第14回 頭に「せ」のつく映画といえば?

 最近では、水谷豊といえばテレ朝系のロングラン刑事ドラマ「相棒」の右京さん、というイメージが強いですが、若い頃はギラギラした役柄の方が多かった気がします。ショーケンと共演したドラマ「傷だらけの天使」とか、映画でいうなら、次に挙げる作品とか……。


 というわけで、頭に「せ」のつく映画、今回は「青春の殺人者」を紹介します。


 1976年の邦画。監督は長谷川和彦、出演は水谷豊、原田美枝子、内田良平、市原悦子ほか。R-15指定作品です。


 千葉県の空港の近くで、スナックを営む若者・斉木順。


 用事で実家を訪れ、父親と口喧嘩になってしまい、しかも恋人・ケイ子の悪口を言われ「あんな女と付き合うのはやめろ」と言われ、激昂。

 包丁で父を刺し殺してしまいました……。


 直後に帰宅した母は、その状況に悲観して息子から包丁を奪い、無理心中を図ろうとします。

 抵抗するうちに、順は母も殺害。


 スナックに戻った順は、恋人のケイ子に「両親と大喧嘩したから、今日限りで店を閉める」と言って、車で彼女を家に送り届け、一方的に別れを告げ、彼女の前から去ってしまいます。


 実家に戻った順は、懐中電灯の明かりで、両親の遺体を毛布で包んでロープで縛り、なんとかして処分を……と焦っていると、順の行動に不審なものを覚えたケイ子が心配して家に来ました。


 遺体を見つけたケイ子は、警察に通報するでもなく、「順を手伝う」と言い、血で汚れた風呂場を洗います。

 順と2人で遺体を車に乗せ、夜明け前の港で遺体に重りを付けて、海に遺棄します……。


 順はその後、スナックに戻り、店内にガソリンをまいて火を点け、焼身自殺を図りますが、飛び込んできたケイ子に救われます。 

 スナックは勢いよく燃え、野次馬や消防車が集まる中、ケイ子は順の姿がないことに気付きますが……。


 深い理由もなく、行きがかりから両親を殺してしまった青年と、その恋人の末路を描く、残酷な青春ストーリーです。

 

 1974年に実際に起きた親殺し事件を下敷きにした短編小説を元に、脚本は書かれたそうで、ゾクリとする禁忌に触れる、人間の闇の部分にスポットを当てています。


 前半部の母殺しのシーンが、めちゃくちゃ怖いんですよ。


 市原悦子演じる母親が買い物から帰ってきて、


「今日はキュウリが安かったのよー、あんたキュウリ好きだったでしょ」


 とか言いながら玄関先から入ってくると、


「見るな……見るんじゃねえ!」


 と水谷豊演じる順が、血まみれになって佇んでいるわけです。床には父の死体。


 自首してくらあ、という息子に向かって、母親は、


「待ちなさいよ、お父さんが死んで、あんたまでいなくなったら、どうすればいいのよ? 隠しましょう。タイヤのホイールを2、3個つけて海に沈めれば浮かんでこないわよ、ね? そして二人で遠くに逃げましょ? 知らない町で新しい生活を始めるの」


 と、なんだかせいせいして、嬉しそうに夫の死体を運ぶ準備を始めようとします。

 イラッとした順は、


「いちいち指図すんなよ、なあオフクロ、なんかメシ作ってくれよ、ハラ減ってんだよ、喰ったら自首するから」


 と言うのですが、


「自首なんてしないで! あ、そうか……アンタ、お父さんの次はあたしを殺すつもりなのね? だからそんなにのんびりしてんのね?」


 母親は顔色を変え、シーツを広げて目くらまししたあとに、包丁で刺してくるのです!


「ごめんねえ、顔が見えると刺しづらいのよぉー」と言いながら、包丁を何度も突き出してくる市原悦子! とにかく恐ろしい!


 抵抗するうちに、逆にシーツと包丁を奪った順が、マウントを取ります。

 観念した母親は、


「痛くないようにして。お願い。刺すなら、痛くないように」


 と繰り返し、包丁を突き刺すと


「いったーい! 痛いわよバカ! 痛い! 痛い! いたぁーいぃー!」


 と悲鳴を上げ、大量に出血して死ぬ直前に「これでもう、働かなくていいんだ、働かなくていいんだ…」と呟いて、事切れるのです。


 このあたりのシークエンスが、鑑賞後もどよーんと重い記憶として残るのです。トラウマ製造シーンです。


 総括:市原悦子マジこわい。

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