コレクションも大変なのです!

 私は可愛い可愛い悪魔ちゃん。名前はデヴィル・エイエーン。


 今日はデヴィル城の中を目的もなく歩き回っている。非常に暇なのだ。


 どれ?城にいる悪魔達の行動でも観察するかな?


 私は暇をつぶすために"悪魔観察"を始めた。



 まず見つけたのはおじいちゃんとも仲が良い兎の頭をした手下だ。

 何かを嬉しそうに見ている。なんだろう?



「何見てるの~?」


 後ろからこっそりと声をかけてみた。



「エ、エイエーン姫!!!!」


 手下は驚いた様子でこっちを見ている。


 その手下が見ていたものを拝見してみると……


「これは王冠???」


 箱の中には瓶の蓋などで使われている"王冠"がたっぷり入っていた。その王冠は全て"人参の絵柄"が描かれた同じものばかりだ。


「お、お恥ずかしい。これはその……コ、コレクションであります!!!」


 恥ずかしそうに顔を赤くしながら答えた。


「コレクション???」


 首を傾げる可愛い可愛い悪魔ちゃん。そうこの私。



「はい。ちょうどこの前、目標にしていた数に到達しましたので嬉しくてずっと見ていました。そろそろ時間なのでモウスーグ様のところに戻ります」


 休憩時間だったのだろう、丁寧にお辞儀をして去ろうとする。



 護衛や手下の仕事は大事だ。これ以上、長話をする必要はない。

 だが、私は一つだけ聞きたいことがあった。

 これほどまでに集まった大量の“王冠”は目標にしていた数に到達していると言っている。

 永遠と集め続ければ良いのに、一体目標にしていた数はいくつなのか?

 それだけは気になってしまって仕方がない。

 ここで聞かなかったら、夜ぐっすり眠れずに可愛い私のお顔にクマやシワができてしまう。それだけはなんとしても避けなければならない。


 兎頭の手下の背中に呼びかけてみた。


「目標にしてた数ってどれくらいなの???」


「4万7714個ですよ。では失礼します!」



 へぇ~、4万7714個か~、すごいいっぱいあるんだな~4万7714個。

 う~ん、どこかで聞いたことがある数字だな。

 なんだろう。この胸騒ぎは。4万7714個……4万7714個……4万……


 ハッ!!!!!!!!!


 私は気づいてしまった。兎頭の手下が集めているこの“コレクション”の数!

 私の歳と同じではないか!!!!!

 偶然か? いや、偶然なんてありえない。

 だって目標にしていた数だ。キリが悪くて気持ち悪いだろ。

 それにこのデヴィル城……いや暗黒界の全員が私のことを愛している。好きすぎて頭がおかしいくらいだ。

 それなら私の歳の数を目標の数に設定しててもおかしくはない。


 ま、あの手下はおじいちゃんと仲が良いから何か言われたんだろう。

 きっとそうだ。だがら別の手下のコレクションでも聞きに行こう。



 今日の暇つぶしが"悪魔観察"から"コレクション聞き"に変わった。



 次に会ったのはライオンの頭をした手下だ。会ったというよりは会いに行ったが正しい。

 彼はここデヴィル城の料理長である。だから厨房に行けば会えるのだ。

 見た目からしてコレクションもさぞ良いものを持ってそうだ。


「エイエーン姫! 珍しいですね! このような場所で!」


 滅多に厨房に来ない私を見て驚いた様子だ。


「何かコレクションとかある~??」


 面倒な話は抜きで直接本題に入ろう。


「コレクションですか……もちろんありますよ!!!」


「え? なになに??? 見せて!!!」


「申し訳ございません。自室にて保管しておりますので今は手元にはありません」


 それもそうだ。

 それに厨房にいるということは食事の準備をしているのだろう。

 邪魔しないためにもコレクションがなんなのかだけ聞いてみよう。聞かないと夜も眠れない。


「じゃあその"コレクション"って何かだけ教えてよ~!!!」


「恥ずかしいので誰にも言わないでくださいよ……」


「約束しよう。おじいちゃんに誓って!」


「え~っとですね、コレクションは……『骨』です!!!!」


「ほ、骨????」


「はい。年に1回デヴィル城で"不死鳥の丸焼き"がテーブルに並ぶのはご存知ですよね?」


「もちろん!あれは美味だ。すごく美味しい!たまに年に2回の年もあって嬉しいぞ!」


「ありがとうございます!!そのが私のコレクションでございます!」


「そーなんだーへ~!!!!」


 ん? 待てよ。今なんて言った?

 不死鳥の骨の前になんて言った?



「えーっと、誰が食べたって言った??」


「エイエーン姫でございます!!!!!」


 変態だぁああ!!!!!

 愛を通り越してる!!!


