第41話 白神吹雪の実家

「文化祭でメイド服が3着必要なんですか? 用意するのは簡単ですけどサイズの問題があるので1度家に来てもらわないと行けないんですけど……。蒼井ちゃんと紅葉ちゃんはいいです、吹雪の事情を知っているので」


そもそもこの事は俺の中での1番の秘密なのだ。もはや蒼井と紅葉に知られているのならもう奏音にも言っていいとは思うが、話が漏れないかが心配なのである。


世の中の全員が善人な訳もなく他人を利用してお金を稼ぐ人間がいるように、お金持ちの人間と仲良くして色々奢ってもらおうとする人間は学生の中に存在している。今の俺はただの一人暮らしをしている人だが時雨家の人間だと知ったら今まで関わって来なかった人達が関わりに来る可能性があるのだ。


奏音を信用していない訳では無いのだがふとした瞬間にポロッと漏れてしまう可能性はゼロではないのだ。


「義弟クン、食堂全体で君の話題が上がってるよー。綾乃んが初めて男子と話してるってことで」


学食を買いに行って帰ってきた茜さんが帰ってきて直ぐにそんなことを言うので面倒くさいと思った。クラスの奴らだけではなく先輩たちにも噂されるのは気が滅入る。


手遅れかもしれないがこれ以上噂が増えるのは避けたい。


「それで義弟クンのクラスはメイド喫茶をやるんでしょ? 絶対いくよ、メイドみたいもん」


「俺は料理係ですよ? まぁ一応メイドをする人とは友達で写真はありますけど……見ます?」


茜さんに蒼井と奏音と紅葉の写真を見せたらより一層来る気持ちが強くなった。ちなみに1番の目的は俺の料理らしい───本当に荷が重い。


「とりあえず近いうちに3人を連れてくるから。義姉さん達が採寸をしてるうちに俺は料理の練習でもしておくよ、俺が1番重要な役割だからね」


「茜と一緒に行くので頑張ってくださいね! 吹雪の料理の味は私が保証しますから」


いや普通にハードルが上がるのでやめて欲しい。この学校のほとんどの人に義姉さんはお嬢様ということで定着してるので一般的な俺の料理の味を保証すると言ったら味に期待が掛かりまくるじゃないか。


メニューは向こうに任せてあるので何になるか分からないがクッキーとかオムライスとかそこら辺だろう。義姉さんの家で作れない料理は無いしお菓子作りでもしてみるか。


「綾乃んがそこまで言うってことは期待していいのかなー義弟クン?」


「そこまで期待されると困ります。まぁ今日3人を呼んだ後にキッチンを借りて練習しますけどね?」


お菓子に関しては一人暮らしの俺はバレンタインとかハロウィンとかの記念日にしか作ったことがない。


「じゃあ俺もう教室に戻るから。もう1回言っておくけどそんなに期待しないでね」



※※※



「今日全員予定空いてるんだったら俺の実家に来てよ、メイド服の採寸するからさ。蒼井と紅葉はもう慣れたと思うけど奏音は───まぁ大丈夫か」


「白神くんの実家かぁ、どんなところか知らないけど親御さんに挨拶しないとねぇ」


「いや挨拶しなくていいよ


とりあえず全員来れるそうなので義姉さんにそう送っておいて、3人は菊池さんに送って貰うとしてその間に俺は材料を買いに行っておこう。


やろうと思えば今からメールして材料を買いに行ってもらうことは出来るのだがそれは義姉さんみたいに忙しくて手が離せない時に頼むようなものなので暇な俺は自分で買いに行く。


(いや、義姉さんの家だし残ってるやつを使わせてもらえばいいや。俺が料理してみたいって言ったら桐木さんはウキウキで教えてくれるからなー)


「私、吹雪の実家の話は聞いてたけど実際に行くのは初めてかも」


「実家と言っていいのか怪しいところではあるけどね」


本当なら俺の実家は別にあったとは思うが本当の親が住んでいる場所が分からない以上は育ての親がいる時雨家の屋敷が俺に実家ということになる。


高校に入る前にやってきたあの人が本当の親だとしても親権はこっちに移っていたので結局は時雨家が実家になっていたのかもしれない。


「蒼井さんは知ってると思うけど菊池さんっていう人が迎えに来てくれるからその人と一緒に行くことになってるからさ」


そんなこんなで話はまとまったので俺は菊池さんが運転する車とは別の車に乗っていた。


3人は菊池さんが運転する車で家に向かって俺と義姉さんはお母さんが運転する車で家に向かっていた。


「2人ともまだまだ子どもなのに努力してえらいですね。義弟様の件についてはさすがに驚きましたけどね」


「お母さんがあの量を送ってきたんだけど? まぁ勉強して損は無いと思うし」


「でも休んでくださいよ? お嬢様みたいに仕事をしてる訳じゃないですから休もうと思えば休めるでしょう」


まぁ義姉さんにもそれは言われてしまったので最近はなるべく休むようにしている。


「私も遊びたい時はあるので仕事を減らしてほしいんですけどね……」


「じゃあ俺にやらせればいいのでは?」


「ダメです」


ダメみたいだ。

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