第4話

「そういえば、なんでコノカちゃんの姿なの?」


 コノカちゃんになりきっている私は、残りの化け物を探すため階段を降りながら隣を歩くキド君に尋ねる。普段の私なら疑問に思ってもきっとこんな風に話せない。

 キド君が少し考えこむように上を見上げ、


「──それは」


 と、口を開きかけたところで、


とおる!」


 と、別の誰かがキド君の名前を口にした。

 声の主はちょうど階段を上ってきただれか。踊り場のところで私とキド君を見上げている。

 優しく真面目そうで、背の高い男の子。

 彼はキド君に目を向けた後、キド君の隣にいる私を見て驚いたような声を上げる。


「え、若葉わかばちゃん!」

「コノカちゃん!?」


 私の方も思わずその名前を呼んだ。

 見た目は全然似てないよ。性別だって違う。でもなぜか私はその名前を口にしてしまっていた。

コノカちゃんに似てないけど似ている男の子は階段を上って、私のそばまでやって来る。


「なんでここに」

「忘れ物を取りに学校に戻ったら、キド君が落とした人格記録帳パーソナル・メモリーズってやつを開いてしまったらしく、そのまま巻き込まれちゃった」


 簡潔にそう説明すると、コノカちゃんに似ているけど似ていない男の子はキッとキド君を睨みつける。


とおる! あれだけ人格記録帳パーソナル・メモリーズの扱いには気をつけろって言ったろ!」

「あ~あ~うるせえな。悪かったよ。それよりお前いいのか?」


 キド君は煩わしそうに謝ったあと、コノカちゃんに似ているけど似てない男の子に目を向ける。


「正体ばれてんぞ」


 そういわれて、男の子はハッとした表情をする。そして私を見る。

「えっと、若葉わかばちゃん……じゃなくて、永田ながたさん、あ、いや、初めましてで名前知ってるのおかしいか、えっと僕は九重ここのえ奏汰かなたって言って、その、初めまして」

「カナタ君? コノカちゃんじゃないの?」

「うっ……」


 私の問いにカナタ君は困った表情をする。


「何か隠し事?」

「うぅ……」


 さらに表情を曇らせる。


「私が聞いちゃダメ?」

「うぅぅ……」


 じぃっと見れば、カナタ君は目をそらす。

 私の隣に立つキド君はあきれた表情でカナタ君を見た。


「ばれてんだし正直に言えば?」

「……、…………、………………わかった」


 カナタ君は悩みに悩んだ後、私の方を見る。


「改めて僕は九重ここのえ奏汰かなた。普段は置網おきあみ心花このかとして過ごしてる。置網おきあみ心花このか人格記録帳パーソナル・メモリーズで作り上げた偽物の姿なんだ」

「にっ、えっ、じゃあコノカちゃんは本当はいない人ってこと?」

「あーうん。まあ、そんな感じ。少なくとも5年2組に通う置網おきあみ心花このかは僕が変身した姿なんだ」

「なんでそんなことを……?」

とおるから聞いたかもしれないけど、僕たちは化け物退治をしなくちゃいけないんだ。でも化け物が出るたびに人格記録帳パーソナル・メモリーズを開いてたんじゃ時間がかかるから、すぐに行動できるよう心花このかの姿になってた」

「コノカちゃんの姿だと戦えるの?」

「戦闘に特化した能力を設定してるからね。今回はとおる心花このかになるっていうから二人いたらおかしいし元の姿に戻ってるけど」


 ほえー、なるほど。

 戦闘に特化……。確かにコノカちゃんは運動神経抜群だ。あの魚人の攻撃をよけるのも簡単なのかも。

 そっか、でもそっか。

 コノカちゃん、本当はいない人なんだ……。

 なんだかさみしい。

 それと同時に、改めてキド君とカナタ君を見る。

 コノカちゃんの姿をしたキド君。これはいつものコノカちゃんと違うから別の人だってすぐ気づいた。荒っぽいけど頼りになる感じ。

 姿は違うけどコノカちゃんに似ているカナタ君。これは、カナタ君の私を見る視線がコノカちゃんとそっくりだから気づけたんだ。なんていうか、優しくて暖かい感じ。

 それぞれを見比べていれば、カナタ君の方と目が合う。


「えっと、僕は結局心花このかじゃないんだけど、いつもみたいに若葉わかばちゃんって呼んでもいいかな」

「えー全然いいよ! 私もカナタ君って呼ぶし」

「そっか。……なんだかいつもより明るいね」

「そうかも。キド君に言われてね、コノカちゃんのロールプレイしてるから」

「へー。……若葉わかばちゃんから見て僕、僕って言うか心花このかってどんな人?」

「明るくてはきはきしてかっこいい人!」

「そ、そっか!」


 カナタ君の顔がぱあっと明るくなる。そんなカナタ君の頭をキド君が軽くたたき、


「話しまとまったんなら、さっさと退治に行くぞ」


 と、前を歩きだした。

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