第2話

「な、なんのこと? 私、置網おきあみ心花このかだよ」


 コノカちゃんそっくりの女の子はそういう。

 私は彼女の手を取って立ち上がりながら、教えてあげた。


「コノカちゃん、私のこと名前で呼ぶよ。それにコノカちゃんが破ったの左袖だし」

「そんなの知らな──じゃなくて、なんで私が城戸きどとおるだって思ったの? もしかしたら別の人かもよ」

「え、あ、確かに、なんでだろう。なんとなく、かな……」


 偽物コノカちゃんに言われ、自分でも首をかしげる。ただなんとなく思い浮かんだのがその名前だった。

 自分でも明確な理由をこたえられず首をかしげていると、コノカちゃんの顔をしたキド君はひとつため息をついて、くしゃりと前髪を書き上げた。


「鈍そうなやつだと思ったが、適正はありそうだな」


 に、鈍そうって……。

 偽物だとはわかってても、コノカちゃんの顔と声でそう言われると傷つく。

 コノカちゃん、もといキド君はふてぶてしい態度で私に一枚の紙を突き付けた。


「お前、これに答えたろ」


 それはさっき見たプロフィール帳のような紙。

 キド君の態度が怖くて、怯えながら首を縦に振る。


「答えた……」

「一応聞いとくが、これが何かわかるか」

「ううん……」


 首を横に振る。


「────ハア」


 キド君が深い深いため息をついた。

 うぅ、ため息つかれてしまった。きっと私がいけないことしちゃったんだ……。

 私、本当にダメな子だ。

 落ち込む私をよそに、キド君は紙を突き付けたまま説明を始めた。


「これは、思い描いた自分になるための特殊なシート、人格記録帳パーソナル・メモリーズっていうんだ」

「思い描いた自分……!」

「これを使って俺たちは変身する。そして化け物と戦う。化け物退治だ」

「え」


 思い描いた自分、その言葉に惹かれていた私は、化け物退治という言葉を聞いてすぅっと血の気を失う。


「化け物退治ってさっきみたいなやつと戦うってこと……?」

「そうだ」

「な、なんで?」

「選ばれたからに決まってんだろ」

「誰に?」

人格記録帳パーソナル・メモリーズにだよ」

「……? ……!?」


 え、なに、どういうこと?

 紙に選ばれるの?


「おい、何不安がってるんだよ。説明はまだ始めたばかりだぞ」

「だ、だって」


 不安な私に、キド君は不満そうな顔をする。


「世界には普通の人には感知できない化け物が存在している。やつらは俺たちの世界を乗っ取ろうと日々侵攻を進めている。俺たちはそれを防ぐために戦うんだ。──ここまではわかるな?」

「化け物とか言われてもわかんないよぉ」

「……」


 あ、めんどくさいって顔だ。だって化け物って急に言われても……。それに戦うなんて絶対ムリだよ。

 だけどキド君はあきらめてくれない。まくしたてるように説明を続けていく。


「できようができまいが、やるしかないんだ。化け物を倒さないことには、俺たちは学校から出られない」

「!?」

「化け物が街に出ないようこの学校内に結界を張った。出現した化け物を倒し切るまで結界から出られないようになっている」

「え、ええっ!!」

「俺は特殊な道具を持ってるから、倒さなくても結界から出られるけどな」


 それって私を置いて、一人で帰っちゃうってこと……?

 私が涙混じりに偽物コノカちゃんを見れば、偽物コノカちゃんは口角を上げてニカッと笑う。


「どうする? 今なら帰らずに手伝ってやるよ」


 コノカちゃんなら絶対しない表情で笑う。

 こんなの選択肢もないも同然じゃん。

 本当、泣きそう。

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