第6話「レベリング」

 トヒル鉱山は今の自分達には高レベルで、現段階において攻略必須ではないダンジョンである


 本来、このタイミングではストーリー進行に一切絡まない。


 訪れるとすれば、主な目的はレベル上げ。

 今俺達がここに来ている理由がそれだ。


 後から攻略しに来るタイプのダンジョンで、普段であれば無視せざるを得ない場所だ。


 生息しているモンスター達も、後からやって来るプレイヤーにその強さを合わせて設定されている。


 要するに、レベルが高い。

 手に入る経験値も多いのだ。


 倒せれば、の話だが。


 ここのモンスターは比較的速度の遅いゴーレムタイプなのも好都合。


「ベガリー。装甲にある胸の宝石が赤いヤツを狙ってくれ」


 弱点となるのは、間接部分の球体と胸の装甲だ。

 ただ関節が恐ろしく狭い、剣一本がようやく通る隙間だ。

 戦闘中に魔法で範囲の狭い急所を狙うのは難しい。


「ふむ。装甲下の核を狙うつもりか?」


 ゴーレムの胸にある装甲、それを砕けば核が露わになる。

 それを撃つ。


「そうだ。核は防御力もないし、俺でもトドメを刺せるはずだ」


 魔法攻撃に弱いタイプと物理攻撃に弱いタイプがいて、それは胸にある宝石で区別が付く。

 前者であれば赤、後者であれば青といった具合だ。


 ベガリーの魔法攻撃力は低レベルのそれじゃない。

 連発はできないが、ビスケットさえあればMPは回復できる。


 俺がトドメを刺せなくても、ベガリーがMPを回復する時間は稼げるだろう。


 ベガリーにゴーレム攻略の作戦を伝えている内に、鉱山の入り口へと辿り着いた。


 残り、四時間と三十五分。


 つまり、このダンジョンのゴーレムは戦略次第で攻略できる。

 一発攻撃をもらえば即ダウンするだろうが、残り四時間半でレベルを上げきるにはこの方法がベストなのだ。


 都市へと向かう街道の敵は経験値も少なく、強い敵を求めてマップの奥へ進めば帰り道も長くなってしまう。


 ならば、イシュタ村からも近くて経験値も高いこの『トヒル鉱山』以外に選択肢はない。


「いたぞ、ゴーレムだ」

「うむ。確認した」


 俺達が向ける視線の先には、赤い宝石が胸に飾られた装甲を持つゴーレムがいた。

 四メートルはあろう巨体、岩のみで構成されたモンスターだ。


「……≪アクセス≫」


【エラー。対象のレベルが高すぎます】


 無駄だとは思ったが、当然≪アクセス≫は弾かれる。

 現在、俺のメインジョブであるワールドデバッガーのレベルは六。


≪アクセス≫の対象にできるのはレベル二十まで上がっている。


 格上の相手を対象に取れるこの魔法でも、あのゴーレムには及ばないようだ。


 あのゴーレムは今攻略するであろうボスよりも強い。

 二十五、いや三十はありそうだ。


 レベル差は約五倍か、悪ければ六倍だろうか。


「やるしかない。ベガリー!」

「うむ、任させたぞ! 我が敵を燃やせ、≪ファイアーボール≫!」


 シンプルな初級魔法、ファイアーボール。

 ゴブリン程度であれば一撃で葬れる。


 俺達くらいのレベルであれば、街道の敵にも苦戦しない。

 一発、または二発で一匹のモンスターを持っていける威力だ。


 しかし、ベガリーの魔力はいろんな意味で桁外れなのだ。

 MPは相変わらず一桁で、ファイアーボールがギリギリ二発打てないくらいなのだが……。


 魔法攻撃力。

 これがベガリーの場合、ずば抜けている。

 通常プレイしているプレイヤーに換算すると、既にレベル五十以上は確実な数値だ。


 メインジョブ、魔王。そして、スキルの≪オーバーロード≫。

 これがベガリーの持つ特異性らしい。


 ベガリーから放たれた火球はゴーレムの装甲を軽々と砕き、消滅させる。

 装甲のあった場所には穴が開き、白い球体が露わになった。


