ハロウィンも大変なのです!

 街は邪悪な怪物達で溢れかえっていた。

 ミノタウロス、ケルベロス、クラーケン、メデューサなどなど、有名な怪物達がたくさんいる。


 こんな凶暴な怪物達がいるのに誰も争ったりはしない。


 そう。

 なぜなら今日はハロウィンだからだ!!!

 仮装したり"キャンディ"を貰ったりとハロウインは楽しい行事だ。


 そしてハロウィンの日は死者の魂が現世に還ってくると言われている。寿命がない悪魔族にとって"死"というものは関係のないものにも思えるが悪魔族は消滅してしまえば死んでしまう。


 私のおばあちゃんも私が小さい頃に神に殺されてしまい消滅してしまった。

 だからこのハロウィンは私にとってもおじいちゃんにとっても大事な日なのだ。


 そして私は消滅してしまったおばあちゃんと大事な大事な約束をしたのを今でも覚えている。

 それはハロウィンの日に"自分の歳の数のキャンディ"をもらうこと。

 その頃のおばあちゃんは自らの死を予言していたのだろう。

 だからまだ小さかった私に寂しい思いをしてほしくないというおばあちゃんの優しい願いから約束を交わしたのだった。

 ハロウィンの日に自分の歳の数分のキャンディをもらえればおばあちゃんの魂が喜んでくれる。

 私はそう信じている。だから私はおばあちゃんと交わした約束を守り続ける。



 おばあちゃんが消滅してからは毎年必ず約束を守り通してきたがそろそろキツイ。

 だって毎年毎年キャンディをもらう数が増えてるんだもん!

 初めの頃はよかったよ。まだ1000個とかだったから。でも、よーく考えたら1000個もすごいけどね!!

 今年のハロウィンは4万7714個もキャンディを貰わなきゃいけない!

 そしていつもみたいに1日以上かけていいものではない。だってハロウィンは今日1日だけだもん!

 だからなんとしてでもあばあちゃんとの約束を守るためにキャンディを集めてみせる。



 そしていつも一人で戦っている私だが、ハロウィンの日だけは強力な助っ人がいる!

 そう!!!

 おじいちゃんだ!!!! おじいちゃんも一緒にキャンディを集めてくれる。

 さらに私たちには兎頭の手下と牛頭の護衛が2人もついているので協力者は多い。

 これなら簡単だと思うが実は簡単には集まらないのだ。


 ハロウィンの日のルール上、仮装していないと飴はもらえない。

 どこまでが仮装なのかというとこれが最低限の仮装のルールらしい。

 つまり、素顔が見えてしまえば仮装にはならいので飴がもらえないということだ。


 こんなに可愛い可愛い悪魔ちゃんのこの私の顔を隠してしまえば、私だと気付く人が少なくなってキャンディがもらいずらくなってしまう。


 いつものそのままの姿でキャンディが欲しいと叫べばあら不思議。2時間もあれば4万7714個くらい勝手にキャンディが集まる。


 でもそんなことはしない! そんなことをしてしまったら消滅してしまったおばあちゃんに失礼だ。

 きっと今もどこかで魂になって私たちを見守ってくれているに違いない。だからこそ今年も正々堂々とキャンディを集めてやる!!!!!



 ウォオオオオオ!!!


 今日の私は気合十分!!!!


 ダァアアアアア!!!


 燃える。燃えている。



 みんなも気になっていると思うけど私の仮装、これは一体なんだって?


 地球人にもわかるように教えてあげよう。

 この仮装は『カボチャの悪魔ちゃん』だ!!!