「えーっと、ちなみになんだけど……どれくらい集まったの?」



「4万7714本です!!!」


 私の歳の数ぅううう!!!!!


 知ってた! 知ってたよ!!

 もしかして年に2回出たりしてるのって数を調整してたのか? 確かに記憶を辿ると小さい時から食べたないもんな。

 それにここの料理をずっと担当してるわけもないし、集めるために色々と工夫してたってことか。


 ヤベーよ、いよいよヤベーよ、デヴィル城の悪魔達よ。


「あははは、そうなんだね……また不死鳥の丸焼き楽しみにしてるね」


「はい! エイエーン姫のお口に合うように日々精進いたします。あ、あと恥ずかしいので絶対に誰にも言わないでくださいね……」


 いやいやいや!!!!

 一番バレたらいけない人に言っちゃってるからー!!!

 それに怒られるとかじゃなくて恥ずかしいって理由なのか。


 悪魔にもいろんな趣味があることを改めに実感した。



 次はいつもの白い雌兎の使用人のところに行ってみよう。



 メイド服を着た雌の兎の使用人。彼女は私の身の周りのお世話をいつもしてくれている。


「ねー!!! 何かコレクションしてるのってあるー?」


「はい。ございますよ」


「教えてー教えてー!」


「"手作りのしおり"です!」


 ほぉー、魔本や魔導書などに挟んであるアレじゃないか!!

 女子らしいコレクションだ。

 でもしおりはしおりでもなのかが重要になってくるな。


「手作りって言ってたけどどんなやつなの??」


「これでございます」


 休憩中にいつも読んでいる魔本からそのしおりが取り出された。

 見てみると何かが透明の板に挟まれている。


「妖精のしおりです!!」


 よ、妖精のしおり!!!!!!


 挟まれている何かの正体は妖精だった。もともと生きた妖精だったのだろう。それを捕まえてしおりにしている。


 怖ぇえええええええ


 意外と私の使用人は怖かった!!!!


 で、でも妖精でよかった。妖精は駆除の対象だから。これで邪精霊とかだったら犯罪ものだ!!


 どうせこれも4万7714個あるんだろうな。そう考えるともっと怖いな。そんなに妖精を殺してるってことだもんな。


「ち、ちなみになんだけど……コレクションってことだし、どれくらいあるの?」


「最近で3万4210個になったばかりですね」



 あれ? 4万7714個じゃないんだ。ちょっと自意識過剰になってたな。

 でも私はこんなに可愛い可愛い悪魔ちゃんだし自意識過剰になってもおかしくない。

 でもなんでなんだろう?


 疑問の答えはすぐにやってきた。


「本当はですね4万7714個集めたいのですが"妖精"の数が減ってきてまして、それでなかなか捕まえられなくてですね。早く目標を達成したいと思ってます」


 なるほどね。結局4万7714個が目標だったのか。

 それに妖精がいないんじゃコレクションできないよね。それなら仕方がない。


 ん?


 仕方がないってなんだ?


 あれ? 私喜んでないか??

 自分の年齢の数分のコレクションをしている悪魔達を見て喜んでいないか?



 正直に言おう。



 嬉しい。嬉しすぎる。

 今まで私は歳の数分、大変な思いをしてきた。誕生日も節分も婚約も花火大会も。全部大変だった。

 でも今回は嬉しすぎるではないか。



 どんどん他の悪魔達にも聞きたくなってきた。

 これは面白いぞ!!!!



 次はお兄ちゃんにでも聞いてみよう。

 確か今日は城の中にいるはずだ。探すのは面倒だから呼んでみよう。



 小さい声で一言呟くだけでお兄ちゃんはやってくる。

 試しにいつも以上に小さな声で、「お兄ちゃん」と、ボソッと呟いた。


 すると……


「どうした? エイエーン! お兄ちゃんを呼んだか?」


 1秒で来た! いや、1秒も経ってないぞ!

 すげーシスコンだよ! 逆に尊敬するわ!!!!!

 というかこんなに小声だったのによく聞こえたな! どっかに盗聴具でもあるのか?? 体に埋め込まれてるとか?


 怖いわ!!!


