんでは、みたいなことを言われた記憶が。そのへん、うまく改訂できたかどうかは自分でもなんとも言えません。みなさまの突っ込みをお待ち申し上げる次第です。


 本作は湾多がカクヨムで発表した吹奏楽小説の二作目です。次があるとしたら短編か、吹奏楽ではない長編音楽小説かなと思うんですが、まあ先のことは分かりませんね。またお付き合いいただければ嬉しいです。最後までお読みいただき、ほんとうにありがとうございました。


   2023年8月25日



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風追歌の夏 湾多珠巳 @wonder_tamami

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