第50話 文化祭⑥

緋月が告白して成功したようなので次は俺の番なのだがまだ俺にはそんな勇気は出ない。このままずっと居たらいつかは蒼井が取られてしまうのは分かってる、だけど告白する勇気は出ないものだ。


本当、緋月を尊敬したい、今だって俺は蒼井と一緒に立っているのに付き合ってるわけでもなかった。実際、俺と付き合うことで蒼井になにか迷惑をかけないか心配だというのも俺を引き止めているのかもしれない。


「……くん、吹雪くん!」


「ごめんちょっと結構重要な考え事してた。1人で考えたいことだから蒼井は一旦接客の方に回ってくれる? 俺もそっちの方が早く結論が出せそうだ」


俺が考えてるのは蒼井に告白するかどうかなんだから近くにその本人がいたら考えようにも考えずらい。


まず俺と蒼井が付き合うことに義姉さんたちは反対しないだろうしそこの所はいいが蒼井がこっちに戻ってくるまで紅葉以外の友達がいなかった俺が蒼井と付き合っていいのか? 関わってるだけで周りの男子から嫉妬の声が聞こえるのに付き合ったらそれが酷くなって蒼井にまで迷惑をかけてしまうんじゃないだろうか。


そもそも俺と紅葉が付き合ってると勘違いしてるやつが多すぎる。こんな時に蒼井と付き合ったりしたらありもしない噂が流れることだろう。だから俺がやるべきことは告白よりこの噂を消すことなのかもしれない。


と言ってもこの学校に蔓延った噂なんか簡単に消せるものじゃない。誰がこの噂を流して誰が影響されてるのかなんて俺にはわからないんだから。


少なくとも同じクラスのやつだということはわかるし、今はもう紅葉と一緒に行っていないので方法はゼロではないがどこまで噂が広まってるか分からないので現実的に考えたら無理だろう。


「紅葉、ちょっと来て」


「どしたの吹雪?」


俺は休憩時間に紅葉を呼び出した。


「あの噂があるとさ俺が付き合った時に蒼井にも迷惑がかかると思うからさ、その時はフォロー頼んだよ。ま、告白するわけじゃないんだけどね」


「私は妹ポジを獲得してるし奏音も緋月くんと付き合ってるから優劣なんて気にしなくていいようになったのに。今まで告白を避けてきてたけどもうその言い訳は使えなくなったよ?」


俺は今まで優劣がどうこうで告白されても蒼井と付き合わなかったが、それもただの言い訳で俺に勇気がなかっただけの話だ。紅葉の言う通り俺もうそれを気にする必要も無いが言ってしまえばま今までの言い訳が使えなくなったので俺はもうヘタレを認めるしかないのだ。


「ちなみにお前の部屋はまだ残ってるけど? 時々義姉さんがそこの部屋で泊ってるし」


「まだ残ってるんだ……。それはそれとしてテストがもうすぐであるし全員で集まるって話があるんだけど場所は吹雪の家でいいんだよね?」


「泊まりだったら3人までしか呼べないけど勉強するくらいならグループに入ってる人を全員呼んでも問題は無いよ」


「それだったら綾乃さん呼んでよ! 年上だし勉強教えて貰えそうじゃない?」


義姉さん都合がどうかは知らないが俺が呼べば大体は仕事を無理して終わらせてやってくる。それでは体調を壊しかねないので仕事は俺の家でやらせておいて教えて欲しい時に呼べばいいだろう。


俺も義姉さんほど頭は良くないが教えられることは少なからずあると思う。


「義姉さんはいつも学年一位で、蒼井が16ぐらいで、緋月が38ぐらいだったっけ? それで奏音はギリギリ50位以内だったのは覚えてるんだけど……。紅葉がメインに勉強しないとね」


紅葉は一人暮らしを初めて忙しいということもあったかもしれないがそれでも成績は重要なので紅葉が50位以内に入れるぐらいまで勉強を教えたい。


「やっぱり両方頭いいんだね、塾とかに毎日通わされたらそうなるのかな?」


「ん? 俺も義姉も塾なんて行ってないよ。俺は勉強しかやることがなかっただけど義姉さんは仕事と勉強に楽しみを覚えちゃってるから」


それでもたまには遊びたいと感じる日もあるようで、その時は普段の2倍ぐらいの作業スピードで仕事を終わらせて土日に俺の家に来る。


「義姉さんには後で連絡しとくから。そろそろ戻らないとねー、俺は尚更」


一応交代ごうたいで休憩を取っているのだが料理係の俺は自然に休憩が短くなる。文化祭だってさほど回れなかったけど蒼井と二人で料理してるのも楽しかったし良しとしよう。


程なくして文化祭が終わり、委員長たちは売上の計算があるらしくまだ学校に残るらしい。俺たちは別に残る理由なんてないので勉強する日程をきめていた。


「私はまだ仕事が終わってませんけど吹雪の家でやればいいだけですから。吹雪だって私と同じくらい頭がいいですし吹雪と私が教えるということでいいんですよね?」


「義姉さんよりは絶対悪いと思うけどなぁ。俺は2位だしそもそも1年だよ?」


「どっちにしろ私たちより頭いいことには変わりないから。じゃあ今週の土曜日っていうことで」


とりあえず日程は決まったので俺たちはそれぞれ別れて、今日もまた緋月と雑談をしながら帰るのだった。

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