第20回 頭に「と」のつく映画といえば?

 もしも、この世界にタイムマシンがあったとして、過去に戻った、としましょうか。


 過去の世界では、今より若い自分がいる。


「若い自分に、バッタリ会ったりしないように」と隠れたり逃げたりすれば、それはコメディっぽいストーリーかもしれません。

 あるいは、あえて未来の情報(宝くじや、ギャンブルの当たり番号を教える、など)を若い頃の自分に教えて、未来を改変……そうなると、SFサスペンス、という感じ。


 ですが、肉体ごと時間を越えるのではなく、現在の自分の「意識」だけが、過去の自分の肉体にストンと入るパターンだったら、どうでしょう。


 周囲の人間にとっては、外見が何も変わらないので、


「俺は未来から来たんだよ! 本当なんだよ! 信じてくれ!」

 

 といくら訴えて叫んだところで、ちょっと頭のオカシイ人に見えるかもしれませんね。 


 さて、本題。


 今回は頭に「と」のつく映画、「トランサーズ 未来警察2300」を紹介します。


 1984年のアメリカ映画。監督はチャールズ・バンド、出演はティム・トマーソン、ヘレン・ハント、マイケル・ステファニー、テルマ・ホプキンス、アン・シーモア、アート・ラフルー、リチャード・ハードほか。


 西暦2300年の未来世界から、犯罪者ウィスラーが時間を越えて1985年の世界に逃げてきました。


 ウィスラーは、ロサンゼルス市警のホイッスラー刑事に憑依。

 1985年の世界で、次々と殺人事件を起こします。


 ウィスラーがいたのと同じ未来の世界。

 2300年の未来世界の敏腕刑事・ジャックはウィスラーの凶行を止めるべく、自らも1985年の世界に飛びます。


「要人の確実な暗殺のため、過去に戻って祖先を殺す」という手段を悪党が使ったため、主人公サイドもそれに倣って時代を越えて追いかけるというオカルトSFアクションですが、「この設定、ターミネーターで見たぞ?」とか言っちゃいけません。

 むしろ、この作品の雰囲気は、「ブレードランナー」オマージュっぽいんですから。

 あれ、フォローになってない……のか?


 この作品において、時間を越えるためのアイテムはタイムマシンではなく、「移送薬」と呼ばれる特殊な薬品です。

 行く先の時代を設定した薬品を首筋に注射すると、その時代に生きている「自分の祖先」の肉体に、現在の自分の精神が憑依するという設定。なかなかユニークです。


 時代を超え、ジャックは、1985年に存在したジャーナリスト、フィリップに乗り移ります。フィリップはジャックの遠い祖先、というわけです。

 事情を理解してくれたフィリップの恋人・リーナと共に、ホイッスラーの所在を探る……という流れです。


 自分と同じように時空を飛び越えて“憑依”している人間には、予め準備していた薬を注射すると、移送薬が無効化し、元の時代の肉体に精神を送り返すことができます。


 主人公のジャック(肉体はフィリップ)は、その薬入りの銃弾が入った拳銃を撃つ作戦を練ります。

 人間ひとりのサイズだと、精神だけしか時間移動できませんけど、拳銃みたいな小型の物は、未来世界から物体そのままで転送してもらえるんです。ここ便利。

 で、ウィスラー(肉体はホイッスラー)を撃つつもりでいるわけです。当然、ジャックは自分が元の時代に戻るための薬も、予め準備してあります。


 しかしまあ、事情を知らない人が見れば、「刑事を、いちジャーナリストが撃ち殺そうとしている」という風にしか見えません。これが厄介で。


 自分の祖先の肉体にしか憑依できない、というのが効いていて、主人公のジャックに連絡するために1985年の時代にやってきた上司・マクナルティが、幼女に憑依して「この子しか乗り移れる祖先がいなかったんだ」と愚痴りながら、命令したりするのが面白い。


 外見は幼女、中身は上司。いわば「幼女上司」。なかなかのパワーワードです。


 2300年の未来アイテムとして、車輪が無く空を飛ぶ車とか、特殊な光線銃とか(撃たれたトランサーは赤く発光したあと、灰になる)、装着者以外の時間をスローにする腕時計(1秒を10秒に変換するが、使えるのは数十秒間の1回きり)とか、ガジェットのアイデアも光ります。

 1984年の低予算SF映画なので、エフェクトはまあ、それなりですが、頑張っていると思います。こういうのは、心意気が大事。


 人気があったようで続編が作られ、2002年までシリーズが計7作品もあります。

 ナンバリングタイトルは「6」までですが、1作目と2作目の間に「1.5」があるので、7作品なのです。ややこしい。


 ちなみに、4作目の邦題は「タイム刑事」、5作目の邦題は「あぶないタイム刑事」。

 ふざけとんのかーい。

 あとは英題タイトルそのままだったりして、やっぱり日本では劇場未公開のビデオスルー作品。

 だけど、こういう味わい深い作品、好きなんです。

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