 滅んでしまった地球にもハロウィンという行事があったらしい。そこでは『カボチャ』の飾り物が多く使われている。

 その『カボチャ』がここ暗黒界にも流行してきたのだ。だから『カボチャの悪魔』は地球の怪物という認識だ。

 カボチャのお面にマントと可愛らしい衣装。お面を取れば可愛い可愛い悪魔ちゃんが顔を出す。ハロウィンは素晴らしい行事だ。


 そしておじいちゃんの仮装は『鎧の騎士』だ! 全身を鎧で纏っている。

 おじいちゃんの体に合うように特注で作ってもらっている。

 歩きずらそうだけどかっこいい。


 護衛について来ている兎頭の悪魔と牛頭の悪魔の2人はおじいちゃんの仮装をしている。

 おじいちゃんはこれでも暗黒界悪魔国家の元国王だ。悪魔族以外には怪物以上に恐ろしいと思われる存在だ。

 だからおじいちゃんの仮装をするのもOKなのだ。むしろおじいちゃんが手下達に仮装するように言っていた。

 手下たちもまんざらでもない表情で嬉しそうに仮装していたので良しとしよう。



 では時間もないので早速"キャンディ"を集めに行こうと思う!!

 まずは地獄街の大広間にでも行ってみよう。あそこなら悪魔族の子供達が多いはずだ。



『Trick or Treat キャンディくれなきゃ滅しちゃうぞ!』


 この掛け声でキャンディを貰うのが暗黒界では普通だ。本当に滅したりはしないので安心して欲しい。



 早速あそこにいるタイラントとゴーレムの仮装をした親子であろう悪魔達にキャンディを貰おう。


『Trick or Treat キャンディくれなきゃ滅しちゃうぞ!』


「は~い どうぞ~」


 小さなゴーレムが小さな手で掴めるだけいっぱいのキャンディを私とおじいちゃん、そして手下に渡してくれた。

 この1回だけで15個もキャンディが集まった。もちろん私もハロウィンの参加者だ。キャンディを貰ったらお返しであげるし声を掛けられればキャンディを渡す。

 そして渡すキャンディの数に制限はない! 無制限だ!

 デヴィル城で用意したキャンディを20個取り出しそのまま小さなゴーレムにあげた。


「ありがとう!!」


 顔は見えないが声からして女の子の悪魔だ。多分満面の笑みで言ったのだろう。

 ゴーレムの仮装から飛び出している尻尾が嬉しそうにブンブン振っている。子供はやっぱり可愛い。



 そして奥の方には海の怪物達の仮装で揃えている子供達が10人もいた。

 その子供達がこちらに寄ってくる。


『Trick or Treat キャンディくれなきゃ滅しちゃうぞ!』


 可愛らしく10人の声は揃ってなくバラバラだ。


「いいよ~みんなそこのおじいちゃん……じゃなくて、モウスーグ元国王様の前に並んでね~!!」


 おじいちゃんの仮装をしている手下の前に並ばせてキャンディを渡し貰うを繰り返す。


「わ~い! いっぱいだ~!!」


「ありがと~カボチャちゃんと鎧さんと元国王様~!!!」


 10人の子供達からは合計40個も貰うことができた。こちらは貰った量よりも少し多めにお返ししている。

 一応悪魔国家の姫だ! 悪魔族の国民に多めに返すのは当然なのだ。


 これで集まったキャンディは合計60個になる。4万7714個までまだまだ遠い。


 それから2時間近く大広間に来る仮装した悪魔達からキャンディを貰い続けた。

 集まったのは約1000個だ。2時間で1000個。

 普通ならもう十分集まったと思うけど私達は"私の年齢分"4万7714個集めなくてはいけないのだ。

 だからここからは本気で集めに行く!!!!!