 でもお兄ちゃんのことだからそういう能力なんだろう。シスコン能力とでも言っておこうか。


「お兄ちゃんはコレクションとかなんかあるの?」


「コレクションはあるぞ! お兄ちゃんの部屋にあるから見にくるか?」


「行く行く!!! 見たい!!!」



 歩いてお兄ちゃんの部屋に向かう。

 デヴィル城は広いのでちょっと小走りでもしたいが暇なのでゆっくりと歩こう。


 お兄ちゃんの部屋に入るのは久しぶりだ。

 そもそもお兄ちゃんは何かの行事がある時以外はほとんど城にはいない。

 これでもお兄ちゃんは暗黒界でも最強と言われる戦士だ。パパやおじいちゃんの次に忙しい毎日を送っている。


 そんなお兄ちゃんのコレクションは……



「これだ!!!!」



 部屋の奥にある扉の中にはビッシリと紙が山積みになっていた。

 よくみると「誕生日」「節分」「花火大会」など参加したことがある行事の名前が書かれている。


「これは何????」


「ふふふっ……ついに、エイエーンにも見せる時がきたな!!! 見て驚くなよ!!」


 山積みになっている紙を1枚取って、そのまま私に表面を見せてきた。


「名付けて365だ!!!!!!!」


 名前からしてとんでもないものが登場してしまった!!!


「実はこれ、エイエーンが生まれた時からあるんだ!!! 無い日なんて1日も無いぞ!!!」


 もしかして私が産まれてから今日まで毎日の写真があるってこと?

 手下や召喚悪魔などを使えば転写することなんて容易いが4万7714年間しかも毎日あったなんて知らなかった。


 こればかりは嬉しいよりも引いてしまう。というよりは気持ち悪い!!

 重度のシスコンだ!!!

 程よい愛がちょうど良いんだよお兄ちゃん……、


「どうだ!!! 興味あるだろ? 見ろ!! これが生まれた時のエイエーンだ!! この時から可愛いだろ?? それでこれが生まれてから10日目! これなんてどうだ? 2歳98日目のエイエーンだ。この笑顔がたまらないよな! あとこれとこれとこれ……これは4万7714歳の誕生日のやつだ!!!!」



 すぐに気絶してしまうお兄ちゃんだけどこうやって思い出を共有しているんだな。

 そうでもしないと気絶していてなんも思い出がないもんな。そこだけは同情する。

 ただ毎日はやりすぎだ。あと全然話が終わらない。熱量が半端ない!!!!

 本人に盗撮した写真をこんなに見せている。もう、愛ゆえにお兄ちゃんもおかしいぞ!!

 ここまでくる愛は恐ろしくて仕方がない。怖すぎる。



「で、これがだな2万7821歳67日目のエイエーンだ! この時の髪型は最高級に可愛かった。それでこれも良いぞ……あとこれも見てくれ、それと、あった! 600歳の誕生日!これは今でも覚えてる! それに、こ、れ、な……」



「…………」



 ん? どうしたんだろう?あんなに夢中で話していたのにいきなり動きが止まり沈黙したぞ。


 まさか、いつもの……


 止まったお兄ちゃんの顔を覗き込んだ。



 やっぱりお兄ちゃんは気絶していた。私の可愛い可愛い写真を見すぎて気絶してしまったのだ。

 花火だけでも気絶したんだ。写真で気絶するのもわかってた。むしろここまで気絶しなかったのは意外だった。


 気絶したお兄ちゃんをそのままにして私は歩き出した。


 このあとデヴィル城いる悪魔達にコレクションを聞いて回ったところ、全員が4万7714個の何かを集めていた。

 その数に届いていなくても目標の数字として掲げている悪魔もいた。

 どれだけ私のことが好きなんだ……


 後から聞いた話だとおじいちゃんやパパからの命令ではなく全員自分の意思でコレクションしているそうだ。

 自分の意思でコレクションしているので恥ずかしくて誰にも言っていない悪魔が多かった。

 でも私が悪魔達にコレクションを聞いたことによってコレクション熱が高まってしまったらしく、他の悪魔達にも自分のコレクションを自慢するようになってしまった。

 数少ない悪魔達なので城中でコレクションブームが爆発!


「なんだ俺だけじゃないのか」


「私も4万7714個よ!」


「俺のコレクションは……」


 など城中で大盛り上がりだ。

 話をしたおかげで4万7714個に足りなかった数分を集められて大満足している悪魔もいた。


 中にはまた1から別のコレクションを集め出す悪魔も現れた。もちろん目標にしている数は私の歳と同じ4万7714個だ。


 来年には私はまた1つ歳をとり、4万7715歳になる。

 その時はまたコレクションの数が1個増える。

 それが悪魔達の楽しみみたいだ。



 ちなみにパパとママとおじいちゃんも4万7714個のコレクションがあるらしい。

 お兄ちゃんでもかなりヤバかったコレクションなので聞くのが怖くて聞けていない。

 絶対聞かないほうがいいと悪魔的野生の勘がそう教えてくれている。



 私も何かコレクションを初めてみようかなと思った。

 もちろん私の年齢と同じ4万7714個を目標にしよう。


 歳の数分のコレクションは大変だろうけど達成感はすごいと思う。

 それに今すぐに集めなくても良いので気軽に楽しめる。


 さて、私は何をコレクションしようかな……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る