第5話 風真さんのお仕事

今日は雨が降っていた。山に行くまでの道はぬかるんでいて歩きずらいと思うしもちろん雨に濡れる、だけど俺は合羽かっぱを着てでも山に向かった。


あおいも俺と考えは一緒だったようで、合羽を着ていつものように神社で祈っていた。


神社が古いのからなのか分からないが雨漏りしていてポタポタと水が滴り落ちている。


「吹雪くんはどんな状態でもここに来るんだね。でもさすがにこの雨じゃ遊べないよ、風真お姉ちゃんの家に行こうか話はもうしてあるから」


「風真さんってあおいのお世話をしてたって言ったでしょ。仕事とか何をしてるの?」


「風真お姉ちゃんがなんの仕事をしているかは私と知らないけど夏休みの間はずっと休みって言ってたよ。幼い時に1度だけ仕事を見た事があるんだけど部屋の中で誰かと話してた、でも何をしているかは分からなかった」


雨の中でずっと話すのもあれなので俺たちは風真さんの家に行った。



※※※



家の中に入れば風真さんはこの前と同じように椅子に座って本を読んでいた。


「おかえり蒼井、それと吹雪くんはいらっしゃい。雨に降られただろう、このタオルで体を拭くといい」


「ありがとうこざいます。風真さんはあおいと一緒に住んでるんですか?」


「その期間が長かったかな。蒼井の親が仕事でいない時はずっと私の家で蒼井は過ごしていたからねぇ。今も蒼井親が仕事で海外に行っちゃったからしばらくは私の家に住まわせておくさ」


2人は前と同じように上の階に登り部屋に入る。この前変わっていない部屋、変わってるとしたらゴミ箱の中身が捨てられてることぐらいだ。


会ってまだ日にちも浅い人の家だというのに妙に落ち着くのだ。それも自分の家にしか行ったことない俺だからこそより違和感に思う、だってあおいに出会う前の俺なら自分の部屋以外なんて居心地が悪いと言っていたから。


おそらくあおいがここに来たことがあるというのがでかい、信用できる人の部屋ということを知っているから、風真さんが差別をしないから。


「なんか風真お姉ちゃん、急に仕事が入っちゃったから静かにしていてだってさ」


「ん、わかった。でも普通に話すぐらいなら騒がしくはならないと思うけどちょっと抑え気味で話そうか」



※※※



私は少し薄暗い自分の部屋にあるパソコンを起動させる。いつも急に仕事がやってくるが夏休み中だけはやめて欲しかったねぇ。


夏休み中はあおいのことを預かる約束なのだ、そっちに集中させて欲しいがこの仕事を断ったら上に怒られてしまう。


「あー、確かにこの仕事は急いでやらないと不味そうだねぇ。とりあえずこの仕事をやらないと」


私はこの仕事の概要を送ってきた本人に電話をかける。少なくともこの量を1人でやるのは無理だ。


『この仕事を私1人で終わらせられると思ってるなら過大評価が過ぎてるねぇ。私の家に客人が来てるんだ、早く仕事を終わらせるよ』


『はいよ、じゃあ俺が歌詞を担当するから風真はメロディーを頼むよ。今回はRain&Carnationレインアンドカーネーションに提供する楽曲だからな』


『これは全てをかけて最高の曲を作らないと彼女たちに失礼ってものだねぇ。何かあったら言うから集中して作り終わったら言う、その間は適当に暇を潰しておいてくれメロディーが出来上がるまで暇だろ?』


見ての通り私の仕事はアイドルグループやVTuberに提供する楽曲を作ること。だけど私はメロディーを作ることが出来ても歌詞を作ることが出来ない、気持ちを歌詞に込められない。


だからこうやって誰かと一緒にやらないと曲を作ることは出来ない。私がBGM、メロディーだけを作りそれを聞いてもう1人が歌詞を書いて当てはめていく。


「Rain&Carnationねぇ、どんなリズムすればいいか。ちょっと今までの曲を参考程度に確認してみようかな」


私はRain&Carnationの曲を数曲聞いて、それから直ぐにメロディーを入力し始めた。この電子キーボードも長年使っているので少しガタが来てしまっていた。


それから数時間後、メロディーを入れ終わり私の仕事は終わった。あとはもう1人にこのメロディーを送ればこの仕事は終わりだ。


『それじゃあ私は落ちさせてもらうねぇ。あ、曲名は恋時雨こいしぐれで』



※※※



雨が止んだので俺たちは机の上に手紙を置いてあの山に戻った。俺たちが出会ったあの場所でいつものように遊ぶ、この場所は俺にとって特別な場所なのだ。


「ねぇ、あおい。昨日のお礼で渡したいものがあるんだけどさ、手を出してくれる?」


俺は昨日頼んだネックレスをあおいの手に置く。


「これは私が着けてる指輪と似たような感じだね。ありがと、明日から指輪と一緒にこのネックレスも付けて来ようかな」


「喜んでくれてよかった。良ければ俺が着けてみてもいい?」


「いいよっ! なんか付き合ってるみたいだね。私は吹雪くんとなら全然いいよ、似た者同士でお互いを理解し合えるから」


友達すら満足に作れなかった俺には彼女なんて関係と思ってはいたがあおいが友達になってくれたから彼女候補にあおいを入れることは出来るようになった。


「ははっ、それはちょっと早いんじゃない? でもあおいだったら俺も全然いいと思ってる。お互いを理解し合えるって大事だからね」



※※※



「置き手紙をして2人で外に遊びに行くとは、2人はだいぶ仲良くなってしまっているねぇ。まだ夏休みはあるけどいずれ言わないといけないんだ」


もういっその事今すぐ言ってしまって気持ちの整理をさせた方がいいんじゃないかと思った。けど初めて見た蒼井のあんなに楽しそうな笑顔を見たらそんなことできるわけが無い。


逆に吹雪くんに言えば納得してくれるだろうか。吹雪くんは言ってしまえば他人、こちらの家庭の事情には首を突っ込めないはずだ。


「吹雪くんには悪いことをしてしまうねぇ。でもこれは仕方ないことだから許して欲しい」

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