「おじいちゃんそろそろ本気で集めに行こう!」


「もうやるのじゃな! 孫よ!」


 そのまま私はおじいちゃんに抱きついた。おじいちゃんは好きだけど愛情表現のために抱きついたわけではない。抱きつかなきゃダメな理由がある。


「お前らよ! しっかりと付いて来るんじゃぞ!」


「はい!! モウスーグ様!」


 おじいちゃんは手下の2人に付いて来るように伝えた。

 それから一瞬で姿を消した。瞬間移動しているのだ。

 そして仮装している悪魔を見つければその悪魔の前に止まり


『Trick or Treat キャンディくれなきゃ滅しちゃうぞ!』


 と言いすぐにキャンディを貰いお返しのキャンディを渡す。

 そしてまた瞬間移動をする。

 これの繰り返しで暗黒界に住む全ての悪魔族からキャンディを貰う作戦だ。


 私はおじいちゃんや手下達のように瞬間移動することができない。

 だから私はおじいちゃんに抱きついているのだ。


 移動時間も削減できて効率がいいのだが移動中はかなりキツイ。

 瞬間移動できない私にとっては瞬間移動中の浮遊感が気持ち悪い。乗り物酔いに似た感じの"瞬間移動酔い"というものをしてしまうのだ。

 これも全てはおばあちゃんとの約束を果たすためだ。


「次に行くぞ! 頑張るんじゃ! 孫よ!」


 おじいちゃんの掛け声と共に瞬間移動が始まる。手下達もしっかりとついて来ている。


「ギヤァァアアア!!!!!!!」


 怪物の仮装をしている悪魔の前に瞬間移動!


 そして


「トリックウォオエトリィイトォオゲヴェ……、」


 目が回って気持ち悪い。


 キャンディを貰ってすぐ次へ


「頑張るんじゃ!!」


「イヤァアアアア!!!!!」


 また目の前に怪物の仮装をした悪魔の前に瞬間移動して来た。


「ヴォヴェ……ックヴェエトリーヴォ」



「次じゃ!」


「ヴォギャァアアアアア!!!!!」


「あっちじゃ!」


「ヌグゥェグァアアアアアア!!!!」


「あっちの怪物じゃ!」


「アァアアアァァッァ!!!!!」


「ゼェ……ゼェ……トリックヴォォオオオオオ」


 本当に辛すぎる。

 移動しては吐いて移動しては吐いての繰り返しだ。もう胃に何も残ってない。全部出し切った。


 手下達がキャンディの回収をしてくれるので私は掛け声を言うだけだから、それだけは本当に楽なのだが、この瞬間移動いい加減に慣れたい……

 私は悪魔なのに全く慣れる気配が微塵もない。辛い思いをしてるから拒否反応を起こしているのだと思う。


「ウゲェェ、どれくらい、ゼェ……集まった??」


「エイエーン姫。今のところ4万2890個です」


「もう少しです! 頑張りましょう!」


「あははは……もう少しだ……」


 おじいちゃんと手下達のおかげでキャンディ集めは順調だ。やっぱりすごい。

 私だけだったら絶対こんなに順調にはいかない。あと少しだ。頑張ろう。


 ヴォェエエエエエエエエ


「可愛い可愛い孫よ!! もう少しじゃ!!! 次に行くぞ!!!」


「ウゲェエエエエエエエ!!!!!」


 目の前には全知全能の存在"ゼウス"の仮装をした悪魔がいる。やけにクオリティが高くてリアルだ。


「ゼェ……トリッグェ……ウォエア……トリィドォォ……」


 ん?


 あれ?


 聞こえなかったのかな? キャンディを渡す様子はないな。

 よし、もう一回言ってみよう。


「トリック、うう、オア……トリート……うぅ」


 今度はちゃんと言えた。これで伝わっただろう。


「貴様、モウスーグだな」


 その通り手下はおじいちゃんの仮装をしている。おじいちゃんのファンとかなのかな??


「モウスーグ!! 貴様を消滅させてやる!!!」


 この悪魔すごいゼウスになりきってるじゃん。

 心の中から仮装しててすごいわ!! と言うか面白い!!

 いるんだよね。仮装している怪物になりきる子供って。私も昔やったなぁ。


 あれ?でも待ってこのゼウス、おじいちゃんの仮装をしてる手下達じゃなくて鎧の騎士の仮装をしてる本物のおじいちゃんを見てる気がするんだけど……

 気のせいかな??? 気のせいだよね。


「何を黙っているモウスーグ。貴様だとわかっておる。我が暗黒界に来たことを真っ先に気付くなんて流石だ。今すぐでも暗黒界を滅ぼしてやろう。アポローンの敵討ちだ」



 このゼウス"マジモン"のゼウスだったんですけどー!!!!

 やばいやばいやばい!やばいってどうするんだよ!!!!! というかなんちゅータイミングなんだよ!

