初めての戦闘。そして強過ぎる彼女の実力


 森の中に入ると、早速モンスターが現れた。緑色の肌をした小人の集団、いわゆるゴブリンの群れが棍棒を持って僕たちの目の前を塞いでいる。


 それを見て、僕はニヤリとした笑みを浮かべた。ゴブリンなんて、所詮は雑魚敵みたいなもんだ。こんな相手、勇者の僕には取るに足らない存在である。なので、ここは軽くで仕留めてやろうと思い、剣を引き抜いてから、シスターさんへ声を掛けた。


「シスターさん、下がってて。ここは僕が―――」


 そこまで言ったところで、いきなり後ろから何かが前にへと飛び出していった。それは紛れもなく、シスターさんだった。


「へ?」


 と呆ける僕をよそに、彼女はゴブリンたちへ突進していくと、その右腕を大きく振り上げた。次の瞬間、凄まじい衝撃音と共に、先頭にいた一匹のゴブリンの頭部が弾け飛んだ。


「……えっ?」


 突然のことに理解が追いつかず呆然とする僕を尻目に、シスターさんが僕に向かって言葉を投げ掛けてくる。


「こんな敵、勇者さまのお手を煩わせるまでもありませんわ。私にお任せください!」


 その言葉と共に、再び腕が振り下ろされ、二匹目のゴブリンの頭が砕け散った。鮮血が辺り一面に飛び散り、最も近くにいる彼女はその返り血を浴びることになる。


 しかし、それで怯むシスターさんではなく、むしろ嬉々として次の獲物へと向かっていくと、今度は左腕を振り上げ、肘を思いっきり叩きつけた。それによって三体目までもが粉砕される。その光景を見た他のゴブリンたちは恐怖に駆られたのか、一斉に逃げ出そうとする。だが、それを見逃すほど、彼女は甘くなかった。


「逃がしませんわ!」


 彼女がそう言いながら右腕を振り上げると、彼女の右手の周りを何やら光の渦が包み込んでいくのが見えた。その渦を纏った右腕を彼女は後ろに引くと、目標とする敵目掛けて拳を振り抜いた。


「ブ〇ウクン、マグナム!!」


 そんな掛け声と共に、光の渦が彼女の腕から射出され、目標に向かって飛んでいく。そしてそのまま直撃すると、轟音と共に大爆発を起こした。爆風によって木々が大きく揺れる中、煙が晴れていくにつれてその姿が見えてきた。


 そこに立っていたのは、上半身を失ったゴブリンの死体だった。辺りに肉片が飛び散っていることから見ても、それが先程の個体であることは明白であった。つまり、一撃で仕留められたということだ。その事実に僕は驚きを隠せない。


(嘘だろ……? たかだかゴブリン相手にここまでやるのかよ……)


 そう思いながら改めてシスターさんの方を見ると、彼女はこちらに振り向いてニッコリ微笑んでいた。その顔はとても無邪気で可愛らしく見えるのだが、今しがた見せた圧倒的な強さとのギャップを考えると不気味さすら感じてしまう。


「どうでしたか? 私、ちゃんとお役に立てましたか?」


 そう言って聞いてくる彼女を前に、僕は何も言えなかった。いや、言えるはずがなかった。


「う、うん、凄かったよ……」


 それだけ言って、僕は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。そうして引き攣った笑みを僕が浮かべていると、彼女の表情が瞬時に強張るのが見えた。


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