第30話 白神吹雪は再会する①

体育祭は問題なく終わったが、俺は菊池さんに半分脅しのような感じで呼び出された。まぁ脅しと言っても八割は俺が悪いのだが関係を絶ったはずなのに俺に何の用なんだ。


悪いと思ってるなら戻ってきてください、俺が悪いと思ってないわけが無いだろ? 義姉さんに黙って家から出て一人暮らしを始めたんだせいで義姉さんはちゃんと別れを告げられてすらいないんだから。


紅葉は多少の事情は知っているので何も言ってこないが蒼井はそうはいかない。


「親がいないってどういうこと? 一人暮らしのお金を送って貰ってるんじゃないの?」


「あくまで育ての親ってことだよ。蒼井ひとつ聞くけどさ、俺が1回でも家族の話題を出したことがあった? 俺の髪が銀色な理由を話したことがあった?」


俺の髪が銀色なのを説明しようにも必ず曖昧な部分がある。親が銀色だったのかどうかを確かめようにも手間がかかる。


「蒼井は親が銀髪でしょ?」


「うん……」


「ま、この件に関しては俺が悪いから向こうに従うしかないんだよ。誰かを連れてきていいとは言ってたけどね、でも来ないでほしい」


時雨家の人で俺が知ってるのはお母さんと義姉さん、そして菊池さんだ。その他にどんな人がいるか分からないが話し合いは俺の知ってる人しか来ないだろう。


「どうしても着いてきたければ話を通すけど、話の内容は濃すぎると思うから。俺は自分のことで蒼井を巻き込みたくないんだよ」


「行く……」


蒼井はその一言だけしか喋らなかったが意思は聞けたのでそこら辺で話を聞いているであろう菊池さんに話が終わったとアイコンタクトをしておいた。


そうしたら菊池さんが出てきてもう乗ることの無いはずだった車に案内された。


「お嬢様は先に家へ帰っておりますので。帰ってこいというつもりはございませんが、全ての関係を絶つ必要はなかったのではございませんか、義弟様?」


確かに義姉さんの連絡先を消す必要はなかっただろう。ただそうでもしないと完全に時雨家を忘れて生きることが出来ない。


「義姉さんはさ、俺の事を気にしすぎだったんだよ。本当の弟でもないのに」


「お嬢様は仕事に埋もれてた上に一人っ子でしたから。癒しが欲しかったのでしょう」


小学生ぐらい俺なら可愛かったかもしれないが今となったら全然可愛くないと思う。見た目的にも言動的にも昔とは変わっているから。


数ヶ月は会ってないが当主の席に座っていても学校に来れているということは昔と仕事量は変わってないのだろう。俺が仕事をしていたのは数年前の話なので助けたくても助けれないがなにか俺に出来ることは無いだろうか。


「お嬢様の連絡先は追加してくれましたか? 帰って来る気が無いことはこちらも理解してますがせめてお嬢様と連絡をとってあげてください。義弟様が姿を消してからお嬢様は結構病んでおられましたので」


「まぁ義姉さんに何も言わず俺は出ていきましたからね」


この事で向こうが悪いことなんてひとつも無いので俺は償いの方法を考えておくしかない。


蒼井は車に乗ってから一言も喋っていないがこの空気で他人である蒼井が口を挟めるわけが無いだろう。


しばらく車に揺られて着いたのは数ヶ月ぶりに見た時雨家の屋敷、本当にここに住んでいたのか疑うくらいにはでかい家である。


「外で待っていなくてもよろしかったですよ?」


「吹雪に久しぶりに会える……と言っても体育祭でお会いしてたらしいですね、私は気づきませんでしたが。とりあえず皆さん中に入りましょう、お連れさんも緊張しないでくださいね」


中に入って案内されたのは義姉さんの部屋で、机にパソコンが置いてあるのでさっきまで仕事をしていたのだろう。


俺はよくここで遊んでいたので何も思わないが蒼井はものすごい緊張していて俺の影に隠れている。そりゃあいきなりお嬢様の家に上がることになったらこうなるはずだ。


「昔みたいに呼んでくれてもいいのですよ? 私は吹雪と会えなくて寂しかったのですから」


「蒼井の前なんだけど? そもそも今更元に戻すことは出来ないし」


「2人きりの時は昔のようにお願いします。あの時は本当に可愛かったですよ」


2人きりの時なら別にいいか。まぁ呼び方なんてなんでも変わらないし、そもそも学年が違うわけだし義姉さんは同じ学年の人たちから話しかけられて俺に会う時間なんてないだろう。


というか蒼井の前で言わないで欲しい、シンプルに恥ずかしい。


「お義姉ちゃんは嬉しいですよ、吹雪に彼女が出来て」


「蒼井は別に彼女じゃないけど。というか義姉さんは俺があの子が帰ってくるまで付き合わないって知ってるよね?」


「蒼井ちゃんなら隣にいますよ、もしかしてずっと気づいてなかったんですか?」


「え?」


確かに似てるとは思ってはいたけど、髪色が違うので他人の空似だと思っていた。え、じゃあ俺はずっとあおいを名前だと思い込んでたってことなの?


「気づくの遅いね、吹雪くん。髪色が違うのは校則の関係で染めてただけだよっ!」


「久しぶりでいいのかな?」


「私はずっと吹雪くんってことを気づいてるから久しぶりとは思わないかなぁ。それで吹雪くん、このまま私と付き合っちゃう?」


蒼井には悪いが付き合うのなら蒼井がいいと言うだけで俺は付き合うつもりは無い。今の蒼井と付き合ったら周りの男子がうるさそうだし何より紅葉との時間が無くなる。


偏見かもしれないが付き合えばその女子以外関わったら彼女から怒られるというのが俺の考えだ。


俺はみんなと仲良くしていたい、そのためには彼女を作ったりして誰かとの関係を特別にする訳にはいかない、だから答えは……。


「悪いけど俺は蒼井と付き合えない」

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