 ハロウインの日に来るなんて……みんなが楽しくしている日を狙うなんて策士だ……さすが全知全能の神、ゼウスだ。

 パパもお兄ちゃんもいないし手下2人とおじいちゃんだけで大丈夫なのか?そもそもなんでゼウスが暗黒界に来てるんだよ!!!


「孫が……」


「ん? どうしたモウスーグ。怖くて言葉も出ないか? 貴様の時代はもう終わりだ。貴様の次は貴様の息子。暗黒界悪魔国家の現国王イツマデーモンの命をいただくぞ!」


「孫が、キャンディを……」


「なんだ? キャンディ? なんのことだ? 貴様ふざけてるのか! 今すぐ殺してやろう!!」


「孫がキャンディを欲しがっておるじゃろうが!!!!!!」


 グハァアッツ!!!!!!!!!


 そのまま鎧の騎士の仮装をしたおじいちゃんがゼウスを殴り飛ばした。

 そして殴られたゼウスは黒い炎に包まれながら飛ばされていく。その勢いは全く止まる気配を見せない。

 このままオリンピア神殿にまで飛ばすつもりだろう。


「貴様ァアア!! 覚えてろぉおお!!! 必ず!! 必ず!! 滅ぼしてやる!!!」


 ゼウスは最後に何か言っていたが、飛ばされている勢いがすごすぎて何を言っているかわからなかった。

 というかおじいちゃんマジでつえぇええええ!!!!! 一撃であのゼウスを吹っ飛ばしたぞ。


 そのまま何事もなかったかのように私を担ぎ出し瞬間移動を始めた。


「ギィィイィィヤァアアアアア」


 せっかく酔いが醒めて来たのにまたこの感覚だ。酔いが覚めたのも本物のゼウスが現れたおかげだ。なんとも感謝し辛い相手だ。


「ゼェ……トリック……ウゲェ……トリートォ……」


 ん?

 また反応がない。なんでだ?また神か?

 いやこの悪魔完全に仮装してるぞ。

 じゃあなんで反応がないんだ?

 もう一度言ってみよう。


「トリック……う……オア、ぅ、トリート」


 あれれ?? また反応がない。


「お~い?? 大丈夫?? お~い??」


 なんだ? 立ったまま動かないぞ。

 ふざけてるのか?

 仮装しているからといって元国王と姫の前でここまで無視されたら黙ってられない。


「お~いって言ってるでしょー!!!」


 コウモリ男の仮装をしている悪魔の仮面に手を伸ばす。


「外しちゃうぞ~! いいのかな~???」


 ん?

 それでも反応がないぞ。おかしい。おかしい。

 なんでだ?


「本当に外しちゃうんだから!!!!」


 思いっきり仮面を引っ張って外した。仮面の下に隠れていた顔は……



 え???


「お、お兄ちゃん!!!!!」



 そう。気絶したお兄ちゃんだったのだ。

 仮装している私を見て気絶したのだろう。おそらく声と雰囲気とかでわかったのだと思う。

 もうこのお兄ちゃんはダメだ。シスコンすぎる。



「次じゃ!」


 その掛け声と共に次の悪魔のところに移動した。

 お兄ちゃんは気絶したままだけど問題ないだろう。


「ギィヤァアアアアヴォォォオオオ」


「もう少しじゃ」


「グギギィイイイグギャォオオ」



 ★☆★☆★☆★☆



 おじいちゃん達の協力もあって、あっという間に4万7714個のキャンディを集めることができた。

 今年もおばあちゃんとの約束を守れて私は満足だ。

 ただこのあと1週間近く酔いが醒めなくて寝込んでしまったけどね。



 おばあちゃんは見ててくれていたかな?

 きっと笑顔で見届けてくれたと思う。

 来年のハロウィンも頑張ろう。



「今年も約束を守ってくれてありがとう。可愛い可愛い孫娘よ」



 寝込んでいるときに一瞬だけおばあちゃんの声がした気がする。

 夢でも見ていたのだろうか?

 いや、夢じゃない。おばあちゃんが来てくれたんだ。

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