第3話

 続、放課後の教室内。

 キド君はこんなことを言った。


「ナガタさんは、自分で行動するのとか苦手だろ」

「う、うん……」

「今、そんな消極性を発揮されたら大変まずいことはわかるな」

「うっ。うん……」

「だから、これからナガタさんに変わってもらう言葉を言う」


 そう言ってキド君は私をびしっと指さした。


「今からナガタさんは置網おきあみ心花このかだ」

「?」


 わからなくて、頭をかしげる。


「なりきるんだよ、置網おきあみ心花このかに。そうすれば行動できるだろ」

「なりきるって」

置網おきあみ心花このかがしそうなこと、言いそうなことを考えてする。本当なら人格記録帳パーソナル・メモリーズを使って見た目から能力から、全く別人を作り上げるんだけど、今回は知り合いを参考にするところからしよう。置網おきあみ心花このかのことならある程度想像して演じられるだろ?」

「コノカちゃんを演じる……」

「ああ」


 む、むむ。急に言われても難しくて……。

 悩む私に、キド君が落ち着いた声でこう尋ねてきた。


「例えば、下校中、列の一番後ろで困り顔をしている同級生がいたら置網おきあみ心花このかはどうすると思う?」

「どう……。どうしたの、って聞く……?」


 下校中のことを思い出して、そう答えた。

 キド君は首を縦に振る。


「ああ。じゃあもし放課後の教室で化け物に遭遇したら?」

「──驚くとは思う。でも怯えるだけの私と違ってあの化け物が何なのかとか、逃げる手段とか、いろいろ考える、かな」

「ああ。じゃあ、化け物を倒さないと他の人に危険が及ぶってなったら?」


 言われて考える。

 もしコノカちゃんだったらどうするか。

 まずはこんなことに巻き込まれたことにため息をつくかもしれない。人格記録帳パーソナル・メモリーズなんてものを教室の床に落としてたキド君に文句も言うかも。

 そのあとは、たぶん──。


「みんなを助けるために行動する、と思う」


 混乱とか恐怖とかそっちのけで、他人のために行動するんだ。

 そう行動するだろうコノカちゃんの姿がありありと思い浮かんで、自然に口についていた。

 キド君は私の回答に満足そうな表情を浮かべる。


「よくできました」

「っ」


 コノカちゃんの顔なのに妙に格好良くて、一瞬ドキッとしてしまった。

 キド君はバシッと私の背中をたたく。


「さあ、ナガタさんの心の中の置網おきあみ心花このかに恥をかかせないためにも事態を解決するぞ!」

「う、うん!」


 私のロールプレイングが始まる。

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