 ダメージ計算の性質上、火球一発であれば装甲を貫通して核にダメージを与える芸当は発生しない。


 しかし、ベガリーの火球はその爆発力でゴーレムの巨体をも怯ませた。

 黒煙をあげながら膝を付き、腕をガクガクと震わせている。


「カイセイ! 核が出現したぞ!」

「よし。ベガリー、MPを回復させて待機だ」


 ゴブリンリーダーから奪った棍棒を装備し、俺はゴーレムへと駆け出した。


 勢いに任せ、膝を付いたゴーレムに標的を定める。

 胸部にある白い球体は、今なら地に足を付けたまま狙えるはずだ。

 反撃されないように急ぎ、駆け始める。


「いっけぇッ!」


 ゴーレムの懐へと潜り込み、棍棒を振るう。


 俺の物理攻撃力はたかが知れている。

 エンチャントで自らの攻撃力をあげても、街道にいるモンスターの相手をするのが精々だが……。


 抵抗しないゴーレムの核を殴り続けるのは造作もない。


 おまけに核には防御力が存在せず、ゴーレムの身体とは別のモンスター扱いになっている。


「六発か!」


 五発目の殴打を終えた瞬間、俺は確かな手応えに感じた。


「これで、最後!」


 棍棒が白い球体にぶつかり、弾かれずに振り抜かれた。

 同時に岩の身体は砂へと変わり、その砂が光となって消滅していく。


【レベルが上がりました。】

【レベルが上がりました。】

【レベルが上がりました。】


【エンチャンターの職業レベルが上がりました。】

【エンチャンターの職業レベルが上がりました。】

【エンチャンターの職業レベルが上がりました。】


【補助魔法≪毒耐性付与≫が解放されました。】

【補助魔法≪毒状態付与(小)≫が解放されました。】

【補助魔法≪麻痺耐性付与≫が解放されました。】

【補助魔法≪麻痺状態付与(小)≫が解放されました。】

【補助魔法≪睡眠耐性付与≫が解放されました。】

【補助魔法≪睡眠状態付与(小)≫が解放されました。】

【攻撃魔法≪ナイトメア・ランページ≫が解放されました。】


 今の戦闘で一気にレベルが上がった。

 レベルは六から九へ。

 サブジョブであるエンチャンターのレベルも同じくらいに上がり、新たなスキルも手に入った。


 ワールドデバッガーのレベルは、バグを直したわけではないので上がらないようだ。


 この調子でゴーレムを倒していけば、レベル二十にはすぐ到達できる。

 一撃受ければ致命傷になるが、ゴーレムの攻撃は回避も難しくない。


 複数体を相手にしないように立ち回るのが最適解だろう。

 対処が簡単とは言え、二体以上相手にするのは危険だ。


「うおおおおッ! 力が、力が漲ってきおる!」

「ベガリーのレベルも上がったか。……≪アクセス≫」


【名称:ライラ・ベガ Lv.11 職業:魔王(Lv.8)】

【HP:6829 MP:9 攻撃力:170 防御力:668】

【魔法攻撃力:1209 魔法防御力:899 敏捷:583】

【幸運:666】


 道中のバグを移動の片手間に修復し、ワールドデバッガーのレベルは五に達している。

 ≪アクセス≫で見られるステータスの範囲も増え、名前や職業、HPとMP、スキル以外には細かい攻撃力まで見えるようになった。


 ……正直、ベガリーであれば素手でゴーレムを倒せる気はする。

 低レベル帯にいていいステータスではない。


 MPは未だに一桁。


「カイセイ、見よ! ファイアーボールが二発連続で撃てるようになったぞ!」


 しかし、本人が喜んでいるので今は良しとしよう。

 あとゴーレムを六体も討伐すれば、目標レベルに到達する。


「よし。これでだいぶ楽になるな」


 思ったよりも早く戻れそうだ。

 残り、四時間と二十九分。


 順調に思えたレベリングに問題が発生したのは、残り時間がちょうど三時間を切った頃の事である。

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