番外編  いつまでこんなこと

パブロ 24歳・医師

絵理 22歳・大学生

絵理の弟の孝司 13歳・中1


絵理とパブロは恋人同士だ。

3人は8年前から一緒に住んでいる。

孝司は、5歳の頃からずっと2人を見て育ってきた。

決して尊敬の目で見てたわけでは無い。

孝司は、いつも2人のために尽力していた。

そして、今日も…



「あのさぁ」

リビングで仕事をしていたパブロに、絵理が低めの声で話しかけた。

「何?」

パブロはパソコンから目を離さずに答えた。

「昨日、早く帰ってきてって言ったよね?」

「あ、ごめん。仕事で」

「仕事?ご飯食べて来たんでしょ?」

「うん。ダメだった?」

パブロは初めて絵理の顔を見た。

絵理の顔は、普段見せないような怒りに満ちた顔をしていた。

「一週間くらい前から、予定あけといてって言ってたのに」

「あ、ごめん」

「誰とご飯行ってたの?」

「え…、職場の人と」

「…誰?」

「え…、酒谷さんとか…」

「とか…?」

「何人かで」

「女の子いたでしょ?」

「あぁ…。でも、一緒に行く予定ではなくて、たまたま店で会って一緒に食べる事になって…」

「…私は淋しく待っていたのに、あなたは女の子と楽しくご飯食べてたわけですか」

「ごめん」

「私の事、どう思ってるの?」

「…」

「大事に思ってる?」

「うん」

「じゃ、言葉で言ってよ」

(恥ずかしいな) 

「…」

「私の事大事に思ってないわ、私の知らない所で、女と飲むわ…」

絵理は泣き出した。

「ごめん…」

「もう、いいよ…」

「…」

「私も大学の男友達と2人でご飯食べに行くから」

「え?!」

「パブロもしてんだから、別にいいでしょ」「何で?しかも2人って…。俺は、たまたま一緒に食べる事になっただけだって」

パブロは焦って言った。

「…私だって、たまたま一緒に食べる事になったって事でご飯食べに行くよ」

「意味わかんねー」

「パブロがした事と同じ事したって文句は言えないでしょ?」

「絵理こそ、俺を大事に思ってないじゃん」「思ってるよ」

「じゃ、なんで」

「大事に思ってる。例え誰かとご飯行ったとしても大事には思ってるよ」

絵理は皮肉を込めて言った。

「おい…。やめろよ」

「うるさい」

「やめろって」

「やめない」



「あのさぁ…」

孝司が部屋から出てきた。

「孝司…」

「声大き過ぎ」

「ごめん」

「…パブロ兄ちゃん。絵理が何で昨日早く帰って来て欲しかったか知ってる?」

「いや…」

「何か知らんけど、記念日なんでしょ?」

孝司は絵理に聞いた。

「うん…」

「そうなの?何の?」

「初めて会った日」

「…微妙。だけど、パブロ兄ちゃんとご飯に行きたかったんだよね?」

絵理は頷いた。

「パブロ兄ちゃんはとりあえずちゃんと謝れよ」

「すいませんでした」

「で、絵理はちゃんとその事伝えてないから」

「…」

「で、謝ってくれたんだから、もう男とご飯食べに行くとか子供っぽい事言わないでよ」

「はい…」

「わかった?」

「はい…」

「じゃ、ケンカ終わり」

「はい…」

「俺、いつまでこんな事させられんの?」

孝司は2人を睨んで、部屋に入って行った。

絵理とパブロは恥ずかしくてうつむいた。

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